『双子の心理』 人は言う。双子は同じものを好きになると。 それは半分当たりで半分外れ。 ……俺はね? それはまだ、ティルナノグにいた頃。 「なあ、スカサハ」 「なに?レスター」 レスターが俺に話しかけてくる。俺は剣を磨いている手を止めた。 「その剣、持ってみていいか?」 「いいけど?」 この幼馴染は、普段はまともなのだけれど、たまに不思議な行動に出る。付き合いは赤ん坊の頃からだけど、ときどき何を考えているのか分からない時がある。 今回もそうだ。彼はウルの血を引いている。弓の腕は超一流と言える。 では何故、剣を持つとか言い出すのだろうか。その心理は分からない。 「ありがとう」 レスターはふわりと笑うと、俺の剣を手に取り両腕でしっかりと握った。そしてじっと目を瞑る。 剣を握りしめたレスターは、まるで剣士が黙祷しているような顔をしていた。 それから、ふわりと笑う。 「ありがとう、スカサハ。俺でも扱えるかもしれない」 「?!」 レスターの言葉に俺は驚きを隠せない。 何を言った?今、何て言った? 「な、なあ、レスター。今、何を言った?」 レスターは、きょとんとした顔をする。 「だから、俺でも剣を扱えるんじゃないかって」 「いきなり、なんだよ、それ?!」 「……俺もいざって時の切り札に剣を使えたらって思ってさ」 「…………は?」 「なんだよ、スカサハ。俺が剣を使えたっていいだろ?」 不服そうにレスターは言う。 まあ、確かに剣が使えるとレスターの安全度は上がるかもしれない。 それにオイフェ様とシャナン様という剣の指導に長けている人もいるけど。 ……でも、俺はなんとなく面白くない。 だって、それは……俺の決めた事に反する事だから。 ……レスターの背中は俺が守ると決めていたから。 そりゃあ、自分勝手な思いだとは分かってるし、レスターがその事を知っている訳じゃない。 「どうした、スカサハ?やっぱり、俺は向いていないか?」 「う……」 返す言葉が見つからない。 だって、そうだろう?俺が守るつもりだったんだ、なんて言えるわけがない。 レスターが困った顔をしている。それはそうだろう。俺の反応は、多分、おかしいと思う。 「む、むいてない、とは、言わない、けど」 結局、無難な言葉をなんとか紡ぎだす。でも、やっぱり、心がざわつく。 何故、ここまで心がざわつく? だって、オイフェ様もシャナン様もいらっしゃるんだぞ?騎乗にしろ、歩兵にしろ、腕の立つ先導者がいる。 決めるのは……俺じゃない。 そうだ、俺には何も言えた立場ではないんだ。 決めるのは、レスターなのだから。 どんな顔をしていたのだろうか。気がつくとレスターは悩んだ顔をしている。 悩ませるような事があっただろうか? 俺が、オイフェ様たちに言いにいけっていうの待ってるのか?いや、そういう性格はしていない。 それなら、何故? 「……そうだな。やっぱり、そうしよう」 レスターが何か呟く。結論が出たようだ。 「じゃあ、スカサハ、俺に剣を教えてくれるかな?」 レスターは、なんの曇りも無く明るい顔でそう言った。 ……………… ?! い、今、何言った?! 「スカサハ?聞いてる?」 聞いてます。 っていうか 「なんで、オイフェ様とかシャナン様じゃないの?!」 俺、言ってる事、間違いないよな。間違ってないよな?! 「んー、スカサハなら教えてくれる気がするから、かな?」 「それは、オイフェ様とシャナン様だと、断られるから、俺ってことなのか?」 「あと、俺、スカサハの太刀筋、好きなんだ。あんな風に剣を振るってみたい」 ……………… 神様、目の前の人が何を言っているのか、教えてくれませんか? まだまだ未熟でシャナン様に駄目出しばかり受けてる俺なんですよ? それなのに、レスターは何を言っているのでしょうか? 「……ダメ、かな?」 困った顔でレスターが言う。 駄目に決まっている。駄目に決まっている!駄目にきまっている!! 「……内緒なら、教えても良い」 俺の口から零れ出た言葉は肯定の言葉だった。 ……自分に正直すぎた。 