『王子様はいずこ』


 小さい頃の定番と言ったら将来の夢だ。
 子供の夢は果てしない。色んな事に憧れては、それを夢見る。
 レベッカの夢もその類だった。
『私、白馬に乗った王子様と結婚するの!』
 絵本で読んだ王子様にすっかり心を奪われた彼女がそう言ったとき、ダンと二人で腹を抱えて笑ったものだった。
 そんな現実感の無い話。あるはずがないのだ。
 笑われてレベッカは頬をふくらませていたけれど、子供っぽい夢だとそう思ったものだった。
 まさか、本当に彼女の前に白馬に乗った王子様が現れるなんて、レベッカだって予想はしていなかっただろう。
 しかし、それは現実に起きたのだった。


「ねえ、ねえ!聞いてよ、ウィル!」
 緑のおさげの髪の幼馴染が、いつもと違って上気した頬で声をかけてきたのは、黒の牙との対決ももう終末に向かおうとしていた時のことだった。
 顔は真っ赤で、息も上がっている。非常に興奮している事は鈍感なウィルが見てもはっきりと分かるほどだった。
「ど、どうしたんだよ?」
 あまりにもレベッカが興奮しているので、ウィルもさすがにたじろぐ。一体、何があったというのだろうか。
 しかし、ウィルの心配をよそにレベッカは興奮したままで、上手く言葉に出来ないらしく、言いかけては詰まり、そして思い出しては顔を真っ赤にして……とにかく様子がただ事では無かった。
「あ……あのね!は、白馬の王子様が居たの!!」
 真っ赤になったレベッカが言った言葉にウィルは何がなんだか分からず、思考が停止した。
 白馬に乗った王子様?
 高速で最近軍に参加した人達を思い浮かべてみる。
 白馬……白馬に乗った騎士ならマーカス将軍やイサドラ将軍が居る。しかし、マーカス将軍は王子様というには歳がいっているし、イサドラ将軍にいたっては女性だから性別も違う。もう一人フェレにはハーケン将軍が居るが、彼は勇者であり馬には乗って居ない。
 ……誰?
 必死で考える。馬…馬に乗っていて白い馬に変わった人達も居る。セインやケント、ロウエンも確かそうだったか。だが、彼らが騎士である事はレベッカは百も承知だ。
 だが、レベッカは夢見心地の顔で陶酔しきった状態だった。余程、理想の人に出会ったに違いない。
「……そ、それ……誰?」
 おずおずとウィルは尋ねる。どうしてもその相手が気になって仕方が無かった。
 その言葉にレベッカはちょっと驚いた顔をすると、満面の笑みで微笑んだ。
「エリウッド様に決まっているじゃない!
 白馬に乗ってらっしゃる姿……本当に絵本に出てきた王子様そっくり!
 しかも、私が見ているのに気がついて声までかけてくださったの〜!」
 すっかりレベッカは夢の中の人になっていた。
 憧れのフェレの公子エリウッド、その彼が夢見ていた姿で現れ、声までかけてくれればレベッカが夢の世界に入ってしまうのは当然だろう。
 そういえば、エリウッド公子が白馬に乗っているという話は聞いていたような気がする。
 エリウッド公子。
 ウィルの故郷を含むフェレの領地を治めるエルバート公の子息、エリウッド。その品の良さ、身のこなしは王子様と言っていい。あの溢れる気品で微笑まれたりしたらウィルも違う世界へと誘われてしまいそうだ。
 そう、そのくらい世界の違う人なのだ。
 第一、エリウッドの傍にはオスティア公子のヘクトルをはじめ、ウィルの仕えるキアランの公女リンディスに、不思議な雰囲気の踊り子のニニアンがいつも居る。
 ウィルの脳裏に幼い頃のレベッカの言葉がよみがえる。
『私、白馬に乗った王子様と結婚するの!』
 ……相手は雲の上だ、レベッカ!!
