『君がため…』 「んんー?」 茶髪の青年は行軍中の中に一人足りない事に気がついた。 いつも目で追っているのに、ちょっと目を離した隙の出来事だった。 (そういや、さっき子供狩りの連中がいて、子供を助けたっけ) あまり人数が多いとは言えないリーフ軍だ。 だが、子供狩り等の出来事に遭遇してしまうと、正義感が突っ走るのか、必ず、いざこざになってしまう。 (俺なんかは捨てられたからなあ。あんまり子供の頃っていい思い出がないよな。 って、今も良い思い出が……まあ、あるにはあるか) そんな事を考えながら、彼、リフィスは、いつものように愛しい人を眺めて歩こうと思ったのだが、その意中の相手がいないのだ。 (もしかして、さっきの子供たちと一緒にいるのか?) いや、もしかしなくても。彼女は、そういう人なのだ。責めることなんて出来ない。優しすぎるのだ。 (俺の命も助けてくれたしなあ……) まあ、その出来事が無くても、リフィスは彼女、サフィに夢中なのだ。 今まで感じなかった優しさが、温かさが、リフィスにとっては気持ちが良かった。 「ま、とにかくだ」 リフィスは走り出す。先程までいた子供たちの所へ。 案の定、サフィはそこにいた。優しい笑顔で、子供たちに囲まれている。 さて、どうするか。 リフィスはあまり子供が好きではない。自分の子供時代が最悪だったからだ。そのぐらいの時に、サフィに会っていれば、また違っていたんだろうけれど。 どちらにせよ、サフィも子供達も、どこかの村にでも駆けこんで身の安全を図らないと。 「サフィ!」 リフィスは彼女の名前を呼ぶ。その声にサフィはこちらを向くと、嬉しそうな顔でにっこりと笑った。 「リフィス。まだ、いたのね」 「そりゃあ、サフィが消えたからさ」 「まあ、消えたなんて。この子たちを送っていこうかと思って」 サフィの言葉にリフィスは苦笑する。少しは自分の身の安全を考えて欲しい。 ……まあ、考えなかったから、リフィスはサフィに出会えたのだけれど。 「んじゃ、俺も手伝うから、ちゃっちゃと済まそうぜ」 「ええ、ありがとう」 サフィは微笑む。リフィスが自分の事を気にかけてくれた事を。 純粋に嬉しかった。 「んじゃあ、これからも気をつけるんだぞ」 「ちゃんとお家に帰ってね」 子供たちが「はーい」と声を上げる。 本陣とは少し離れてしまったが、まあ、なんとかなるだろう。……多分。 「!リフィス!」 サフィが緊張した声を上げた。それに驚いて、リフィスはサフィの見る方向に視線を移した。 (……やばいな。盗賊連中じゃねえか。……まあ、俺も盗賊なんだけど) いらないつっこみを自分で入れつつ、リフィスは細身の剣を手にする。 そしてサフィの前に立ち、彼女を護る。 「サフィ、ここは俺が引き受ける。サフィは早く本陣に戻れ」 「で、でも、それではリフィスが……」 「いいから、早く帰れ!!」 いつものリフィスと違う声に、サフィは驚きと共に、彼がこの村を護ろうとしている事を知った。 「リフィス。回復役として私は……」 「帰れ!!」 サフィの声にリフィスは厳しく言い放つ。サフィはこんなリフィスを見た事が無かった。 でも、それはリフィスがサフィの事を想って言っているのは分かる。 (本陣に戻って騎馬の方に、応援を頼もう。……リフィス一人では心配だから) サフィは慌てて本陣の方へと向かう。 「ほう、一丁前に、女を庇うのか」 「いいんだよ。俺はあいつのためなら何でもするさ」 「本当は女の方が欲しかったんだがな。まあ、お前一人が刃向ったとしても、俺等には大した事はないさ」 「はっ、そりゃあ楽しみだ」 挑発的なリフィスに、盗賊団は案の定、腹を立てる。 リーダーらしい者が叫んだ。 「よし、まずはこいつをやっつけろ!生死は問わない!」 「おおー!!」 一際大きな声が上がる。 さて、この人数差をどうやって切り抜けるか。リフィスは剣に力を込めた。 「大変、大変なんです!」 一方のサフィはやっと本陣に辿り着き、盗賊たちを相手にリフィスが一人で戦っていると告げた。 「ほう、あの小僧がな……」軍師アウグストは何やらえたいのしれない笑みを浮かべている。 だが、リーダーであるリーフは、人一倍心が優しい。 「じゃあ、フィンとナンナを向かわせる。サフィはフィンの馬に乗って道案内してやってくれ」 「ありがとうございます、リーフ様」 サフィの顔が少し明るくなる。だが、リフィスを置いて来てしまった事を後悔しているのか、その顔は晴れない。 「サフィさん、行きましょう」 ナンナとフィンがサフィに声をかける。それにサフィはゆっくりと頷いた。 「……サフィ殿。多分、心配はしなくて良いと思いますよ」 フィンの騎乗の上で、サフィは声をかけられた。 だが、サフィは俯いたままだった。 「……リフィスは、本当は優しい人なんです。私の事をいつも気遣ってくれます。だから……心配なんです」 「サフィ殿はリフィスに対して、過度に心配しておられるようですね。