「やった、じゃあ、時間のある時でいいから教えてくれる?」 「分かった。人目につかない所、探しておくよ」 「ありがとう、スカサハ」 レスターが凄く喜んでいるのを見て、俺も嬉しくない訳じゃない。 俺の太刀筋が好きだって言ってくれた。俺の事を信頼してくれた。それ以上になんの望みがあろうか。 そうだ、嬉しいんだ。レスターがこうして俺の事を信じて頼ってくれる事を。 俺は嬉しいと感じている。新しい発見だった。 今までは、俺が一方的にレスターのことを護ろうと思っていた。レスターは懐に潜り込まれると、対処が出来ない。だから、俺はレスターの背中を護ろうと思った。 この気持ちが何なのかは知らない。小さい頃から気が合って、何かするにも一緒だったし、暴走妹のラクチェのラナへの愛情アタックも不安半分でお互い見守って来た。 この感情を何と呼べばいいのだろう。 『好き』? その言葉も当てはまっているかもしれない。 でも、同時に違うような気がするのだ。 『友情』? 多分その言葉は当てはまらない。友情なんて、もっと昔から感じているんだ。 じゃあ『家族』? これもきっと違う。セリス様やラナやデルムッドにはそんな感情が一番ふさわしくて温かい。 でもレスターに対する思いの言葉が分からない。 分からないけど、『好き』よりずっと好きで……優しく温かくて……。 彼が俺を信じてくれる。それだけで俺は浮足だってしまいそうだ。 何だろう、この気持ちは。 俺は確かにレスターが好きだ。温和で優しくて礼儀も正しい。話していると、自然に笑顔がこぼれる。 『好き』それだけは間違いない。いや、『大好き』なんだと思う。 小さい頃から一緒で、お互いの腹のうちを分かっているつもりである。 でもレスターは時々読めないのだ。その思考がどうして生まれるのかも分からない。 いや、もうこれ以上考えるのはやめておこう。 早く寝て、シャナン様が起き出す前に、向こうにある明るい日が差しやすい森で、内緒の鍛錬を組もう。 スカサハはそう決めた。レスターに後で知らせなくては。そう思うと心が躍った。 「ねーえ、スカサハ。私に何か隠していない?」 これから寝ようとしたスカサハにラクチェは枕を抱えながら苦い顔をして問う。 これでもポーカーフェイスのつもりなんだけど、ラクチェに見破られるとは、ちょっと浮足だったのかもしれない。 「スカサハ、なんか、食事の時から、凄い嬉しそうなんだもん。気になるじゃない」 ラクチェが頬を膨らます。 ラクチェか……。 双子は同じものを好きになる。でも俺は半分だけ。ラナはどうしても妹に見えてしまう。ラクチェが一緒にべったりしているせいもあるのだろう。 でも、おそらく、ラクチェも好きなはずなんだ。レスターを。 多分、まだきっと分かっていない。気がついてないのは当人たちだけだ。 レスターは鈍感だし、ラクチェは今はラナの事でいっぱいなんだろうと思う。 そう、きっとラクチェは好きになるだろう。ラナだけでなくレスターの事も。 その時、俺はどう思うんだろうか。妹を親友にとられた?親友を妹にとられた? スカサハはそこまで考えると自嘲気味に笑う。 まだ決まった訳じゃないんだ。例え、そうなっても、それはそれでいい。 俺がレスターが好きだということを隠せば良いだけ。 別に諦めたわけでもない。別に気を使う訳でもない。 スカサハはこの感情に答えを見つけていた。 そう、これは『愛情』なのだと。 そうくくってしまえば、全ての感情に理由がつく。 別に男が男に『愛情』を持っていても良いだろう。この気持ちは『恋愛』とも違うのだから。 失いたくない大切な人。 そういう事だから。 「なーにーよー!一人でなんか考えこんじゃって!」 ラクチェは頬を膨らませる。 まあ、ラクチェの質問にも答えていないから、文句を言われても仕方が無いのだけれど。 「なあ、ラクチェ。レスターの事、好きか?」 「な、なに、改まって。わ、私がレスターを?!」 真っ赤な顔になって、ラクチェはぶんぶんと首を振る。 確かに双子は同じものを好きになる。