『DEAR MY FRIENDS』

 成歩堂龍一という人間は、限界を知らないのかもしれない。
 私に弁護士バッチを渡し、ばれないように、あやめという人の弁護をした。
 冥にも連絡して協力してもらったのだが、冥は成歩堂と裁判に望めると思っていたらしく、始終機嫌が悪かったが、成歩堂の状況を知り、手伝ってくれた。あの冥にしては珍しく可愛らしかったかもしれない。
 全ての裁判を、高熱を出しながら、弁護し、春美君を連れに行ったりしたのが祟ったのだろう。糸鋸刑事が用意してくれた祝いの席には行くことは無く、そのまま病院で入院した。限界が来たのだろう。
 見舞いにと、堀田クリニックを訪れた時、成歩堂は眠っていた。側で、真宵君が花をいけたり、世話をしている。
「あ、みつるぎ検事。なるほど君のお見舞い?」
 彼女が私に気がついて、嬉しそうににっこりと笑った。見舞いにと渡した洋菓子は、成歩堂用ではなく看病をしている彼女達への差し入れでもあった。成歩堂が食べられるように回復するまではまだ日がかかるだろう。彼が元気になった頃には、私はここにはもう居ない。急な出来事だったので、仕事が残ったままなのだ。
「はい、みつるぎ検事。ここの椅子、小さいけどこれくらいしかないから、かけてね」
 真宵君は嬉しそうに洋菓子の包みを受け取るとにっこり笑った。
「でも、みつるぎ検事が来てくれて、本当に助かったよ。なるほど君まで倒れちゃって……。あたしはそこに居なかったから、経緯はあんまり良く知らないんだけど」
 そう言いながら花瓶に花を綺麗に飾っている。
「なるほど君ねえ、あたしの事心配して、こんなになっちゃったみたいなんだ。なるほど君、ちょっと抜けてるところがあるから、余計酷くなっちゃったんだね」
 真宵君は別のところから、がさがさと包みを開け、小さな和菓子を差し出した。
「はい、お菓子。食べてね」
 そう言って笑うと、自分も椅子に腰をかけた。
「あたしね、なるほど君にはもう何度も助けて貰ってるんだ。
 初めて会った時は、あたしが殺人容疑者だったし。
 今回の綾里家の騒ぎも……なるほど君がいたから解決したんだよ。
 ……ゴドー検事は、あたしを守ってくれたために刑務所に行ってしまったし。なんか、あたし、みんなに守ってもらってばかりだなって」
「真宵君が気にすることは無い。そもそも、成歩堂が注意力散漫だったのがいけなかったのだ」
 私の言葉に、彼女はにっこりと笑った。
「ありがとう、みつるぎ検事。それとかるま検事にも。
 あたしの恩人は一杯いるね。だけど、あたしにとっての一番はやっぱりなるほど君だと思う。いつも全力で心配してくれて……。お姉ちゃんが死んだ時、誰にも弁護してもらえない時に、なるほど君が引き受けてくれた。
 いつも、あたしを守ってくれるのはなるほど君なんだよ」
 そう言って、真宵君は成歩堂の顔をじっと見ていた。優しい目で。
「そうだ、みつるぎ検事はいつ帰るの?」
「ああ、明日発つ予定だ。無理やり飛んできてしまったからな。せめて成歩堂の目が覚めるまでは居てやりたかったのだがな」
 そう言ってから、私は真宵君の疲れに気がついた。ずっと側で看病していたのだろう。
「真宵君。今日はもう少しここにいるつもりだから、一度戻って休むといい。成歩堂なら私が看ているから」
 私の言葉に、真宵君は安心した顔を見せた。
「よかった。実はね、はみちゃんが小さいからここの病室に入れなくて。
 大人の病気にかかったり、子供の病気を運んだりするからなんだって。
 はみちゃん、真面目だから凄くなるほど君の事心配してて、いつ、抜け出そうかと思ってたところだったんだ。
 ありがとう、みつるぎ検事」
 彼女は微笑むと、簡単に身をつくろって、病室から出て行った。
 成歩堂はと見ると、少し熱が下がったのか、穏やかな顔つきをしていた。
 全くもって無茶をする。あの高熱の中、戦い抜いたのは真宵君のためだろう。他人の私の目からでも分かる。大切な存在なのだろう、そう思うと羨ましい気もするが。
「御剣怜侍、あなたもここに来ていたの?」
 気の強い性格のままの語調で、新たな見舞い客がやって来る。
 冥だ。
「まだ、眠ってるのね」
 成歩堂の顔を覗き込んで、冥は残念そうに微笑んだ。
「時間がせってる中で、なんとか来れたけど……言葉も交わせないなんて残念だわ」
 冥は私にチューリップの花束を渡す。
「レイジ、貴方はまだここに居るつもりなのでしょう?この花、生けておいて」
「そんなに時間が無いのか?」
 私の言葉に冥は不満そうな顔をした。
「同じ海外から呼び出されたのに滞在時間が貴方と私でこんなに違うのも実力の差かしら。もうすぐの便で帰らないと間に合わないのよ」
 私に不満をぶつけて、冥は成歩堂の額に手を当てる。そんなに熱くなかったのか、冥は安心した顔をしていた。
「次に会う時は、法廷で」
 そう言うと、冥は私に目で別れを告げると、立ち去っていった。
 成歩堂龍一という人間は、本当に誰しも愛されているのだと思う。それは彼のひたむきな性格と優しさと強さを持っているからなのだろう。
 冥がそのいい例だ。冥が心を開いている相手はほとんど居ない。それが、見舞いにまで顔を出すくらいになっているのだ。大きな変化だ。
 私もそのいい例だろう。彼が居なかったら、今の自分はいない。
 そんな事を考えながら、窓からの日差しをあびて、いつの間にかうとうととしていた。


