『証』 「痛いっ、痛いってば!!」 「なによ、この前までは、あたしがいないと駄目だったくせに!!」 賑やかな光景がセリス軍に見られるようになった。 トラキアで合流したブラギの血を引くコープルという名の少年とウルの血をひくパティという少女。 相性が悪いのか、よく喧嘩が聞こえる。 でも、それは、まるでじゃれあいのような感じで、皆にとっては可愛らしかった。 初めはパティが先輩風をふかせて、コープルに杖の修理代を上げていた。 その時、パティはコープルの事を子分のように思っていたらしい。 だが、その思いこみは、コープルがハイプリーストになってから終わりを告げた。 コープルがパティの支援を受けなくても、自分でなんとか出来るようになったのだ。 それが、パティには気に入らない。 ポカポカとコープルをたたくパティは、誰もが一日一回以上見る事になった。 さすがにやりすぎである。 「何やってんだよ、パティ」 兄のファバルは妹の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。 「もうっ、子供扱いしないでよ!」 「子供は子供だろ。 毎日のようにコープルをいじめているくせに」 それを言われると、パティも押し黙る。自覚はしっかりあるようだ。 「だ、だってお兄ちゃん!!あいつ、あいつったら、もう杖の修理代はいらない、とか言いやがったのよ!」 「パティ、口が悪いぞ。女の子なんだから、もっと可愛く喋れ」 「うう……」 兄にさらにぐりぐりされて、パティは押し黙る。いちいち尤もなので、それ以上反論が出来なかった。 「で、なんで独り立ちした奴が気に入らないんだよ。 今までだってそういう奴等一杯いるだろうが」 「うう……いたにはいたけど」 パティが再び黙ってしまう。それを見て、にやっとファバルは笑う。 「本当は相手にされなくなって寂しいんだろ」 「……! ち、違うもん!!」 パティの反論も聞かず、ファバルは笑いながらパティの頭をぐりぐりする。 「お前とコープル、歳近いもんな。丁度いい遊び相手になるな」 「えー、あの生意気な奴とー?!」 「いいじゃないか、お前の張り合いになるんだし」 「うむむむむむむ」 「それにお買い得かもしれないぞ」 「お買い得?」 ファバルはにやりと笑った。 「セティと仲良いらしいらしいじゃないか、コープルって奴。 もしかしたら、大成するかもしれないぞ?」 「なにそれ、別にコープルがどうしようが関係ないわよ」 ぷいっと踵を返し、パティは兄のもとから離れていった。 「うーん、パティにも複雑な乙女心があるんだな……」 そんな妹をにこにことファバルは見ていた。 一方、コープルの方も困り果てていた。 「……どうしたらいいんでしょう、セティさん。 パティは僕が自分で稼げるようになったからって怒るんですよ。 僕以外の人にお金、回せるようになったのに……」 コープルの相談相手はセティだった。 セティは優しい目でコープルを見る。 「そうだね。私もたまにお世話になることがあるけど……寂しいんじゃないかな?」 「寂しい、ですか?」 セティは優しい笑顔で頷く。 「うん。そう。 多分、コープルが一番年下だから、お姉ちゃんのつもりでいたんじゃないかな?」 「パティがお姉ちゃん、ですか?」 コープルは考える。 ……確かに、コープルは一番年下のような気がした。 「……でも、僕、パティの事、お姉ちゃんには思えませんよ。 それに、リーンお姉さんが見つかった訳ですし」 セティはクスクスと笑う。 「じゃあ、別の考え方をしてみようか」 「別の……考え方、ですか?」 セティはふわりと笑う。 「ファバルとパティは孤児の面倒なんかもみてるんだ。 だから今までお姉さんだったのに、そうじゃなくなってしまう。 寂しいのとコープルに子供達を重ねて見てるのかもしれないよ?」 それを聞いてコープルがびっくりする。 「パティってそんな事してたんですか! ……うーん、そういう事情があるなら、あんまり僕は強くいえませんね」 「でも、コープルはコープルだろう? 