『本日釣り日和』 リュウがその無理難題を聞かされたのは……ウィンディアを発ってからだった。 いつものように、野宿の食料の足しという名目で釣りを始めていた。 青い空、青い海。今日の海はなだらかで、なかなか釣れそうな感じだ。 そんな気分の良い時に、隣り誰か座り込む。 視線を向けると、赤い髪の少女だった。先ほど、狩りに行くと出かけていったばかりだった気がする。 何故、ここに居るのだろうか? リンプーはリュウに構うことなく、じっと海を眺めていた。ばたばたしっぽが動いている。何か考えているのだろう。 リンプーは魚を食べる事に興味はあっても釣りには興味が無かったはずだ。 いぶかしげな視線に気がついたのだろう、少女はこちらの方に振り向いた。 「ねえ、リュウ」 「なんだ?」 わくわくした視線が送られる。何を言ってくるというのだろうか。リュウは反射的に身構えた。なんとなく、彼女の言いそうな事は難しそうに思えたからだ。 その予想は半分当たっていた。リンプーは満面の笑みでこう言った。 「あたし、アユが食べたいな!ウィンディアの宿屋で食べたの美味しかったんだ〜! リュウ、アユ釣って〜!」 その言葉にリュウは反応に困った。 アユ。アユなら知っている。リンプーが言ったように、ウィンディアで食べたし、知識としても持っていた。 そう、アユはれっきとした川魚だ。海で釣れる筈が無い。 リュウは素直に答えることにした。残念がるだろうが仕方が無い。海では絶対に釣れないのだから。 「……リンプー」 「何?」 きらきらした視線が返ってくる。リュウはため息をついた。物凄く言い出しにくい。だが、言わなければ彼女は自分が釣ってくれなかったと騒ぐのだろう。 「あのさ、アユは川に住んでるからここじゃ釣れないんだよ」 リンプーはリュウの言葉にきょとんとする。 「お魚って、どこでも同じものが住んでるんじゃないの?」 ……さすが、魚釣りに興味が無いだけの事はある。予想の範囲の返答ではあったけれど。 リュウは苦笑いを浮かべた。 「住んでないよ。ほら、モンスターだって住んでいる場所が違うだろう? メダマグミはモトの町近辺には一杯居るけど、コロシアム近くにはいなかっただろう?同じようなもんだよ」 リュウは彼女でも分かるたとえで説明する。好戦的な彼女にはモンスターで説明するのが一番手っ取り早かった。 リンプーは納得したように頷く。 「そっか〜…。ここには居ないんだ〜」 残念そうにリンプーは海をじっと見つめていた。しっぽの動きも寂しげだ。 とりあえず納得してくれたようでリュウはほっとする。 ずっと海釣りをしてきたリュウにとって、実は川魚はあまり興味が無い。 アユも食べたけれど、海で釣る魚の方がずっと美味いと思うからだ。 アユよりイワシやキスの方が何十倍も美味いんだ!! 本当はそう主張したいところだか…残念そうなリンプーにそういうのはさすがにためらわれた。 飽きっぽい彼女のことである。そのうちアユの事は忘れるだろう、そう思った。 そして、一旦共同体に戻ってきた日の事だった。 「リュウ!」 リンプーに突然呼び止められた。何故か、彼女は自分の釣り道具を持っている。 「……なんで俺の釣り道具を持ってるんだ?」 リュウの疑問にリンプーは笑顔で答える。 「これから釣りに行くの!だから貸して〜!」 「……はい?」 今まで釣りをしようとした事が無い彼女が釣り? さっぱり意味が分からない。 状況がさっぱり分からないリュウに気がついたリンプーは元気の良い声で答える。 「ちょっとね、アユ釣りに行こうと思って!」 アユ? すぐに忘れるだろうと思っていたのに、しっかり覚えていたらしい。 リンプーは楽しそうに言葉を続ける。 「あのね、ニーナがアユは綺麗な川に住んでいるって教えてくれたの!」 ……ニーナ、余計な事を!! 「でね、その話を聞いてたボッシュがフタビ山の川で見たことあるって!」 ……ボッシュまでか!! 「だから、ちょっと行ってくるね〜!」 ……しかも一人で行くのか!! リュウはリンプーの肩に手を置いた。 「……あのさ、釣りしたことあるのか?」 ばつの悪そうなリュウの顔にリンプーがきょとんとした顔をする。 「無いよ?」 「……やっぱり」 リュウはがっくりと肩を落とした。 もしかして、釣り糸を垂らせばサカナが連れると思っているのだろうか。 そんな単純な事でサカナが釣れる筈無いだろう。だが、大抵の初心者にそんな事を言っても分かるはずが無い。 リュウは釣りの難しさについて話そうと思った。だが、その言葉は飲みこむはめになる。 「リュウ、もしかして……ついてきてくれるの? 良かった〜、ちょっと心細かったんだよね」 リンプーは本当に嬉しそうな顔をした。 