これは当たっているのかもしれない。 「顔、真っ赤だぞ。好きなのか?」 俺はからかい気味にラクチェに言った。それに対してラクチェの顔はもっと上気する。 「ち、ちが、違う!私の好きな人はラナであって、だ、だからっていって、そ、その、兄まで、す、好き、と、は」 ラクチェは混乱しているようだ。そうか。レスターに対して、まだ恋心が淡いのか。 でも、俺には分かっている。この妹はそう遠くない未来でレスターを好きになるだろう。 まあ、レスターが誰を選ぶのかは分からないけれど。こればかりは俺にも見当がつかないからな。 ていうか、ラクチェってシャナン様に憧れていたような気がするんだけど、いつの間にかラナにすりかわっているようだ。 そう、人間の心は移り変わりやすい。 でも、確かなものはある。俺もラクチェもシャナン様を尊敬しているし敬愛している。それは間違いのない事。 ……それが、『恋愛』に繋がるかどうかは別の事。そして『愛情』に変わるのも別の事。 それは、きっと本人の中に芽生える何かなのだろう。 「じゃあ、嫌い?」 俺は、わざといじわるな質問を投げかける。それにラクチェは、別の意味で顔を赤くし、持っていた枕を思いっきり俺に投げつけてきた。 「嫌いなわけないでしょ!! ……そ、そりゃあ、私、レスターに頼ってばかりだけど……レスターのこと『好き』なのは間違いないよ」 ラクチェは最初は怒っていたものの、急にしゅんとなってしまった。言いすぎたかな。 「なあ、ラクチェ」 「なに、スカサハ?」 俺の言葉にラクチェがおうむ返しに答える。 「レスターが好きなんだったら最初の難関は俺だから覚えておけよ?」 俺はわざと、ふざけ半分で言う。こういうと悪趣味だが、ラクチェはからかうと面白い。 現にラクチェの顔がかーっと赤くなっていく。さて、次はどんな言葉が待っているのだろうか。楽しみだ。 「……う、うう、レスターは好きだけど、スカサハが壁なのは……ちょっと……いや、かなり嫌」 なるほど、こう来たか。まあ、立派な壁になってやるつもりではあるけどね。 まあ、それも、最後はレスター次第なのだから。 双子は同じものを好きになる。それはきっと俺達にとってはレスター。 違う事は、ラクチェはラナを溺愛していて、俺はラナをもう一人の妹にしか見えない事、だろうか。 半分、本当、半分外れ。 それはそんなものなんだろう。 「スカサハの馬鹿〜」 ラクチェが俺の顔を恐ろしい形相で見ている。 却って目を覚ませてしまったか。 「なんか頭の中がレスターでいっぱいになっちゃったじゃない〜!」 それを、俺は笑って返す。 「いいじゃないか。きっと、良い夢見られるよ」 「馬鹿スカサハ―!!」 俺の笑顔にからかいの色が混ざっているのだろう。ラクチェは今度は俺の枕を投げつけた。 「もう、もう、スカサハなんて知らない! 今日はエーディンさんのトコ行くもん!!」 そう、宣言して、ラクチェは枕を一つ抱えて出て行ってしまった。 ちょっとからかいすぎたかな。でも、あれだけ反応見せるとなると……本当に俺がライバルかもな。 そんな事を思った。 それから数日後、早朝の、まだ寒い空気の中で、俺とレスターの剣術の稽古は始まった。 いきなり実践は出来る筈が無いので、まずは木刀を振る所から始める。 俺は俺でレスターに課題を与えておいて、自分の鍛錬をする。流星剣もマスターしているし、父親譲りの力と押しはシャナン様にも褒められている。 時々、俺は手を止めて、レスターの様子を見る。 集中して、しっかりと、木刀を振っている。集中力はさすが、弓騎士だけあって、周りの事は全く目に入っていないようだった。 これだけ集中して剣を覚えるのであれば、予想より、早く習得するかもしれない。 ……そう思うと、ショックを受ける自分がいる。 それはとても良い事なのに、何故か胸がきしんだ。 別にレスターに剣を覚えて貰うのが嫌では無い。 ……ただ、単純に……一緒に鍛錬する事が出来なくなる日が近づくからだ。 そうすると、俺の役目も終える。