一回、ちゃんと話してみるといいんじゃないかな?」 コープルは苦い顔をする。いつも通り叩かれる気がするからだ。 でも、孤児の面倒を見ていたというのはコープルには意外だった。シーフなのは孤児たちのためなのだろう。 「うーん、一度話してみるかなあ……」 結果は目に見えているような気がするのだが、パティに話しかけて見ようかと思うコープルだった。 コープルがパティの違う一面を見たのは、子供狩りを阻止した時だった。 悲しくて泣きだす子供を、パティは笑顔で励ましていた。 それに子供に対する手際も良い。 セティの言葉を思い出す。 パティは孤児の面倒を見ている、と。 なんとなく、自分もいてもたってもいらなくなって、コープルも孤児たちと手をつないだ。 泣きだしそうな子供には、しゃがんで視線を合わせ頭をなでてやる。子供は優しく接するコープルに笑顔になった。 「ブラギの神に感謝します」 そう言うと、コープルは手を引いてやる。 最初は戸惑いがちだった子供達もその優しい言葉と穏やかな目に安心感を覚えたのか、にっこり笑ってくれた。 コープルはそれが嬉しい。 そのまま子供たちを安全な道へと誘い、町まで連れて行ってあげたのだった。 「……へー、あんた、意外にやるじゃないの」 パティが驚いた鴨で、コープルを見ていた。 気にしていたパティが褒めてくれたような気がしてコープルは微笑んだ。 「僕、昔、子供狩りにあったんだ。誰かが助けてくれたけどね」 「なに?!あんた、そんな目にあったの?!」 「うん、だから今の子達の気持ち、分かるような気がするんだ」 コープルの告白に、パティは目を白黒させている。 確かに腹を立てていたけれど、コープルは経験者なんだとパティは驚いた。 子供たちのことをまとめるのは自分が一番良いと思ったけれど、経験者だと、気持ちが分かるものだ。 「そっか、コープルも結構大変な目に遭ってたんだ。ごめん、突っ込んで聞いちゃって」 「ううん、良いよ。最後は助けて貰ったんだし、パティが気にする必要なんて、何にもない。 それよりパティの方が僕は凄いなと思うんだ。あんなに優しく笑うパティ、僕、初めて見た」 にこにこと微笑んでいる笑顔がとても優しく見えた。 やっぱりこいつ、神父なんだ。 改めてそう思う。彼は違う。彼も彼なりに戦って生きて来たんだ。 そう思ったら涙がこぼれてきた。 「……? どうしたの、パティ」 パティが俯いてしまった。コープルが何故彼女がそうなってしまったのかが分からない。 ひっくひっくとの声と肩が震えていた。 「パティ、どうしたの?!」 パティはそのままコープルの胸の中に突っ込んで、服を握るとそのまま顔を伏せて泣いていた。 理由は分からないけれど……パティも辛かったんだ。 初めて、心が通った気がした。 コープルは金色のパティの髪を優しく撫でながら、頭に優しいキスを落とした。 「コ、コープル!い、今のは、内緒、内緒だからね?!」 威勢のいいパティは戻ってきた。その元気さにコープルも安心する。 やっぱりパティは、明るくなくちゃ。そう思った。 「な、何、にこにこ見てるのよっ」 「パティが可愛いなって思って」 思わぬ言葉にパティは耳まで真っ赤になった。 「な、なによ!その余裕ある顔は!!」 「あはは」 パティを軽くかわしながらコープルはにっこり笑った。 「ねえ、パティ」 「なによっ」 「今度、ゆっくりお話しない?」 思わぬ提案にパティは目を白黒させる。 コープルって、こんなに積極的だったっけ? で、でも、話してみたいな……。 「き、気が向いたら付き合ってあげるわよ」 思いとは別についそう言ってしまう。 コープルがクスクスと笑っていた。 「じゃあ、今度、お話しようね?約束だよ?」 「わ、わかったわよっ」 そんなやり取りをしながら、パティとコープルは本陣に向けて歩きだしたのだった。 終 コープルvパティです。恋の始まり、みたいな感じです。 なんか親しげに話すのは私の場合、アレクが父親だからでしょうか(^^; |