『騎士の戦い方』 それは、最初に出会ったときから始まっていると思う。 セリスはリーフ軍に一人一人紹介していった。そして、その人物に当たる。 彼は一言言ってのけただけだった。 「俺はヘズルの血を引くラケシス姫の息子だ」 その言葉に、周りは一瞬凍りついた。 デルムッドは確かにラケシスの息子であるが、父親は生きていて、しかも目の前に居るのに。父親の方も自分の息子であるとは言わないらしい。 だが、デルムッドが父を受け入れられなかった事は別にもあった。 まだ生まれて間もない間にレンスターに帰った父。 デルムッドを迎えにゆくと出かけてそれっきりだという。 デルムッドはそんな父を父だとは認めたくなかった。イード砂漠に一人で迎えに行くなんて無茶な話だった。 ……そして、その事実をデルムッドが知ったのは、つい先日、ナンナに出会ったからだ。 そして聞かされた……母の失踪事件。 止められなかったのかと思った。そこに父と母のどんな思いが混在するとはいえ、止められるのではないか……そう思えて仕方が無い。 ……だって、母は自分のために死んだかもしれないんだろう?そう話すデルムッドの目が潤んでいたのを、セリスは見逃さなかった。 「……だって、俺はレンスターに行けば両親と妹に会えると思ってたんですよ。ほんのちょっと前までは。レンスターに行けば家族に会える。ずっとそう思ってた。 だけど、レンスターでは戻らない母上を思い過ごしてた。 俺の気持ち、どこにぶつけたら良いんですか?」 デルムッドの熱い主張に、セリスは困った表情で聞いていた。 実は、ティルナノグから始まった解放戦争、情報はあまり入っていなかった。 ただ、確かにあったのはラケシスはデルムッドを預けてレンスターへ行く。これだけが残された状態だった。 そのラケシスは、今は行方知れずの身となっている。 ナンナに会った。 可愛らしくて、母にそっくりなのだという。 顔も思い出せない母。だけど、確かにナンナには親しみが沸く。 これが血の繋がりということなのだろうか。 だが、フィン……実父に対してはそうはいかない。 何故、母を止めなかったのか。何故、父は連絡一つ寄越さなかったのか。 確かに戦局は変っている。それでも、どうして、その思いがある。 何故、母を止めてくれなかったんだろう。それがデルムッドに重くのしかかってくる。 ナンナの言葉を借りれば、自分のせいで母ラケシスは失踪したのだ。 『デルムッドを迎えに行く』その言葉を残して。 デルムッドが抱えている問題は大きい。それに対してどのくらいの事がしてやれるのか。それが分からない。友達としてどうしてやるべきか。それは難しい問題だった。 自分のために母が失踪した。それ以上の事実をデルムッドには与えたくなかった。 デルムッドの落胆は数日で回復の傾向が出てきた。出てきたというか、無理矢理作り笑いをしているのは誰の目にも明白だった。 だからだろう。デルムッドがフィンと対面したその時に、彼は「ラケシスの息子」としか言わなかった。 二人の親子再会は冷たいものが走ってしまった。 デルムッドは失っていたものの大きさに打ちひしがれていた。心のどこかでいつも思っていた母、ラケシス。はっきり覚えていないけれど、金の髪が綺麗だったのを覚えている。 その最愛の母が本当は自分に会いに来てくれていた。それはサプライズな出来事で、感動した。だが、結果は落胆した。 母は自分の事を愛してくれていたと思う。 母の気持ちは痛いほど分かる。 ……だけど、父の気持ちは不透明のままだ。 本当は、問いただしたい。何で母を一人にしたのか。 だが、デルムッドには父親と話す勇気が無かった。 「デルムッドの剣は、オイフェ君の剣術に良く似ているね」 遠くで若者達が剣術の練習をしている。それを眺めながら、フィンはそう告げた。それを聞いたオイフェは微笑した。 「デルムッドの剣は私が全て教えたんです。馬の乗り方から、剣の扱い方まで。だから、私のものと似てしまうのでしょうね」 それに対してフィンも頷く。 「うん、そうだね。私は父親なのに、あの子には何もしてやれなかったよ」 その言葉から察するに、フィンもデルムッドとの距離のとり方を悩んでいるようだ。再会できて嬉しいはずなのに、こうも気まずくなるとは。 「まだ、これから始まっていくんでしょう?」 そう問いかけるオイフェにフィンは苦笑した。 