| 『ウィズのザールブルグ日記』 その１ 「だだいま〜、マリーお姉ちゃん」 「こんちは〜、お邪魔しま〜す」 マルローネの工房にウィズが元気良く帰って来る。護衛についていたルーウェンが一緒に入ってくる。二人は色々な材料や素材の一杯に入った大きなカゴを工房の調合鍋の近くに下ろした。 「おかえりなさ〜い」 奥からマルローネが出迎えに出てくる。 「お姉ちゃん、見て見て、いっぱい採ってきたんだよ！」 ウィズは自慢げにカゴの前に立って胸をはった。カゴの中には木やキノコや石などがごろごろと山盛りに入っている。 「うわ、すっご〜い。重たかったでしょう？」 「うん、だからルーウェンに手伝って貰ったんだ」 笑顔でウィズがルーウェンを見る。ルーウェンは、よっとマルローネに笑いかけた。 「ルーウェン、ありがと〜。ウィズ一人じゃ無理だったよ」 「いやいや、マリーの時から慣れてるから」 ウィズもマリーもカゴから溢れるくらい入れるんだよな、とルーウェンはマルローネとウィズを交互に見ながら笑う。マルローネとウィズは視線を合わせてきょとんとする。 「カゴいっぱい入れるのはあたりまえだよね？」 「うん、そうだよね。それに持って帰るの手伝って貰えるし」 「手伝ってもらう事は前提なんだな」 それを見てルーウェンが苦笑する。なんというか、マルローネとウィズは性格がなんだかんだ似ている。親子に見られるのも無理はない気がする。 「護衛頼んでると荷物を持って帰るの手伝ってもらえるし、材料は探してもらえるし、良い事ずくめだよね」 「ね、お姉ちゃん」 護衛はどうやら荷物持ちだと思われているようだ。 「一応、モンスターや凶暴な動物から守るのが仕事なんだけどな」 とりあえず反論してみる。ルーウェンの言い分に、マルローネとウィズは顔を見合わせる。 「モンスターとかはなんとかなるし、ねえ」 「……いや、それはお姉ちゃんだけだよ」 火の玉マリーの異名を持つマルローネの言葉に、ウィズは青くなり、ルーウェンは苦笑した。 「僕、全然弱いからなあ……」 「大丈夫、ウィズもそのうち強くなるって」 マルローネは笑顔でそう笑いかける。その笑顔を見てルーウェンは昔の事を思い出した。最初の頃こそ、非力で回復などをしていた彼女だが、クラフトやフラムを投げて敵を蹴散らすようになり、強大な魔法力で敵を吹っ飛ばす、とんでもない人物になったのだ。 ……最初の頃は俺の方が強かったんだけどな。 そう思いながらウィズを見やる。 火の玉マリーの弟子ウィズは火の玉ウィズになるのだろうか。 ……それはちょっと嫌だな。 そんな事を考えているルーウェンに、マルローネが気付く。 「ちょっと、ルーウェン、何か言いたそうな顔ね」 「いやいや、なんでもない、なんでもない」 ルーウェンは両手を振って、そう言う。 「そうなの？……そうかしら？」 疑い深そうに自分をじっと見るマルローネにルーウェンはたじろぐ。これは話題を変えたほうが良さそうだ。 「と、ところでウィズは今、どのくらいまで調合できるんだ？」 「え、僕？」 いきなり話題をふられてウィズはきょとんとする。そして、本棚のところから一冊本を抜き出してぺらぺらとめくる。 「んと、ね。中和剤とか、蒸留水とか、燃える砂とか、研磨剤とかかな」 「んじゃあ、まだ初歩段階なのか」 ルーウェンはウィズの本を覗き込む。本というよりはノートに近く色々な書き込みがある。 その中で妙な書き込みがあるのに気付いた。器具の前に×が書いてあるのだ。 「なんだ、それ？」 ルーウェンはウィズの本に覗き込んで、×の部分をトントンと叩く。 「あ、それ？器具が無いの」 けろっとして答えるウィズにルーウェンは思わずマルローネを指を突きつけた。 「器具くらい貸してやれよ！」 「あ、あたしだって使ってるんだもん！」 マルローネも慌てて反撃する。ルーウェンは怪訝としたままだ。 「使ってるっていったって、全部使ってる訳じゃないだろ？」 「う、そ、それはそうだけど……」 今度はマルローネがルーウェンに向かって指を突きつけた。 「あ、甘やかしちゃ駄目なのよ！ 自分の使うものは全部自分のお金で買わなきゃ！」 びしいっと言う彼女にルーウェンはあきれた顔をする。 「変な所でスパルタだな」 「いいのよ！あたしの教育方針なんだから！」 教育方針も何も無いような気がするが、マルローネは堂々と胸を張る。その姿にルーウェンは肩をすくめた。そして、ウィズの頭をぽんぽんと軽く叩く。 「苦労するな、お前」 「ん〜〜、僕、苦労してるのかなあ？」 渦中の本人は、自分の現状を理解していないようである。ウィズのその様子にルーウェンは苦笑せざるをえなかった。それを見てマルローネはむっとする。 「ちょっと、ウィズ、いい？」 「なあに、お姉ちゃん」 「あたしの事、好き？」 「うん、大好き」 にっこりと大きく頷くウィズをマルローネは抱きしめる。 「ほら、あたしの愛は伝わってるわよ！」 きっとした顔でそう言い放つマルローネにルーウェンは苦い顔のまま笑った。 「……そういう問題でもないと思うんだけどね」 ま、いいや。そう言ってルーウェンは肩をすくめる。 「んじゃ、今日はこれで俺は帰るわ。また声かけてくれよ」 ざっと自分の荷物を引き寄せて、ルーウェンはドアノブに片手で手をかけてもう片方の手を振る。 「あ、うん。ありがと、ルーウェン」 ウィズが手を振る。それを確認してからルーウェンは出て行った。 ウィズを抱きかかえたままで、マルローネが、あ、と言葉を零す。 「……夕飯、誘うの忘れた」 「ええ？！じゃあ、追いかけないと……」 慌てて走り出そうとするウィズをマルローネはがしっと引き止める。 「駄目、なんか今日は色々文句言われそうだから嫌」 「え〜、なにそれ？」 なんだかよく分からない理由を述べられてウィズが妙な顔をする。だがマルローネの顔は本気で言っているのは確かだった。 「駄目だよ、お姉ちゃん。お友達は大事にしなきゃ」 ウィズが胸をはってそう言う。その姿にマリーはがっくりとうなだれた。 「……明日からそうします」 今日は入らないらしい。 今日はいつも通り、マルローネと二人の食事なのか。 残念。そうウィズは思った。 「じゃあ、次は一緒ね」 「うん、分かった」 マルローネは笑うとウィズの頭をぐりぐりと撫でたのだった。 終。 ルーマリ連載になる予定です。多分。 日常的などーでもいい話を書けたらと思います。 どこらへんがルーマリやねん…と言われそうなんですがルーマリなんです、多分。 らぶな話書けんのよ、ルーマリ……。 |