その笑顔にリュウは思わず頷いてしまう。 「本当?やった〜!」 リンプーは大喜びだ。だが、その姿を見ながらリュウは頷いてしまった事を激しく後悔する。 川釣りなんてした事がないのだ。 その事実を言い出せないまま、リュウはリンプーに手を引かれてフタビ山へと向かうことになった。 渓流にアユは居る。話には聞いたことがあった。 リュウは流れる川を見つめながら、どうするべきか考えた。 そもそもエサはどうするんだ?ミミズで釣れるのか?エビならいけるか? 隣りではリンプーがウキウキした顔で川の流れを見ている。何だかこのままでは釣り上げるより先にリンプーの方が先に飛び掛ってしまいそうだ。 釣りは釣れたり釣れなかったりする。だからこそ、釣り上げた喜びは大きいし、また釣りに行こうという気持ちになるのだ。 ……だが、この調子では釣れないなんて事になったらどうなるのだろうか。 リュウはリンプーをちらっと見た。わくわくとした顔でしっぽをぱたぱたさせている。釣れなかったりしたら…飛び込みかねない。 川の渓流は深さがばらばらで、流されたりしたら危険だ。海で泳げるものであっても川では泳げない事がある。 これは意地でも釣り上げないといけないな。 リュウはそう腹をくくった。 とりあえず、まずは飛び込みかねない勢いの彼女を川辺から引き離す事が先決だ。無事に釣り上げさえすれば満足だろう。釣りをやらせるよりは、待たせた方が良さそうだ。 「えへへ、綺麗だね〜! さあ、頑張って釣ろう!」 リュウの思惑とは違い、リンプーは釣る気満々だ。リュウはため息をつく。 「今日は俺が釣るから、リンプーはその辺で遊んできなさい」 「え〜……」 釣りをするなと言われたリンプーは不服そうに頬を膨らました。 釣りに関わろうとしてくれている事自体は嬉しいのだが、よく知らない川釣りを彼女に教えることなんて不可能に近い。 リュウは苦笑いを浮かべた。 「もうちょっと簡単に釣れる所だったらやらせてやるから、ね?」 リュウにそう言われて、リンプーもしぶしぶ持っていた釣り道具をリュウに渡した。彼女から見れば、おそらく自分は釣りのベテランのように映っているのだろう。本当は川釣りなんてした事がないのだとしても。 「……じゃあ、あたし、狩りの獲物いないか見てくるから……お願いね」 リンプーはそう言うと、川辺から山の方へと走っていった。 その後姿を見送りながら、リュウはとりあえず安堵する。 さて、次は無事に釣れるか、だ。 リュウは激しい流れに釣り糸を垂らした。 釣りは意外に思われるが、実は結構忙しい。針が根がかりしないようにしなければいけないし、エサを動かす必要もあった。 そう、知らない人には意外に思われるが…実は気の短い方が向いているものだったりする。そういう点では……リンプーも面白がるかもしれない。 海の波と違って、川の流れはまったく違う。 何度も場所を変えてみたりして当たりを待つ。 ……やはり知らないと勝手が分からないものだ。 大体、川魚なんて泥臭いんだし、海の魚の方が絶対に美味しいんだ。釣りだってあの大きな海を見ながら釣るのが良いんだ! だんだん、川釣りに対する不満へと変わってくる。 ここは川釣りをするいい機会だと楽しむべきなのかもしれないが…あまり向いていないようだ。 なんだってリンプーはアユが良いんだろう。そういう疑問が浮かんできた。 だが、一番に考えられる事としては一つだ。 物珍しいのだろう。 最初、出会った頃は、リュウの釣り上げる魚を珍しそうに喜んで食べていたのを思い出す。 早い話…もうイワシやキスには飽きているのかもしれない。 ……そろそろ別の魚も狙うべきなんだろうか。何だか悲しくなって、リュウはため息をついた。 風が冷たくなってくる。空を見上げると、大分日が傾いていた。 これは諦めるしかないのだろうか。 そう思っていた所にリンプーが走って戻ってきた。 「リュウ!釣れた〜?」 満面の笑みで走ってくる。 全く釣れていない事を伝えないといけないのかと思うと、リュウは苦い顔をした。当初の懸念が蘇ってくる。 ……まいったな、本当に飛び込んだらどうしようか。 リンプーはリュウの魚篭に何も入っていないのを見て、がっかりした顔をした。 「なんだ〜、リュウもハズレかあ」 つまらなさそうにそう言うと、しゃがみこんで川を見つめる。 一方のリュウは目を丸くした。 リュウ「も」?という事は…… 「リンプーもハズレならおあいこだな」 「そうですよ〜だ!」 からかうように言うリュウにリンプーはべ〜っと舌を出してみせる。 その姿にリュウはクスクスと笑うが、内心はちょっとほっとしていた。 彼女もハズレなら……責められる事はなさそうである。 「……アユ〜……」 まだ残念そうにリンプーは川を見つめる。