沼サンゴ層
館山小学校の西側の道を南南東の方向にたどっていくと、「沼サンゴ層」の標識があります。さらにその方向に進んでいくと、ため池の堤防が見えてきます。向かって左側の山裾の小道をのぼると左手に天然記念物「沼サンゴ礁」の石碑が立てられています。ここではサンゴなどの採取は禁止されています。サンゴ層は、保護のために設けられた柵の外から観察することになります。
沼サンゴ層は、本州ではめずらしく 造礁サンゴの化石を多量に含んでいることから、多くの研究がなされ、地学の教科書にもくりかえし紹介されている有名な地層です。皆さんの教科書(大日本図書、2分野の上)にも、沼のサンゴ化石の写真が掲載されていますね。多くの研究によると、このサンゴ化石は100種類以上にもおよび、現在でも沖縄の近海に生育が確認されているものがすべてです。その年代は約6000年前、縄文時代前期のものです。同様のサンゴ化石は館山市南条から香谷にかけての15〜20mの段丘を構成する地層中からも見つかります。
これらのサンゴが生育していた当時の館山湾(これを古館山湾とよびます)はどのような環境だったのでしょうか。おそらく黒潮の影響が強い海で、土砂を運搬するような河川の流入が少ないきれいな海という、サンゴの生育にはもってこいの環境であったのではないでしょうか。当時の海水面は温暖な気候の反映として現在より2,3m高かったことが、各地の沖積層の研究から知られています。ところで、沼サンゴ層がある場所の地層は20m近くもあります。単にその後の海面低下だけではこの標高は説明できません。おそらく大きな地震のたびに大地が隆起し、かつて海面下で生育していたサンゴが、このような高さのところまで押し上げられてのでしょう。わずか6000年のあいだにこれだけ隆起した例は、日本ではあまりありません。
参考文献:近藤精造監修「千葉の自然をたずねて」築地書館