「どうも私、そういうのが苦手で……」 「デルムッドと仲良くなりたいのでしょう?じゃあ、努力しなくては」 話しながら、オイフェはデルムッドがフィンに似ている事に気付いた。 慎重で頑固。それが特出した特徴だろうか。 この親子関係の修復はしばらくかかるとオイフェは思った。 相変わらず、戦場でも、稽古でも、フィンとデルムッドが顔を合わせると凍りつく。その空気が周りにも及ぶのでやっかいだった。 親子なんだから一声かけてもいいのに、二人はそのまま分かれていく。 「普通、お父さんに会えたら嬉しいと思うのに……」 「そーよね、デルだけずるいわ!」 女性陣からはこんなコメントが寄せられている。 そう、両親がいるのは限られた人たちだけなのだ! そんな羨ましい状態なのに、実質はボロボロなのだ。 そこで、セリス軍はある提案をする事にした。 「フィンとデルムッドが遊撃部隊。上手くやってね」 強制的に配置したのである。 デルムッドの表情が曇ったが、フィンは気にしているような様子はない。 この父親は気まずいとか思わないのだろうかと、デルムッドは思った。 「落ち着いて、攻撃を繋いでいこう」 フィンはそう言うと、手綱をひき馬を走らせる。それを見て、慌ててデルムッドはついていった。 父の暴走ともいえる進軍方法に、デルムッドは付いていくのが精一杯だった。結構、無茶な場面もあったと思う。 ……傍目に見ていた時には冷静だと思っていたのに、意外だ。 「思い出すな、ラケシスと戦った時の事を」 フィンがぽつりと漏らした。デルムッドはその言葉に反応するが、言葉は続いて出てこない。……まだ、話すのは抵抗があった。 その事に気付いているのだろう。フィンはデルムッドに返事を要求しない。それがデルムッドには嬉しくもあり嫌でもあった。 「ラケシスは勇敢でね。どんな時も諦めずに戦う人だ。 ……だから、今も生きていると信じてる」 その言葉に、デルムッドは固まっていた心が溶かされていくのを感じていた。父は今言ったのだ。母が生きていると信じている、と。 「どうしてですか?」 「なんだい?」 「どうして、母上を止めなかったんですか」 いつか聞かれるであろう、その質問に、フィンはゆっくりと頷いた。 「リーフ様がおられるだろう?ナンナと共に成長していくのを見ていると、お前を思い出さずにはいられなかったそうだ。 ……彼女は強い人だ。心も力も。 息子に会いたいという、彼女の願いを私は否定できなかった」 フィンは淡々とそう話した。その答えには後悔の念は入っていなかったように思う。 きっと母は自分の意志でデルムッド自身に会いに行こうとしていたのだろう。 だから、多分、それはきっと……。 「お前のせいでラケシスは行方不明になった訳じゃない。だから、自分を責めるな」 初めて…初めてデルムッドは父の優しい笑顔を見た。 大事に思ってくれている……そんな優しい笑顔だった。 そんなフィンの顔を見ていたらデルムッドはおかしくなってしまった。 「あははっ、なんかバカみたいです」 いきなり笑いだした息子に、フィンは驚いてデルムッドを見つめる。 「だってバカみたいじゃないですか。俺、一人、怒ってて」 「いや、私はお前に上手く話しかけられなくて」 「俺、別に言い訳も母上が失踪するきっかけになった事も気にはしてますけど、それだけで生きてるんじゃないし。 ……俺も、いつまでもだだこねてられないし、ね」 それはデルムッドなりの整理だった。これから先、父と接していくためにも。……憧れ続けた家族であり、親なのだから。 「ありがとう、デルムッド。これからはいくら甘えてくれてもいいからね」 「でもこの歳で親に甘えるのもな」 そう言って、二人は笑いあった。 確執のある親子の雪解けの時だった。 それからのデルムッドはフィンやナンナ達と行動する事が増えるようになった。長年離れていた家族の絆を取り戻そうとしているようにも見えた。 でも、今、デルムッドはやっと本当の家族に出会ったのである。 全ては、これから始まるのだ。 終わり。 ずっと挑戦してみたかったフィンラケなデルムッドの親子確執でした。本当はもっとぴりぴりした話になるはずが丸く治まってしまいました。 フィンとラケの別れの話は、また別に書こうと思ってます。 ちなみに、私、フィン&デルムッド好きですvゲームではセットで使ってました(笑)。 |