『二人旅』

 空が澄んだブルーから少しずつオレンジに染まっていく。風も心なしか寒くなってきていた。
 日が傾いている。もう下りに入っているとはいえ夜の山は怖い。
 今日はこの辺で野宿する場所を探したほうが懸命だろう。
 本当なら、少なくともフタビ山を下山し終わっているはずだったのだが、一緒にいる連れがあちらこちらのものに何でも興味を示すので、それに付き合っているうちに日が暮れてしまったのだ。
「……まあ、仕方がないか」
 あんまり悪い気はしない。説明して回るのは結構面白かったし、素直な反応が返ってくるので話しがいもあった。
 女の子と二人だけで旅するなんて初めてだからどうして良いか分からなかったが、彼女はとてもサバサバしていて付き合いやすく、時にとても子供っぽくて話しやすかった。
 闘技場のスターだったからとっつきにくいのかと思えばそうではなく、歳が近いこともあって気も合うし、何でも楽しんでしまえる性格はとても前向きで心地よかった。
「リンプー!そろそろ野宿の準備をしよう」
 山道をきょろきょろしながら軽い足取りで先行く真紅の髪の少女にリュウは声をかけた。
 その言葉にリンプーと呼ばれた少女はくるっと振り返る。意志の強そうな印象を受ける少女だ。
「そうだね!……どこら辺が良いかな?」
 辺りを二人で見渡す。なだらかな下り坂の向こうにキャンプを張れる位のスペースを見つけた。
「じゃあ、あそこで今日は休むか」
「あ、ご飯はあたしが作るね!リュウはキャンプよろしく!」
 リンプーがニコニコして手を上げる。満面の笑みだ。
 逆に何だか不安を覚える。
「……良いけど……作れるのか?」
「大丈夫だよ!
 ……あたし、修理とか手伝えなかったし、ね?」
 何だか自信満々だ。そういうとリンプーはさっさと夕飯の支度に取り掛かり始めた。
 リュウはそれを見て、キャンプの準備に取り掛かる。
 実の所、リュウはあまり料理が得意ではない。
 小さい頃は母や父が作ってくれたし、ボッシュと出会ってからは何かしら彼が調達してくれるなり作ってくれるなりしていたので自分で作ったことなどほとんどないのだ。
 以前、ボッシュが怪我をして作れなかったときに、気持ちばかりの料理をこしらえてみたのだが…何故かそれ以来ボッシュは何が何でも自分で作るようになってしまった。
 自分が食べる分には、確かに見た目は悪いけれど食べられるものだとは思う。
 ……だが、総合判断するとあまりおいしいとはいえない代物なのだろう。
 リンプーも…正直に言ってあまり料理をするようには見えないから期待はしていない。
 おそらく自分と同じかそうじゃないかくらいだろうか。
 ……それならあまり変わらないかと思う。
 そんな事を考えながらキャンプの準備を一通り終えた頃リンプーが声をかけてきた。
「リュウ〜!できたよ〜!」
 にこにこして手を振っている。傍にある鍋からはおいしそうな香りと湯気をたてていた。
「!!!!!!」 
 鍋の中身を見てリュウは絶句する。
 じゃがいも等の野菜類はほぼ原型のままで、多少小さくは切られているものの恐ろしくいびつで、無造作に先日リンプーが狩りでつかまえた猪の干し肉がごろごろといれられている。
 ……何故、匂いがおいしそうなのか謎だった。
 ……俺より酷い料理かも……。後悔がリュウの脳裏を過ぎる。
 そんなリュウの事はおかまいなしでリンプーはお皿に鍋の煮物なんだかスープなんだか分からない代物を注ぎ、にこにこして手渡した。
「えへへ、自信作なんだ♪」
 満面の笑みの少女が持っているのは何だか分からない妖しげな食べ物。
 ……これが自信作なら一体普段はどんなものだというのだろう。
 リュウの不安な表情を見てリンプーが慌てる。
「あ、見た目は悪いよ。あたし…細かい事苦手だし。でも味は保障するから…食べて?」
 必死のリンプーにリュウは諦めのため息をつく。