騎乗に関してはデルムッドがフォローしてくれるだろう。 ……それがつまらないだけなんだ。 思いがけず手に入った、レスターの横。多分、俺はそれを失いたくないのだろう。 ……でも、それは、まだずっと先の話。その頃には、俺達はどうなっているのだろうか。 人は言う。双子は同じものを好きになると。 それは半分当たりで半分外れ。 ……私はね? 「な〜ん〜で〜、二人揃って朝食に間に合わなかった訳?」 私の言葉は最高潮のようにひきつった声だったのだろう。 スカサハはけろっとしているけど、レスターは申し訳なさそうな顔をしている。 まあ、スカサハはああいう性格だし、けろっとしててもおかしくないけど、レスターまで遅れるってやっぱりちょっと変だよね? 大体、レスターは凄く真面目で、時間を守らない人じゃないのに。 スカサハと二人でやってきたから、二人で何かしてたということよね? なあに、私とラナとデルムッドはのけものな訳? あーあ、朝から気分悪いわ。 レスターとスカサハが何か話しながら食卓についている。その言葉は聞こえない。 ……意識しちゃうじゃない。スカサハが変な事言うから…… ……『レスターが好きなんだったら最初の難関は俺だから覚えておけよ?』 なに、あれ、なに、あれ、私に対する挑戦状? ていうか、なんでレスターを巡ってるのよ!そして、なんで、私、それに焦るの?! 私はラナの騎士だし、スカサハとレスターは前線組でしょう? ……そうか、だから早朝から起き出して、二人で訓練を…… 二人で訓練を?! なに、それ、分かんない。だって、スカサハ剣士でレスター弓騎士でしょう? なんで、一緒に鍛錬するの?全然違うじゃない。 騎馬に乗るならオイフェ様がいらっしゃるし、剣士ならシャナン様もいらっしゃるのよ? それにレスターが弓の稽古を一人でしていても、それはおかしくはないわ。 でも、おかしいでしょ!レスターだけならまだしもスカサハが一緒なんて! 「レスター兄様、スカサハと一緒に鍛錬なさっていたの?」 ラナが柔らかい声で二人に尋ねる。 さすが、ラナ!多分、私と考えていることは全然違うんでしょうけど、それはナイスな質問だわ! ラナに問われたレスターとスカサハ、お互いの顔を見合わせてる? 「ああ、弓の稽古してたら、スカサハと偶然、会ってね」 「そうそう、レスターがいたんでびっくりしたよ」 ……お二人さん?棒読みなんですけど。 「まあ、朝から頑張るのは良い事だ。でも時間にルーズになるなよ?」 シャナン様がにっこりと笑われて……あ、なんか半分怒ってるっぽい。 「とにかく、二人とも、遠出はしないでくれ。いいな?」 「……はい」 シャナン様の言葉に、スカサハもレスターもしゅんとする。 え、じゃあ、やっぱりさっきの棒読みは気のせいじゃないってこと? なんなのよ、私達に黙ってるなんて! 兄弟でしょ?幼馴染でしょ?一緒に住んでる家族でしょ?なんで、言わないのよ!! 「……仕方が無いな。スカサハ、レスター。食事が終わったら私の所へおいで」 オイフェ様が諭すように、そう二人に声をかけた。スカサハもレスターもしゅんとしている。 まあ、オイフェ様の方がシャナン様より厳しくないから大丈夫よね? って、私、なんの心配してるのよ!いいきみだわ!! 「……大丈夫かな、二人とも。……すごく心配」 私とした事がラナの事を忘れるなんてどうかしてたわ。ラナは純粋に心配しているし。 それに比べて私はいつも……。 「ラクチェ?どうしたの?大丈夫?」 隣のラナが優しく声をかけてくれる。その言葉一つ一つが温かかった。 ラナに言われると弱い。ラナは年下だけど、芯が強くて、たまに私の方が子供になりそうになった。 「じゃあ、とにかく食事にしましょう?」 エーディンさんの優しい声に、一同は祈りを捧げて朝食をとった。 でも、私は、レスターとスカサハの事が気になってしょうがなかった。 ラナが大好きだけど、レスターもスカサハも好き。二人は何をしでかしたのか、それが気になってしょうがなかった。 「で、説明をしてくれるね?」 