 うっとりとどこかを見つめている幼馴染にウィルは軽い絶望感を覚えたのだった。


「だからですね、俺、しっかり馬に乗れるようにならないと!って思って」
「……どうしてそう繋がるんだ?」
 事の次第を聞き終わったラスは自らの引いている馬にまたがって乗馬に慣れようとしているウィルに不思議そうに尋ねた。
 幼馴染のレベッカがエリウッドに憧れている。それを慰めるためには自分が馬に乗れないといけないと言うウィル。話が繋がらないのだ。
「うわっと、……落ちかけた。
 えっとですね、レベッカが白馬の王子様に憧れるのは馬に乗りたいっていうのがあると思うんですよ!だから、それだけでも叶えてやりたいな〜って。
 ラスさん、俺でもちゃんと馬に乗れるようになりますよね?」
 振り落とされないようにバランスをとりながらウィルはラスにそう笑顔で話しかけた。
 ウィルなりに考えた事は、馬に乗せてやるという事だったらしい。
 だが、ラスにはいまいち理解できかねるところがあった。
 ウィルがレベッカに寄せている思いは、幼馴染に対するものだけではない。それなら、もうちょっとエリウッド公子相手にはりあってみても良さそうなものだが、最初からそれは考えてもいないようだ。それとも、レベッカがエリウッドに嫁ぐという可能性が無いと信じきっているのだろうか。
 その辺は楽天的なウィルらしいといえばウィルらしいのだけれど。ラスは苦笑した。
「いや、ちゃんとやっていれば乗れるようになる。……だが」
「ほ、本当ですか?! って……うわあ?!」
 ウィルの悲鳴と同時に彼の身体は宙に舞い、どさっとそのまま地面へと落ちた。それを見てラスが呆れた顔をする。
「……だが、そう落ちてばかりでは馬に馬鹿にされてしまうぞ」
「って〜〜! ……ってラスさん、そんなぁ」
 打ち付けられた背中や腰をさすりながらウィルが起き上がる。練習を始めると言い始めてから、それなりの時間が経過しているのだが、ウィルの落馬回数は半端ではない。本人のやる気は認めるのだが、それが明らかに空回りしているのだ。
 だが、馬に乗りたい気持ちは本当なのだろう。それだけはラスにもはっきり分かっていた。
「いいか、ウィル。ちゃんと馬と分かり合わなければ馬には乗れない。馬鹿にされるようでは駄目だ」
「……はぁい。努力します」
 珍しく、言葉数多めにラスにそう言われてウィルはしゅんとしながら返事をした。
 そんな彼にラスは表情では分からない程度に微笑む。
 それでも漠然と馬に乗りたいというだけではなく、馬に乗ってからの目標が出来た訳だ。
 好きな相手を乗せたいというのだったら、きっと違ってくるだろう。ラスはそう思った。
「よし、じゃあもう一回だ」
「……はぁ〜い」
 先生の言葉に生徒はしょぼんとした返事を返したのだった。




「……一緒に私を馬に乗せてくれる?」
 それからしばらくして、ラスの特訓を受け続けたウィルは、念願叶ってレベッカを誘った。
 一応、ラスの監視の下なら一緒に乗ってもいいという許しが出たのだ。ラスが一緒ならウィルとしては心強かったし、ありがたかった。
 もちろん、このお誘いも隣にはしっかりラスが保護者のようについていた。
 一方のレベッカは馬に乗せてくれるという幼馴染を不思議そうに見ていた。そして、隣りのラスとウィルをかわるがわる見たあと、ひらめく。
「あ、ウィルの乗馬の練習で?」
「うん、そうそう!」
 レベッカの言葉にウィルはにっこりと頷く。その反応にレベッカは自分の考えた事が正しいのだと確信した。
「その、私、ラスさんの馬に乗せてもらっても良いんですか?」
 その言葉にウィルは一瞬凍りつく。そして話を急に振られたラスも戸惑った。そうくるとは思ってもいなかったのだ。だが、目の前のレベッカは嬉しそうに目をキラキラさせていた。
「…………ああ」
 あまりにもレベッカの期待に満ちた瞳にラスは思わず肯定してしまう。ラス自身、この軍に入ってからウィルとレベッカと過ごす事が多く、彼女に対しても好感を抱いていたことが災いしたらしい。
「……ラ、ラスさんまで」
 レベッカの勘違いに同意してしまったラスをウィルは悲しげに見つめた。
 だが、よくよく考えてみれば当然の事だった。
 ウィルは乗馬の初心者だし、その初心者と一緒に乗るなんて普通は考えるはずが無い。
 ウィルはこの時初めてラスが一緒にいた事が失敗だったと気がついたが後の祭りだった。
「きゃ〜、嬉しいです!私、一度ラスさんの馬に乗ってみたかったんですよ〜!
