『志』 ……俺は何をしているのだろう。 故郷を追われ、敵国を通り抜け、西の最果てアグストリアまで来ていた。 やる事といったら闘技場を荒らしまわって、逃亡資金にして……ついには闘技場に雇われる身となり。 何のために生きているのだろう。 何のために戦うのだろう。 そんな疑問を重ねながら……今日も挑戦者を俺の剣技月光剣を駆使しながら戦っていた。 誰にも負けなかった。 貰った賞金を糧に生き、本当なら祖国を救えたのではないのかと疑念する。 でも、きっと祖国で戦っても、あっという間に死んでいただろう。 ……だから逃げて来たんだ。だから……死にたくなかったんだ。 今日の挑戦者は貴族だった。青い髪、均整の取れた顔立ち。どこかカリスマ性もあるように見える。 だが、その人の良さそうな顔つきは……とても強いとはお世辞にも言えない。 「イザークの剣士ホリン!」 「シアルフィの公子シグルド!」 互いの名を呼ばれた。 シアルフィだって?我が国に責めてきたグランベルの公国ではないか。 ホリンの中で、ふつふつと怒りが渦巻いた。 そう、グランベルが戦ったせいで、故国は悲惨な現状になっている。 目の前の人の良さそうな公子も現地に赴いて行く事もあるだろう。 そうだ、グランベルの人間なのだ。 勝ちたい。なんとしても。 絶対に勝ちたい。 試合が始まる。俺は愛剣の大剣を鞘から取りだす。一方のシグルドも鞘から剣を出す。 銀色の剣だった。その剣の構え方は、沢山の戦いを潜り抜けた……そんな強さもあった。 相手には申し分ない。 この男がいなくなればグランベルも多少は混乱したりすまい。 ホリンは剣を構え、シグルドの飛び込んで行く。月光剣さえあれば負けるはずが無い。 だが、シグルドはホリンの策を知っているかのように、ひらりとかわす。 でも、俺は、なんとしてでも、こいつに勝ちたいんだ! シグルドの方は、黙っていた。ホリンの太刀筋を読むように、攻撃をかわす。かわす。かわす。 様子を見られているのが分かった。……つまり、この応酬が相手の様子を伺うため、という所か。 むしろ、そんな余裕があるなら、何としても、この男にだけは勝ちたかった。見くびられたくない。 そう相手はグランベルの男なのだ。 絶対に勝つ。絶対、ひるまない。 向こうが攻撃してこないなら、かわせないような一撃でしとめればいい。それなら月光剣しかない。 シグルドが攻撃の態勢に入る。剣を構えた。 月光剣は技術が難しいので、しっぱいすることもあるだろう。 だが、彼に負ける訳にはいかないのだ。憎きグランベルの人間として。 ホリンが真っ直ぐに突っ込んでくる。 「くらえ、月光剣!」 ホリンは大きく飛んで、秘儀の技を繰り出す。 ……その月光剣さえも、シグルドはかわしてしまう。 どうやったら、この男と戦えるんだ?! 「いくぞ」 シグルドの言葉がした。 それと同時に、シグルドの繰り出す連続技をホリンは受けるのが精いっぱいだった。 この、シグルドという男。力も技も早さも守備も……ホリンから見たらばけもののような存在だ。 グランベルには、まだこいつより凄い奴がいるのか?それともこいつが一番上なのか? 余計な思考が働いたせいで、、ホリンは紙一重で攻撃を受け止める。 「さすが、剣闘士だな」 感心された。戦う相手に。ホリンもどう答えていいやら分からない。 「だが、まだまだ、剣術者には甘い!」 踏み込んできた。ホリンは自分の負けを悟った。 こいつには敵わない、と。 そしてシグルドの攻撃はホリンから剣を奪った。 へたり。ホリンが座り込む。 ここはアグストリアだ。 なのに、ここにはグランベルの騎士がいて……。 「さあ、俺を肉なり焼いたりしてもいいぞ」 その言葉にシグルドはにっこりと笑った。 「それじゃあ、うちの軍に入る気はないか?まだまだ、人手不足でな」 「?!」 この男は何を言ったのだろうか。 自分を殺そうとした相手を許しているのだ。 ……こんな心の広い指揮官は初めて見た。 この男ならもしかしたら、全てを預けて良いかもしれない。 いや、全てを預けよう。 例え、どんな結末が待っていても、それは精一杯生きてきた終止符だと思うから。 「……分かった、俺も貴方の軍に入ろう」 「ありがとう、ホリン」 シグルドが、両手でホリンの手を包み込む。 その手は温かくもごつごつした手をしていた。 ……ずっと剣術をしてきたホリンよりもごつごつとしていた。 それが、彼の鍛錬・実戦での証。 「そういえば、ホリンはなにか、どうしてもしたいことってあるか?可能なら叶えてやってもいい」 その言葉にホリンは、微笑む。 「あんたの軍に入れてくれ」 「……ありがとう、ホリン」 とても優しい顔で、シグルドが微笑んだ。あんな優しい人間がいるのだと、ホリンは心の中で感じていた。 そしてホリンは決めた。 これから生きていくのは『志』 シグルドのような男になる事を……ひっそりと心に決めたのだった。 そして、彼を護れるように。戦えるように。 卑屈に走っていたホリンを救い出してくれた人だから。 触った手が物語っている。彼の強さの、今まで努力してきたあとが。 一匹オオカミを気取っていたが、こうして仲間を得られるのは良い事だとわかった。 終わり なんだかまあ、凄い短くなってるホリンのお話です。 彼はやっぱりシグルド様と戦って彼に惹かれながら行軍するというのが個人的には好きです(笑) シグルド様信者が増えると良いです(笑)シグルド様大好き熱がちょっと復活しました(笑) |