オイフェ様の声は優しい。俺達を責める、そんな言葉じゃなかった。俺はレスターと顔を見合わせる。 レスターはにっこりと笑った。それは、レスターが全てを話すという事に他ならなかった。 ……俺は、引き受けた身だ。最初の事はレスターが話さなければならない。 「オイフェ様、俺、剣術を覚えたかったんです」 レスターの声は朗々としていた。それは一点の曇りも無い言葉だった。 「何故、剣術を覚えたいと思ったのかい?」 オイフェ様の口調はあくまでも優しい。俺の知る限り、彼が怒ったのを見た事が無いくらいだ。 ……いや、俺達がその第一号になる可能性も十分高いのだが。 「俺、間接攻撃しか出来なくて……敵に突っ込まれると、防戦一方になってしまいます」 「そうだね。君は弓騎士だからね」 「……はい。だから切り札として剣を扱えるようになりたいんです」 レスターの言葉には曇りはなかった。むしろ、俺が問われた時、何と答えればいいのか分からないくらいに。 「……何故、私やシャナンに相談しなかったんだい?」 オイフェ様の口調が若干強くなる。だが、レスターは真っ直ぐオイフェ様を見ていた。 「俺は……スカサハの剣術が好きです。俺は剣術の血を引いていないけれど、それでも、身を護る…誰かを護れる力が欲しかったんです」 「それが剣術だと?」 「はい」 レスターは本当に堂々としていた。俺の方がどきどきしたくらいだ。 ……それに、レスターが俺の剣を本当に好きでいてくれる事が嬉しかった。 「スカサハ」 「は、はいっ」 急に名前を呼ばれたので、俺は飛び上がりそうになった。 だが、オイフェ様の言葉は、どこまでも優しかった。 「それで、スカサハはレスターに教えてあげることにしたんだね?」 「は、はい」 それ以上の返事は出来なかった。言い訳なんてする必要もなかったから。 「……うん、事情はよく分かった。 お互いが強くある故の事ならば……それを思いついたならば、私やシャナンは止めはしないよ。危なすぎるものに関しては、ストップかけるからね」 「は、はいっ」 怒られると思っていた俺達二人は、あっさり許しを貰えたので、狼狽が隠せいない。 「あ、それと、稽古するなら遠出はしない事。危なくない所でやってくれて構わない」 オイフェ様の言葉はどこまでも優しかった。俺達の気持ちをきちんと汲んでくれた。 「……しかし、レスターが剣もと思ったのは意外だったな。私はスカサハかデルムッドに背中を預けて戦うものだと思っていたからな」 オイフェ様は俺と…いや、俺と似たような事を思っていたらしい。そう、大体俺は、教えるんじゃなくて背中を護りたいと願っていたのに。 レスターは笑顔で答えた。 「俺、自分の大事な人を失うのも、護れず死んでしまうのも嫌でしたから、もっと力が欲しかったんです」 ……それは誰もが一緒だ。だから鍛錬を繰り返す。その中で新たなものを覚えるというのは、とても大変な事だから……。 「レスター、大変だけど、覚えるんだね?」 オイフェ様が再度確認をする。それにレスターはこっくりと頷いた。 「はい。切り札は必要ですし、スカサハは丁寧に教えてくれるんです。ここまでしてもらって、諦めるなんて出来ません」 そう、はっきりと言いきった、そのレスターの気持ちが、俺には凄く嬉しい。 オイフェ様がにっこりと笑う。 「じゃあ、支障が出ない程度に、二人で頑張りなさい」 その言葉に、俺もレスターも瞳を輝かす。 オイフェ様のお墨付きだ。これからは隠れずに堂々とできるんだ。それが凄く嬉しかった。 オイフェ様の元から戻って来たスカサハとレスターは、すっきりとした顔をしていた。 私のカンが二人の稽古の了承が取れたものだと分かった。 なんか、悔しい。べ…別にスカサハが羨ましいとか、そんなんじゃないからね! でも、レスターとスカサハが一緒にいる所を、これからはしょっちゅう見るのだろう。そう思うとなんだか、もやもやとした気持ちになる。なんだろう、この気持ちは。 「ラクチェ?どうしたの?」 傍で、愛しのラナが私の顔を見上げてくる。 