 いっつもウィルばっかり乗っているでしょう?羨ましくって!」
 レベッカは大喜びではしゃいでいた。そんな彼女を見て、ラスがすまなさそうな視線をウィルに送る。それに対して、ウィルはもう笑うしかなかった。


「は〜……、なんだかな〜」
 ウィルは大きなため息を一つつく。前方ではラスに馬に乗せてもらったレベッカが嬉しそうにはしゃいでいて、楽しそうにラスに色々と話しかけていた。そんな彼女にラスも頷いているのが見える。
 楽しそうだな〜、良いな〜。
 レベッカと楽しく話しているラスが羨ましいし、ラスと楽しく話しているレベッカも羨ましいというのは……自分でもどうかと思うのだが。
 とにかく、今度こそはしっかりと信用してもらうためにも馬にちゃんと乗れるようにしないと!
 ウィルは一緒に付き合ってくれている栗毛色の馬の手綱をしっかりと握り締めた。
 だが、どうしても前方の楽しそうな様子に気が散ってしまう。
 気が散ってしまうと、それが馬にもしっかりと伝わる訳で……。
「うわああああ?!」
 ウィルはゆれる鞍の上でバランスを崩し、そのまま落下……しかかったのだが、誰かの腕が身体を支えてくれて、かろうじて落ちずにすんだ。
「あ、ありがとうございます!」
 なんとか馬にしがみついたウィルは、視線を助けてくれた人物に移す。そこに居たのは笑顔が似合う長身の緑の髪の青年だった。
「いえいえ、どういたしまして。
 ふふ、珍しい光景を見たからからかってやろうと思ってやって来たのに……相変わらずぼんやりしてるな」
「そ、そんな事言わないでくださいよ、セインさん。俺、頑張ってるんですから……」
 楽しそうにウィルを見上げながら笑うセインにウィルは抗議した。相手がセインだと分かると心安くなる。無類の女好きという事を除けばセインは本当に気安く話せる人物なのだ。
「お、あそこに見えるのはレベッカさんとラスじゃないか。へえ、あの二人って結構仲が良かったんだな」
 前方をどんどん進んでいくラス達に気がついて、セインがちょっと驚きの声を上げる。ラスといえば他人を寄せ付けない雰囲気を持っている相手なので、彼がウィルと一緒に行動をし始めた時も驚いたものだが、その相手が増えているのも新たなる驚きだった。
「同じ弓仲間ですからね。俺がラスさんに紹介したんですよ」
 なんとか姿勢を正して手綱を握りなおしたウィルがセインの疑問に答える。
「へえ……紹介ねえ」
 セインはウィルの答えを聞くと、ちょっといじわるそうにニヤッと笑った。
「ライバルを自分で増やしてどうするんだよ、ウィル。レベッカさんの素敵な魅力に気がつけば、いくらあの朴念仁なラスだって夢中になってしまうかもしれないじゃないか」
 思いもしなかった事を言われてウィルは仰天する。
「ま、まさか!セインさんとラスさんを一緒にしないで下さいよ!」
「そうか?俺にはレベッカさんに近づくなって言うのに?」
「セインさんは女性なら誰でもじゃないですか!本気でもないのに、俺の大切な幼馴染に声をかけるなんて嫌ですよ!」
 ウィルのその言葉に、今までからかい口調だったセインの顔が真面目なものに変わる。いつも飄々と笑っているその顔が真剣なものに変わるとウィルはどきっとなった。言い過ぎたかもしれない。ウィルにそんな思いが走る。
「本気だったら構わないのか?」
 真剣にそう問われて、ウィルはしどろもどろになる。
 本気だったら?そんな事、考えた事も無かった。
 いや、さっきのラスの事にしてもそうだし、この間のエリウッドの事にしてもそうだ。
 どこかで、レベッカの事を好きになる人物が現れるなんて思っていなかった。ちゃんと意識して考えたことなんて無かった。
 急にどうして良いか分からなくなった。こういう時、どうしたら良いのか。
「……そ、それは……レベッカとセインさんの問題で……俺がどうこう言う話じゃ……」
 しどろもどろなウィルの返答にセインは畳み掛けるように尋ねてくる。
「それでお前は良いのか?」
「だから……それは俺がどうこう言う問題じゃなくて……」