「あ、目、覚ました?」
 はっと気がつくと、成歩堂がこちらを見て、少し笑った。それから、ゆっくり身体を起こす。
「大丈夫なのか?」
 私の言葉に、成歩堂は笑って見せた。
「大丈夫、大丈夫、起きるくらいはなんとかなるから。
 御剣、仕事は大丈夫なのか?僕のせいで随分迷惑かけちゃったけど……」
 そう言ってから、彼は照れくさそうな顔をした。
「でも、御剣が見舞いに来てくれるなんて、嬉しいな」
 あまりにもストレートな言葉に、私は次の言葉が出てこなかった。そんな私のことを気にせず、成歩堂は辺りを見回す。そして、花瓶を見てにっこり笑った。
「狩魔検事も来てくれたんだ。僕、眠ってて悪いことしたな」
「ああ、確かにメイも来たが……何故、それが分かる?」
 私の疑問に彼は当たり前じゃないか、という顔をした。
「そこの花瓶のチューリップ。前、狩魔検事の見舞いに来た時に僕が持ってきていたチューリップとおんなじ。だから、彼女が来てくれたんだなって、分かる」
 よく相手を見ているものだ。確か、あの時は冥が追い払うようにして成歩堂を追い返したが、それにも関わらずよく覚えているものだ。それを言えば、それを選んだ冥もよく覚えていた……まあ、覚えていても当然とも言えるが。
「真宵ちゃんは帰ったんだ?春美ちゃんがいるし。
 真宵ちゃんも疲れていると思うのに、元気に頑張ってくれてて申し訳ないな。
 早く僕も元気にならなくちゃ。色々やることはあるし、ゴドー検事……神乃木さんにも会わないと」
 半分、自分でやることを確認しながら、成歩堂は自嘲気味に話した。
「君は?どのくらい、こちらに居られるの?」
 成歩堂は私を見上げながら、そう聞いてくる。私はそれにゆっくりと答えた。
「明日の朝、発つ。最後に君に会っておきたかったんだ」
「そっか。急だったものな。本当にありがとう、御剣。感謝してる」
「あ、ああ」
 改めてそう言われると照れくさい。
「今度会うときは、みんなでどこかに美味しいものでも食べに行こうよ」
 成歩堂の言葉に、「ああ」と返す。
 彼がまたうつらうつらしてきた。再び身体をベッドに預ける。
「ごめん、また寝ちゃいそう。本当にありがとう、御剣」
 そう言うと彼は再び目を閉じた。
 短い会話。だけど、それは貴重な時間だ。
 今日は、面会時間一杯まで側についていよう。
 そう思って、私は椅子に背を預けた。


終わり。


前からちょっと書いてみたかった、3の後日談。春美ちゃん回収したところで、成歩堂くんはダウンすると思うんですが……ずっと高熱だしっぱなしで無理していた訳だから。
書きながら、私、マヨナルも好きだよなーと思いました。
一応、ミツナル、マヨナル、メイナルの混ざった話。
4はまだ遊んでないのでみぬきちゃんとの関係にどうはまるかが自分でも不明。
でも、多分、成歩堂くんが愛されてたらそれでいい人ですね、私。
始め、3人称でいこうかと思ってたんですが、全ての時間、一緒にいる御剣さん視点で書いてみました。私のミツナルは両方おくてで友達以上恋人未満な感じなので、こんな仕上がりに。で、私、本来ノーマル好きなのでマヨナルとメイナルも捨てがたいのです。最近、どれが本命なのかわかんなくなってきつつあります。

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