一匹でも釣れたら喜ぶだろうとは思うが、そう簡単にはいかない。 だが、川を見ていたリンプーが目を見張る。同時にリュウも手に力が入った。 当たりが来たのだ。 「リンプー、網、網用意して!」 リュウが叫ぶ。その声にリンプーは慌てて傍にあった網を手に取った。 「……よ〜し、きてる、きてるぞ」 リュウが糸を引くタイミングを図りながら、少しずつ引き寄せていく。 ぱしゃん!水しぶきが上がった。 「よし、引き上げるぞ!網、頼む!」 「うん、分かった!」 リュウが思いっきり最後に引き上げる。ばしゃんと大きな音をたてて魚の姿が宙を舞った。それをリンプーが網へと引き入れる。 「やった〜!釣れた〜!」 やっと釣れた獲物を持ったリンプーが川原で魚から針を外し、その場で絞める。魚の鮮度を保つためにはこうするのが一番良い。 「やれやれ、釣れたな」 リュウも安心したようにそう言って近寄った。なんとか面目は立ったようだ。 だが、魚を見ていたリンプーが首をかしげる。 「……これ、アユ?」 リンプーが指を指す。リュウは覗き込んだ。 先日、ウィンディアで食べた魚とは違った模様をしていた。 「……アユじゃあ無いみたいだなあ」 「じゃあ、何?」 アユではないという回答に対して鸚鵡返しのように質問が返ってくる。 ……だから川魚は知らないのだ。リュウは苦い顔をした。 「知らない。似たようなもんじゃないのか?」 その回答にリンプーは目を丸くした。 「え〜、リュウに知らない魚は無いと思ってた!」 知らない魚の方が多いのが普通だよ。そう思ったがとりあえず言うのは止めた。 「……まあ、調理方法はおんなじで良いんじゃないか?川魚には違いないし」 「……グミとガンヘッドみたいに違うんじゃないの?」 この間の海と川の魚の違いの例えが持ち出される。リュウは苦い顔をした。 もしそうだとしても、知るものか。 こうなったら、言い出したボッシュにどうにかしてもらえば良いのだ。 そもそもボッシュがこの山にアユが居たとか言うからだ。 だんだんと責任がボッシュへと移っていく。 「大丈夫、ボッシュが上手く料理してくれるって」 「うん、そうだね!」 リュウが勝手にボッシュに責任転換をしている事も知らないリンプーは嬉しそうに微笑んだ。アユでは無いにしろ、望んでいた獲物が手に入ったのだ。嬉しいのだろう。 その嬉しそうな顔に、リュウも満足げに微笑んだ。そう、それだけ喜んでもらえたのなら良いだろう。 魚を魚篭に入れながら、リンプーは片づけをしているリュウの方を見てにっこりと笑った。 「ねえ、今度はちゃんと釣り、教えてね?」 その言葉にリュウは嬉しそうに笑った。 「ああ、ちゃんと教えるよ」 そうして、二人は帰途へとついたのだった。 おしまい。 落ち考えずにざかざか書いたというとんでもない話でございます。いや、最初は釣れずに終わるつもりでしたが…リュウに華でも持たせようかと思って。なんの魚かも分かってませんけど。 そう、最後まで実は川釣り経験が無いことを言わないリュウ(笑)。私のリュウさんは頑固なのです。かっこ悪いところは見せたくないのですよ(笑)。ま、普通は誰でもそうだろうと思いますけどね。 同盟も立ち上げたし…何か更新を…と思って頭悩ませて出てきた話です。2のリュウって川釣りしてないですよね??というか魚が全部海にいる魚だし…。なので、川魚を釣れとか言われたら困るだろうなあという発想ですね(笑)。 釣り、本当に気の短い人向けかと思います。理由は父の趣味だからです、釣り。お世辞にも気が長い人ではございませんので。そりゃあ、私の父ですから。 私自身もやったことはあるんですが…何故かお腹がすいて父の分のご飯まで食べた記憶が…(釣りと関係ないし)。いや、あんまりのんびり出来るものでは無かったですね。はい。3とか4みたいな感じですよ。ぼ〜っとしてて釣れるものではない。あれ。2も技術いりますけどね(^^;)。 んでもってリュウ×リンプー?って感じですが(苦笑)。胸をはってそうだと言わせて下さい(^^;)。だって、こんなイメージなんですもの〜;; 仲良くじゃれていてくれたらそれで良いのでございます。 同盟も作ったし、小まめに更新したいなとは思ってます。さあ、また次のネタを探さなくては(><)!! ちなみに私、海魚派です。川魚も美味しいのは最近知りました。アユの塩焼きって美味しいんですね!!感動。最近は川の魚も良いかもと思ったりしております。まあ、今回の一番の問題は…私に川釣り経験が無いことですね!!…怖いんですよね、渓流釣り。父も海専門なので縁無しです。 |
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