「そうじゃなくて、お前の気持ちを聞いているんだ」
 はっきりとそう言われてウィルはまた戸惑う。
 レベッカの事を好きな人が現れて……レベッカもその人に応える事があったとしたら……そういう事があるのだとしたら。
「……俺は……その……やっぱり……嫌です」
 しどろもどろだったが、それでもはっきりとウィルはそう答えた。そう答える事が良い事かどうかは分からなかったけれど、それは本当の事だったから。
 だが、今まで真剣な顔で尋ねてきたセインの顔は、その答えを聞くなりにっこりとしたいつもの人好きのする笑顔に変わっていた。
「ほら、やっぱりな!そう思うんだったら、もっとしっかりレベッカさんに自分をアピールしないと駄目だろう?今回だって見た感じじゃ、本当はレベッカさんと一緒にいたかったのにラスにお株を奪われたってとこなんだろう?」
「げ!なんでセインさんが知ってるんですか!!」
 思いっきり図星にされてウィルは苦い顔をする。そんな話はラス以外にした覚えはないし、あのラスに限って話を漏らすとは思えない。
 そんなウィルをセインはぽんっと叩く。
「やっぱりお前はアホだなあ。そんなの、見ただけで分かるって」
「……そうだったんですか」
 本当にバカだなあといった身振りをするセインにウィルはがっくりと肩を落とす。そんなに自分の考えている事は丸分かりなのだろうか。それはそれで何だか悲しい。
「よし、ここはこの優しい先輩が一つ力になってやろう」
「……力に、ですか?」
 にこにこしたセインが楽しそうにそう笑う。半分面白がられているような気がしなくはないが、彼は嘘はつかないので本当なのだとは分かる。
「ああ、それには一先ずその馬をちょっと拝借して……」
 そう言うが早いかセインはひらりと馬にまたがると、ウィルの後ろに座った。
「な、なんなんですか〜?!」
 彼の行動がさっぱり分からないウィルは混乱する。だが、セインはそんな彼に構わず、手綱を取り上げると馬をそのまま走らせ始めた。
 離れていたラス達の馬が見えてくる。そしてその横を走り抜けた。
「レベッカさ〜ん、こんにちは〜!」
 走り抜ける際に、やっぱりセインは彼女への挨拶は忘れない。そんな彼はやっぱり彼らしいなとウィルは思った。そして、驚いた顔のレベッカとラスが遠ざかっていく。
 ああ、なんで本当にこうなったんだろう。
 ウィルは深い後悔にかられた。
「……どこに行くんですか?」
 もう大分諦めの入ったウィルはセインにそう尋ねる。セインはそんなウィルにころころと笑った。
「ああ、この先に綺麗な湖の見えるところがあってな。デートスポットには最適だと思うんだよ。特別に教えてやるんだから感謝するんだな」
 ……つまり力になるというのは、デートスポットを一つ教えてくれるという事らしい。
 そんな余裕があるかも分からないのに、そういう事にしっかりと気が回るセインにウィルは感服した。いかにも彼らしい。
「……ありがとうございます」
 とりあえずお礼は言っておかないといけないとウィルは馬にしがみつきながらそう言った。高速で走らすセインに、ウィルは振り落とされないように馬にしがみつくより他なかったのだ。せめて後ろが自分ならまだセインにしがみつけるのだが、前向き同士で後ろが馬を操っているとなると……前のウィルには馬しかしがみつくものが無いのだ。あんまりしがみついたら馬が嫌がるのは分かっているが……こればかりはどうしようもない。
「ああ、お前はちゃんと好きな人の傍にいれる奴だと思うからな。特別、特別♪」
 楽しそうなセインの言葉にウィルはひっかかりを覚える。
「お前はって……セインさんは違うんですか?」
「ん〜、俺はハウゼン様とリンディス様が居るからね。あのお二方がいらっしゃる限り、俺にとっての一番はあのお二方だからな。
 お前はキアランに仕官したのは家族のためなんだろう?それならそれを貫けばいい。俺はハウゼン様に仕えようと思った。それを貫くだけさ。俺の仕えると決めた相手はハウゼン様とリンディス様だけだからな」
 それは……好きな人が居たとしても、主を取るという事。