大丈夫ですよ。いつも前線で戦っている男ですから」 「……それはそうなんですけれど」 後方支援のサフィは、リフィスが前線で何をしているのかは知らない。 ただ、時々傷を沢山負い、サフィが手当をしていた。 (本当のリフィスを知らないのね、私) そう思うと何故か切なくなってきた。サフィの中で、リフィスは大きくなってきていたからだ。 心が震える。リフィスの無事を信じて、サフィは祈った。 そして、村を訪ねた時、もう、全ては終わっていた。 リフィスの足元には沢山の武器が転がっている。その中にリフィスは立っていた。 「リフィス!」 サフィは心配で駆け寄る。リフィスはいつも通りの飄々とした顔つきになっていた。 「なんだよ、サフィ。フィンとお姫さんまで連れて来て……」 「だって、貴方が心配で……!」 「ちぇ、やっぱり俺、信用されてない…… ?!」 喋りきらないうちにリフィスは驚きの声を上げる。 なんと、サフィが抱きついてきたのだ。 「サ、サフィ、さん?」 リフィスが真っ赤な顔になる。どうしていいのか分からず、リフィスはわたわたしていたが、サフィはリフィスを見上げて、ふふっと笑った。 「貴方が無事なら、私はそれ以上、何も求めません」 サフィの言葉にリフィスはどぎまぎする。どう言ったらいいか分からなかった。 サフィもそれ以上の言葉は言わなかった。ただ、抱きしめる。それだけだった。 「少しだけ、二人っきりにしてあげましょう、お父様」 「そうだな」 ナンナとフィンは笑顔を交わすと、リフィスとサフィをしばらく離れたのだった。 そして、フィンとナンナが各家を回り村の安全を確かめた後、リフィス達の所に戻った。 「……なんにも進展していませんね、お父様」 「……そうみたいだな」 ナンナとフィンの感想はそれに尽きた。 まだ抱きついているサフィと、硬直したままのリフィス。 でも、それが今の二人にとって一番望ましい姿であると、フィンとナンナは思った。 帰り道、フィンの馬の鞍の後ろにリフィスは乗っていた。 「……なあ、フィン」 「どうした、リフィス?」 「……俺って勝算あると思うか?」 いつもの飄々とした声ではなく、真面目にそう聞いてきた。 「あんた、お姫さんの父親なんだろ?先輩として、教えてくれよ」 その言葉にフィンは思わず吹き出してしまう。 「な、なんだよ、笑わなくたって!!」 「いや、可愛らしいと思ってね」 「可愛い?そんな事言われて喜ぶのって女だけだぜ。 俺、真面目に聞いてんのに」 ぶすっとした声が聞こえたので、フィンは「ごめん」と謝る。 「それはサフィ殿の判断かな」 「……いや、それは分かってんだけど。俺、取り柄ってねえし、盗賊としては弱い方だし……第一臆病だし」 リフィスの声がどんどん小さくなる。 おそらくフィンとナンナがやって来たのは、サフィに自分が弱いからだと思っているに違いない。 そこで、フィンは一応、フォローを入れておくことにした。 「サフィ殿は、本当にお前を心配してたんだぞ」 「……うん、分かってる」 「まあ、頑張る事だな」 そう言ってフィンは笑う。それにつられて、リフィスも苦笑せざるを得なかった。 一方、ナンナとサフィも話していた。 「……私、心配しすぎでしょうか?」 「そうですか?それがサフィさんの良い所だと思いますよ?」 「……そうなのかしら」 そう言ってサフィは不思議そうな顔をする。どういうことだろうか? 「……私、いつもリフィスに迷惑をかけているような気がして……」 「それはサフィさんがリフィスを気にかけている証拠じゃないでしょうか?」 「そう、そうなのかしら?」 「そうですよ。現にリフィスは敵の武器を全部奪っていましたよね?リフィスはああやって戦ってるんです」 時々、前線に行くナンナはその事をサフィに話す。 「……私、リフィスの事、傷つけて……しまったかもしれません……」 「どうしてですか?」 「リフィスの言葉を信用せず、援軍を求めてしまいました……」 サフィはしゅんとしている。確かに彼一人でそんなに戦えるのを知らなかったとはいえ、リフィスの言葉を信じてあげられなかった。 多分、怖かったのだ。リフィスを失う事を。 今だからはっきりと分かる。 自分はリフィスに惹かれているのだと。 彼が自分の事に夢中になっているのは気付いていた。でも、それはあんまり悪い気持ちでは無かった。むしろ嬉しかったと言うべきだろうか。 ……そして、今は、彼に惹かれている。 リフィスの好意を喜んでいる自分も確かにいるのだ。 だから、軽はずみな事をしてしまったのかもしれない。 「サフィさん、時には素直に言った方が良い事もありますよ?」 ナンナが微笑む。 それにサフィは笑顔を返した。 戻ったら、改めてリフィスにお礼を言いに行こう。 そう、サフィは決めたのだった。 終わり。 久しぶりすぎるリフィサフィです。 ちょっと前進です。トラ7ではやっぱりリフィサフィが一番好きですね。改めて思いました。 |