戦乱を乗り越え、人々が日々の平穏を取りもどしつつある中で
アスベルもまた、本来の穏やかな心と年頃の若者らしさを取りもどしつつあった。



ナウシカとは今も共にドルクに留まり、何かと助け合う仲で、とくに工房で培った技術や
実務で鍛えたアスベルの能力は、復興に大いに役立った。

ガラクタの積みあがった工場の中、故障した貨物機の修理にアスベルは大忙しである。
太陽はちょうど真上に昇り、時間は既に正午を過ぎだったろうか・・

「ちぇっ今日は特に暑いな」

しかめっ面で、手をかざしながら空を見上げる

キラ☆

その時、太陽の光を背にして大きな鳥のような物体が横切った。

「ん?」

しかし、その物体の正体をすぐに理解した。

「アスベル〜〜!!」

しかめ面だった顔がぱあ〜っと明るくなり、満面の笑みがこぼれる

「ナウシカ〜!!!」

「ごめんなさ〜い、おべんとう〜!」

そう言ってあっという間にアスベル達の居る作業場へ
降り立った。

「やあ、まさかメーヴェで来るなんて思わなかったよ」

「うふふ、あなたに直して貰ってとても調子がいいの」

「そりゃもちろん、僕が直したんだから間違いないさ」

ふん!っと胸を張り誇らしげなポーズを取るアスベル

「うふふ、お腹が空いたでしょう?はい」

そういって丁寧に布で包まれたお弁当を渡される。

「わああ、ありがとう!」

「ナーヤおばさまに教えてもらったパンよ、美味く作れたか分からないけれど・・・」

ナーヤは二人が世話になっているドルク王家の使用人である。

「とんでもない、絶対に美味いよ!」

そんな二人のやりとりを傍で見ていたアスベルの助手であり
親友のパンドは二人の仲睦ましい様子を見て、野次を飛ばしてきた。

「まったく、この暑い日に、そんな熱々を見せられたらこっちがのぼせちまうよ」

からかわれた二人は頬を染めて、お互いを見合せる。

「おい、コラ、パンド!あとでとっちめるぞ!!」

照れ隠しに怒鳴ったアスベルだが、真っ赤な顔ではいまいち迫力が無い。

「へいへ〜い、わかりやしたぁ〜」

「パンドさんの分もありますよ」

そう言ってナウシカは、もう一つ包みを出す。

「はおう〜こりゃあ」

デレデレの笑みでナウシカから受け取る。

「やい、ありがたく貰えよ!」

すこし妬いた口調でアスベルが言う。

「もう、アスベル、私たち来月、結婚式でしょ。」

そういって手をかざすナウシカの指には、アスベルが
タリア川の石で作った美しい婚約指輪がきらきらと輝いていた。