 ウィルは改めてセインの事を思った。彼はやっぱりキアランの騎士なのだ。そして、自分との大きな差を知った。
 いつも本気のように見えないのも……それが関わっているのかもしれない。そして、それを相手も分かっているのかもしれない。
 それなのに、自分の事は応援してくれるのだ。ウィルはなんだか胸がいっぱいになった。
「ありがとうございます」
 今度は違う気持ちでそう告げた。心からそう思ったからだった。
「ははは!ま、頑張れよ!」
 明るい声が聞こえてくる。セインはいつも明るくライトな性格だ。その明るさが少し眩しかった。


「……今、セインさんとウィルでしたよね?」
「ああ、何があったんだろうな……」
 いきなり横を駆け抜けて行ったセインとウィルを見てレベッカは呆然としていた。それはラスも同じらしく状況を把握しきれない様子だった。
「ま、まあ、そのうち帰ってきますよね!」
「そう……だな」
 とりあえず一緒に居るのがセインなのだから、帰って来れないということは無いだろう。それならまあ良いかという感じでその話は一先ず終結を迎えた。
「そういえばラスさん、いっつもウィルの乗馬の練習に付き合っているんですか?」
「……そうだな」
 急に話題が変わったことに戸惑いつつもラスはレベッカの質問に答える。そして、その答えを聞いてレベッカは難しい顔をした。
「でも……ウィルっていっつも落ちてばっかりでしょう?乗れるようになると思います?」
 あまりにも的確な意見にラスは苦笑する。レベッカが心配するのも無理は無い。
「ああ。……だが、いずれは乗れるようになるさ」
「だと良いんですけど」
 レベッカは訝しげな顔をしてそう答える。やっぱり心配らしい。
「ウィルって昔から諦めの悪いところがあって……出来ないって分かっているものでもやろうとするんですよ。不屈の精神って言えば聞こえは良いけど、周りはいい迷惑で……。ラスさんにも本当に迷惑かけてないか心配なんですよね」
 ……レベッカの心配はどうやらウィルではなくラスに対してらしい。それに気がついてラスは苦笑した。
「いや、俺は気にしていない。……それに、あいつと居るのは面白いからな」
「そうですか?それなら良いんですけど……」
 まるでウィルの保護者のような口ぶりのレベッカを見て、ラスは彼等の仲の良さを微笑ましく思う。幼馴染というものはこういうものなのだろうか。
「本当にお前達は仲が良いな」
 ラスにそう言われて、レベッカは口ごもる。そして、ちょっと悩んだ顔をした。
「ウィル……再会して、ちゃんと話すようになって……やっと昔とは違っているんだなって思う事が増えたんですよ。
 昔はいっつもお兄ちゃんと一緒で、お兄ちゃんが居ないと駄目なところもあったんですけど……一人で結構苦労してきたみたいで随分しっかりするようになってて。
 だから……時々ちょっと遠いな〜って思う事もあるんですよね」
 5年ぶりにあって、お互いに色々と成長して、経験も積んで。だけど、それは明らかに違うもので。その月日は思っている以上に大きい差を生んでいた。
 上げればキリが無い。外見だってレベッカとあまり変わらなかった背はずっと高くなったし、身体つきもがっしりとしてきた。色んな土地の事を知っているし、村の中に居ては分からないような知識も持っていた。
 それは、彼が五年の月日を経て得たものであって、それがどのくらい大きなものであるかも分かっていた。それが、時々大きな差として感じるのだ。
 幼馴染なのに。よく知っていたはずなのに。
「でも、やっぱり前と変わらないところは相変わらずで……それが分かるとすごく安心するんですけど……そうなると今度はウィルのことだからとか考えちゃって。もっと信用してあげないといけないって分かってはいるんですけどね」
 ラスがちゃんと聞いてくれているのが分かっているので、レベッカは安心して話す。ウィルがこの人と一緒に居る事が多いのは……この静かだがその中に感じる優しさのせいなのだろうか。
「……変なんですよね、私。
