| 『Little Smile』 それは、特別どうという時でもなかった。 ただ、偶然、彼、成歩堂龍一と出会っただけ。 だが、彼は不思議そうに私の顔を見た。 「なー、御剣、お前さー」 私の顔をじっと見てくる。それが恥ずかしいのと疎ましいので、顔を背けた。 それが、彼には気にくわないらしい。 「ねえ、君、僕の話きいてんの？」 そう言いながら、私のそむけた方向に自らも移動してくる。 そして、次の瞬間。 彼の両手は私の顔に伸びると……そのまま頬をつかみ、びろんとひっぱった。 「にゃ、にゃ、にゃにお……」 「おっと、ごめん、ごめん」 私の怒りの拳に気がついたのか、成歩堂は私の頬から手を離した。 「……なにをしたいのだ、君は」 私は、先程からの奇行を問いただす。 そんな私の心を知ってか知らずか、成歩堂は呑気に笑って見せた。 「君ってさ、無表情だなって思ったんだ」 ……無表情。それは自覚がある。こうなってしまったのも、色々な事が積み重なった結果でもあるのだが。 成歩堂は本当に表情がくるくる変わる。法廷でも彼の百面相は見事なものだ。 そして、ふてぶてしく笑うのだ。窮地に立てば立つほど。 「少しくらい笑えばいいのにって思ってさ」 成歩堂が言葉を続ける。 笑う？ 「たまには笑うと思うが……」 「あれだろ、それ。法廷で見せる嫌味な笑い」 ……嫌味なのだろうか。 というか、今までの言葉を結合すると、私は成歩堂に『いつも無表情で、笑いが嫌味な男』と思われている事になる。 ……それは、子供の頃から忘れらない友人に思われたくない認識である。 「君さ、楽しくとか優しくとか笑えないの？」 「……そんなことは、ない、ハズだ、多分」 「……多分て……」 自分でも情けない返答なのだが、楽しく笑った記憶が乏しい。 成歩堂の方は、私の顔をじっと見て考えている。 「……くすぐってみるとか」 「……張り倒されたいのか、君は」 「ちぇ、やっぱ駄目か〜」 私のぎろっとした視線で彼は、いたずらが失敗した子供のような顔をする。 なんだかその表情が可愛らしく見えて、私の口元が一瞬緩んだ。 「あ」 「なにが、あ、なのだ」 何かを目に留めたらしく、成歩堂が驚いた顔をした。それに、私はむっとして答える。 「……今、ちょっと笑った？」 「君の見間違いだろう」 成歩堂の言葉に、私はにべもなく答えた。 「そうかな〜。でも、君、もっと笑う練習したほうがいいよ」 「余計なお世話だ」 私はむっとしてそう答える。その言葉に成歩堂は肩を竦めてみせた。 ……だが、私も知っている。 私は確かに微笑んだのだ。あの時、一瞬だけ。 だが、それは内緒なのだ。 この顔を見せられるのは、君、だけなのだから。 御剣＆成歩堂です。っていうかミツナルだよ、これ。 みっちゃんて法廷では百面相だけど、普段は笑わないというか、むっつりした顔ばかりだな〜と思って思いついた話です。 御剣さんにとって成歩堂くんは特別な人だと思うので。彼の前なら不自然じゃないふわっとした笑みを浮かべてくれるかなあと。そんな感じの話です。 |