うう、可愛い!! 思わず、ぎゅーっと抱きしめてしまう。 「きゃ、な、な、なに、ラクチェ?!」 ラナが私の腕の中で、じたばたしている。それがなんだか可愛くて余計に力を入れてしまう。 スカサハがレスターに思う感情は、私がラナを思う感情と似ているのだろうか。 でも、私も剣士なのに、なんだかのけ者にされたような気がして、それがどうしてもひっかかってしまう。 「ラクチェ?どうしたの?」 心配そうにラナが見上げてくる。うう、可愛い!!ラナ、可愛い!! そうか、私がラナを独占してるんだもんね。スカサハがレスターを独占したって文句なんて言えないよね。 ため息、一つ。 私はラナが大好きで、ずっと一緒にいたいって思えるくらい大好きで。 だけど、レスターも大好きで……辛い時に慰めてくれる人はいつもレスターだった。 ラナとレスターの二人を独占してしまいたい、そう、わがままな気持ちが押し寄せてくる。 ラナは本当に小さい頃から大好きで、兄であるレスターが羨ましくて、今はラナのナイトになるべく、剣術の修行をしている。 ……多分、私は妹が欲しかったのだと思う。そして、スカサハより年上な兄が欲しかったのだと思う。 一見無い物ねだりに見えるけれど、私の傍にはいつもレスターとラナがいた。 私の事を心配してくれるお兄さん的存在のレスター。 私の事を慕ってくれる妹みたいな存在のラナ。 そう、ラナが好きなのだ。レスターが好きなのだ。 この気持ちには偽りは無いけれど、名前が分からない。 ラナが大好き。レスターが大好き。勿論、スカサハだって大好き。 ……でも、それじゃ、何か違うような気がする。 一人一人に持っている『好き』って気持ちが、全部違うもののような気がするから。 多分、スカサハは『お兄ちゃん』、ラナは『妹』、ううん、『護りたい人』。 じゃあ、レスターは? 確かに『お兄ちゃん』みたいな存在だけど、スカサハとは全然違う。優しく、気持ちを汲み取ってくれて、あったかい気持ちにさせてくれる。だから、大好き。 ……だけど。レスターに対する気持ちは、何と言えばいいのだろう。『お兄ちゃん』でもなくて、『護りたい人』でもなくて。 ……うーん。大好きなのは間違いないけど、この好きって気持ちは、デルムッドやシャナン様たちに感じる『大好き』って気持ちと違うんだ。 おかしいな、私。 別に一人一人に同じ感情を持っていたって良いんだ。良いはずなんだ。なのに、なんで、気持ちが焦るの? 私にとってレスターってなんだろう?どうして、ヤキモチみたいにスカサハが羨ましいの? でも、今は分からない。きっと時間が経てば分かるかもしれない。 後悔しないように、出来るだけ早いといいんだけど、これはどうしようもないね。 でも、レスターを見る度に、胸がふわっとした気持ちになる。これだけは間違いが無い。 ……だからきっと。いつか分かる。 人は言う。双子は同じものを好きになると。 それは半分当たりで半分外れ。 私は、ラナが大好き。だけどレスターも大好き。 多分、どこかはスカサハと違うんだろうと分かる。 確信はないけど、それは分かる。 双子は恋をする。場合によっては同じ人に恋をする。 自分達は後者の方だろう。 でも、『愛情』を持ち続ける限り、きっとその関係は良好に続くだろう。 そして、レスターもきっと『愛情』を返してくれるだろう。 俺とラクチェとそれぞれ、違う形に。 だったら、それでいい。それで十分。 双子は一人の人を大好きになって、愛したいと、愛されたいと願う。 俺とラクチェはレスターの事をそう思っている。 ……だから、きっと、いつか、今の関係は壊れるだろう。 でもレスターが相手なら、きっと良い方向に進むに違いない。 いつか、答えがでるまで。 終わり。 子世代双子の話でした。 うちのスカサハってこんな感じです。ラクチェがラナのことを可愛くてしょうがないように、スカサハもレスターが大好きなのです。 一応、出撃前なのでカップル色は薄めかな。 こんな話もあっていいかなと思って書きましたv |