 よく考えたら私、今までウィルって私の幼馴染っていうよりお兄ちゃんの友達で……ちゃんとウィル自身を見てたかって言われると結構怪しいんですよ。一緒に居ても私、お兄ちゃんばかり頼りにしてたし……。
 でも、ウィルがちゃんと私を分かってくれて……ちゃんと私の辛かった気持ちを分かってくれて……傍に居てくれるって言ってくれて……凄く嬉しくて。……それからかな、ちゃんとウィルの事、見るようになったんですよ」
 だから、その違いもどんどん分かってしまうのだけれど……それが決して嫌なわけではないから。
 ……だから、最近、私の王子様は別に白馬に乗っていなくても良いかなって思い始めている。私のこと、ちゃんと分かってくれる人なら……。
「……そうか」
 優しい声が響く。レベッカの言葉を肯定してくれる声。やっぱりラスの声は心地よかった。静かに響く優しい声。もっと早く知り合っていたら、この人に恋をしたかもしれないなとも思う。そうではないのはきっと、もう王子様に会ってしまったから。
「……ラスさん、私、ラスさんとご一緒できて良かったです。
 これからもウィルを宜しくお願いしますね」
 にっこりとレベッカは笑って感謝の言葉を述べた。それに対してラスの表情が緩むのが分かる。こういう表情をウィルやレベッカ以外に見せる事は少ないのを彼女は知らないけれど。
「いや、俺で良いのなら。ウィルは……最後まで面倒をみる」
「ふふ、ありがとうございます」
 優しい和やかな風が二人を包んだのだった。


 おしまい。


月間ウィルレベ、第4号です。いつまで続くかわかりませんが(^^;)。
祝、セイン登場(笑)。ず〜っと出したかったんですよね。なんていうか、イメージ的にウィルとセインってアンジェリークのランディ様とオスカー様って感じなんですよね(ラスはそうなるとクラヴィス様?/笑)。良い先輩後輩って感じで、後輩はからかわれてばっかりで。そんな感じをどうしても書きたくて、そしてレベッカとラスの仲良しな所も書きたくて(笑)。こんな感じの話です。
なんていうか頑張れ、ウィルって感じですか(笑)。ウィルって、絶対エリウッドやラスとレベッカがくっつかないのを知ってるんですよ(笑)!!なんか、ウィルって自分以外はレベッカの事を好きだと思う人が居ないんじゃないかと勝手に思ってそうな気がするのですよね。だから、そんなに余裕で良いのか?って言われる感じですか。実際はライバルだらけだ!!(セインもそうなんですが〜/笑)
レベッカにとってのウィル。私はこんな感じだと思っています。レベッカって本当にお兄ちゃんっ子だと思うのです。ダーツとの会話しかり、レイヴァンとの会話しかり。兄が一番好きだったんだろうなって。一番頼りにしてたんだろうなって。だから、ウィルはそのおまけみたいで(笑)。だから、レベッカが彼をちゃんと見るようになるのは支援Aを経てからと思うのです。そして、ウィルもそうなんでしょうね。あの会話があって、初めてお互い理解しあえて、相手をちゃんと見るようになると思うのです。
そんな感じのウィルレベ像かな。ウィルは昔からレベッカの事が好きだった〜とかあってもちょっと良いかもしれないけど、レベッカは……多分、ウィルよりお兄ちゃんなんだと思ってます(笑)。
セインについてはそういう印象です。プリシラの支援会話見てたらそうですよね。彼はプリシラの元には決して行けないのです。あれは……ちょっと切なかったですね。実際、結ばれる相手はフィオーラやレベッカで……自分と近い相手を選んでるんだなという印象があります。あんなにナンパ氏なのに、女の子より君主っていうあたり、やっぱりセインって本物の騎士なんだなと思います。相棒のケントの方が君主と結ばれちゃうあたり、騎士らしくないのかも(笑)。変なコンビ(笑)。ちなみに私はセインはフィオーラさんと上手くいってほしい人です。でも女軍師もちょっとありだよなと思わないでもなかったり(笑)。

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