『小人な生活』 全く一体どうしてこんな事になったのだろう。 マリーに頼まれて、薬の実験体になって、謎の液体を飲んで……。 最初の感覚はめまいだった。 やっぱり失敗したんだな。俺はこれからどうなるんだ?そんな事を考えている間に意識がくらくらとして何だか分からなくなった。 そして……意識が戻った時……目の前が真っ暗だった。上から光が零れてくる。 「ルーウェーン、大丈夫〜?」 上のほうからマリーの声が聞こえてくる。 俺はふと、辺りの様子を見た。暗くてよく分からないが、周りは壁に包まれて……上の方に見える緑のマントは俺のマントに似ている。 いや、まて、なんかおかしいだろ、これ。 異変に気付き、俺はふと自分の身体を見た。 全裸だ。 「うわ〜?!何がどうなってんだ、これ!」 悲鳴を上げると、マリーの声が聞こえてくる。 「あ〜、良かった。無事だったんだ。ルーウェンね〜、小さくなっちゃったのよ。 今、鎧の中〜?じゃあとりあえず、これを持ち上げて……」 「だ〜!待ったあ!とりあえず何か着るものをくれ〜!」 小さくなっているとはいえ、裸は裸だ。見られたくない。 あ、そっかあ、と呑気な声が聞こえてきて何かがほうり投げられてきた。 妖精の服だ。 俺はとりあえず、放り込まれたその服を着てみる。 ……でかい。あの妖精の服がはてしなくでかい。どのくらい縮んでんだよ、俺。 「ルーウェーン、着た〜?」 「……まあ、着た、と思う」 それしか言いようがない。 「じゃあ、気をつけてどけるね〜」 がさっと大きな音がして目の前の壁(おそらく鎧)が持ち上がって、布地(おそらく上着とズボンだろう)が通り過ぎて当たり一面が明るくなる。 そして大きなマリーの顔が見えた。半端じゃない大きさで。 「あら、こんなに小さくなっちゃったのね」 マリーも予想していなかった大きさなのだろう。妖精の服の海にのまれているであろう、俺の姿を。 「あはは、ごめんね〜……ってレベルじゃない、よ、ねえ」 さすがのマリーでも反省したらしい。 「……これ、元に戻る、んだよな?」 一応、確認をする。 「あはは、ごめんね〜、頑張ってみる〜」 マリーが情け無さそうな顔でそう言う。俺は、大きなため息をつく他なかった。 数時間後、俺は身体にぴったりとした服を貰った。 さすがに途方にくれたマリーはシアにヘルプを求めたのだ。 シアも今回はそうとうあきれた顔をして、俺に同情の目を見せてくれた。 彼女は簡単なものなら……と、ちくちく布地を縫ってくれたのだ。マリーに比べて器用なものだ。 「それにしても、災難だったわね、ルーウェンさん」 やっと一息ついている俺に二人の女性が見下ろしている。こんなに人間の顔って大きかっただろうか。 「……まあ、いつものことだから」 そう零した俺にマリーが顔をしかめる。 「なあに、ルーウェン、何言ってるか聞こえな〜い」 そうなのだ。身体が小さくなったから、俺の声も普通に出したのでは聞こえないのだ。反対にマリー達の声は大きい。 ……っていうか、俺ってどのくらい縮んでるんだろ。聞いてみようか。 「俺はどのくらいの大きさになってるんだ?」 その問いにシアが答える。 「4〜5cmくらい……丁度小指くらいかしら」 ……小指って、どんだけ縮んでるんだよ、俺。どうりで、周りのものがでかい訳だよ。 「でも結構可愛いわよ、ルーウェン」 マリーがにこやかに笑う。……いや、可愛いとかそういう問題じゃないんですけど。 「なんか見慣れたら、ペットみたい。このまま飼っちゃおうかな」 「待て、待て、待て!」 話が違う方向に流れてる! っていうか、治してもらえるんじゃなかったのか?! 「冗談よ、冗談」 マリーは笑っているが、半分本気のような気がする。というか、このサイズで外に出るのは危ないので、マリーの家でやっかいになるしかない。 ……本当に飼われそうだ。 なんでいつもこんな目に遭ってるんだろう……。頼まれると断れない自分の性格をうらむばかりだ。 「でも、これからどうするの?」 シアが心配そうに聞いている。マリーがそれに困った顔をした。 「そうなのよね。このままじゃ、誰に踏み潰されるか分からないし」 ……そうだ、小指サイズなのだ。誰にも何もマリーに潰される可能性だってあるわけじゃないか! 相手はマリーだ。十分ありえる。 だんだん事の恐ろしさが分かってきて、俺は血の気がひいた。 だって、マリーの部屋って大抵片付いてないし、ゴミとか虫とかに間違えられて踏まれてもおかしくない。 これって、今までの薬品実験の中で一番やばい展開なんじゃないのか? 「お人形用の食器とかあるけど、それ貸しましょうか?」 「あ、それ助かる。ありがと、シア」 人形っていったら、あれだよな。女の子が持ってる小さな人形。 でもさ、俺のサイズいくつだと思う?小指だぜ? ……つまり、人形用でも大きいんだ。 いくら縮むとはいってもここまで小さくならなくても良いのに。 「じゃあ、私、使えそうなもの、持ってくるわね」 シアが立ち上がり、工房を後にする。とにかく、ある程度のものは揃うようだ。……それでもでかいのだが。まさか女の子のおもちゃにお世話になる日が来るなんて思ってもみなかった。 人生、経験が一番だというが、俺の場合、余計な経験のような気がする。 「さて、ルーウェンをひとまず、安定した場所に移して、と」 マリーは言うが早いか、俺の身体をすくい取り、近くにあった比較的綺麗なテーブルの上に乗せられた。 「そこなら大丈夫でしょ?テーブルから落っこちないようにね」 うん、恐ろしくて移動できない。マリーの注意に、俺は深く頷いた。 テーブルの上にも勿論本や材料が積まれていて、ルーウェンが移された周囲だけが比較的綺麗な方だ。本の山にむかったら潰されて死ぬだろうか。 このどうしようもない状態にルーウェンは、深く深くため息をついた。 安全な場所がここには無い。かといってこの姿を世間に晒すのもためらわれる。やはりマリーの家にやっかいになる他ないだろう。 「ごめんね、ルーウェン。本当は妖精さんくらいの大きさにするつもりだったんだけど、分量間違えたみたい」 いや、マリーの失敗は身に染みてよく分かってるけどさ。 今回は戻るまでに長期戦になりそうな気がする。 「まあ、その大きさなら食費もかからないしー、ルーウェンと二人暮しってのも初めてだしー、なんとかなるっていうかなんとか大丈夫だと思うし」 「マリーが俺を踏まなければな」 そのコトバにマリーは、えへへと笑った。 こうして、俺の小人の話はここからようやく始まるのだ。 元はゼストのドラマCDのネタです。その前後、書いてみたら楽しいかなと思いまして。大きさに問題がありますが、マリーとルーウェンが一つ屋根の下に!というシチュエーションは、私にはたまらなくツボでした。どんな生活してたのか、妄想が膨らみます。 |