 作らせたのは自分の責任だし、もうお腹もペコペコだし、腹をくくるしかない。
「……いただきます」
 決死の覚悟でリュウはその妖しげな料理を頬張る。
「!!!」
「……どう?」
 不安げな表情でリンプーがリュウの顔を覗き込む。
「……何故だ。美味い」
「よかった〜……って何故って何?」
 横でリンプーがなにやら言っているがリュウはしきりに首をかじげる。
 形も見た目も最悪に近いこの代物が何ゆえ美味しく感じるのだろう。
 でも美味しいものは美味しい。それに空腹も手伝ってリュウは黙々と平らげ、おかわりを注ぎ込み食べ始める。
「あ〜!あたしの分もあるんだから食べないでよ!」
 リュウの食べっぷりに自分の分がなくなる予感がしたリンプーは慌てて自分の分を確保しに走る。
 そうして食料を奪い合うようにして夕飯は終わったのだった。
「……知らなかった。リンプーって料理…見た目は最悪だけど上手いんだな〜」
「見た目が最悪って……そりゃあ認めるけど……」
 食事が終わり、一息ついたところでリュウがリンプーの料理の感想を述べる。
 褒められてりるんだかけなされているんだか分からないおでリンプーは複雑な表情をする。
「いや、美味かった。見た目が最悪だけど」
「……なんか素直に喜べない言い方〜」
 リンプーの表情に気が付いたリュウがフォローを入れたつもりらしいが明らかに同じ事しか言っていない。
「……まあ、いいや。これでも色々食べてきたから舌は肥えてるんだよ。
 だから味付けには結構自信があるんだ」
「……これでもうちょっと丁寧に作ったら見た目も良いのにな」
「だから!細かい事は苦手なの!」
 意地悪く笑って言うリュウに、リンプーは頬を膨らます。
 からかって楽しんでいるようにしか見えないからだ。
 ……傍目からにも明らかにそうなのだが。
「ボッシュが修理より破壊しそうだからってリンプーを捜索担当にまわした理由が分かる気がするよ」
 苦笑半分でリュウがからかうようにそう言うとリンプーは驚いた顔をしてさらに頬を膨らます。
「ひっど〜い!あたしにはリュウの料理は食えたもんじゃないから作ってやれとか言ったくせに〜!」
「そんなこと言ったのか?!」
 今度はリュウがショックを受ける番だった。さすが長年の親友、的確な意見だ。本人以外には。
「言ったよ。
 でも、ひっど〜い、ボッシュ、次に会ったらただじゃおかないんだから!」
「俺も…一泡吹かせてやりたい」
「じゃあ、一緒にボッシュを驚かすってのはどう?!」
「それいいな!何にする?」
 ……とりあえず、ボッシュに一泡ふかせる同盟ができたらしい。
「そ〜だな…一人だけ唐辛子入れちゃうとか!」
「塩を倍にするとか…ネコマタギを騙して食わすとか…」
 ボッシュ、ピンチ!
 だが凶悪なたくらみは続いていく。
 その晩はいかにボッシュをいじめるかに話が弾み、夜はふけていったのだった。
 最初は不安もあったし、彼女とうまくやっていけるのか不安もあった。
 だけど、彼女となら楽しくやっていけそうな気がした。
 リュウはこれから先、少し明るい展望を見た気がしたのだった。

 終わり★

 ギャグなんだかコメディなんだか(^^;)。
 とりあえず、この二人の二人旅の様子を書いてみたくて。
 ちなみに私はリュウは料理が大雑把でとちあえず食べれるものを作る人。リンプーは見た目は超大雑把で美味しいものを作る人だと思ってます(笑)。見た目、味共に完璧なのはボッシュとランドでしょうね。…あとはそれぞれ微妙に不安が(苦笑)。
 そんな訳で、リュウ×リンプー派な私ですが、基本的にこういうノリが好きです♪ 
 こう仲良くじゃれあっているようか感じがv
 こんな短く内容もない話でしたがお付き合いくださりありがとうございました(^^)。
 


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