本とホームページ


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32.gif (286 バイト)ある心理学者の本とホームページ

 平成11年にある心理学のホームページがオープンしました。このホームページは、ITに強い若手心理学者が作っていることもあり、センスといい内容といいオススメです。マスコミにも多く取り上げられている有名サイトです。

 実は、私もある理由から隠れファンだったりします。(^^) 作者と何回かメールのやりとりもしたことはあります。そこまではよかったのですが…。

 なお、特定の心理学者を批判するつもりはありませんので、このページではあえて氏名やホームページのアドレスは公開しません。どうかご了承ください。 -- H15.8.19

Red_Ball12.gif (916 バイト)「LoveとLikeを見分ける方法」

 このホームページの作者は、平成14年4月に「LoveとLikeを見分ける方法」という本を出版しました。内容は、ホームページ連載中のコラムの再編集が中心です。インターネット上で見る限り、それなりに売れていたようで、ファンの私としては素直に喜んでいました。せっかくだから本を買おうかなぁ、とも思ったのですが、ホームページと同じ内容だろうから…ということでなんとなく買う気が起こらずズルズル過ごしてしまいました。残念ながら…。

 ところが、最近になって急に気が変わりました。この本の広告を読んだら、血液型と性格について書いてあることを思い出したのです。そこで、大きな書店に行って買おうと思ったら、(なぜか?)どこでも品切れでした。う〜む(*_*)。人間とは不思議なもので、なかなか入手できないなると絶対に読んでみたくなるものです。(^^;;

 しょうがないので、大手インターネット通販会社で注文しました。大手書店で品切れの本が注文の翌日に届くんだからすごいですね。

 しかし、面白いだろうなぁ、という期待は見事に裏切られたのです!

#血液型以外のところ面白いですよ、念のため。(^^)

 この本の著者のホームページでは、血液型と性格について、坂元さんの次の論文を引用しています。

坂元 章 1995 血液型ステレオタイプによる選択的な情報使用 実験社会心理学研究 第35巻 第1号 35-48

 坂元さんの論文の内容を要約すると、次のようになります(「LoveとLikeを見分ける方法」 第5章 その8 血液型性格判断の嘘・本当 164〜165ページ)。

 被験者である女子大生約120人に、とある質問紙に回答してもらいました。
 質問紙には、架空の人物の日常性格を記した同じ文章が記載されていました。その文章には「A型、B型、O型、AB型それぞれの特徴」を含む内容が書かれていました。

 被験者は、「この人物はどのくらい×型にあてはまるか?」という質問に回答します(×型にはO、A、B、ABがランダムに入る)。
 ここで、A型とB型の性格は一般的に反対と思われているので、A型とB型だけを比較することにします(同166ページ)。

 架空の人物の特徴はどの程度A型(もしくはB型)当てはまっているかを、血液型性格判断を信じている(ステレオタイプが強い)人と信じていない(ステレオタイプが弱い)人とで比較しました。

 では、結果はどうなったのでしょう?(同166ページ)

 【結果】
 血液型を信じている: A型「24.33」 B型「20.74」 ←有意な差
 血液型を信じていない: A型「22.57」 B型「22.29」
 ※数値が高いほど“A型”の特徴をより多く認識

 う〜ん、「信じている」「信じていない」という分類が引っかかります。「正確な知識を持っている」「正確な知識を持っている」で比較すれば、もっと別な結果が出のたかもしれません。まあ、それはそれでいいとして…(同166ページ)。

 血液型性格判断へのステレオタイプが強い人ほど、A型とB型の印象得点の差は大きくなっていました(1%水準で有意な差)。つまり、同じ人物を評定しているにも関わらず、ステレオタイプが強い人は「この人はA型(orB型)だから、こういったA型(orB型)の特徴を持っているはず」と考え、それぞれの血液型の特徴をより強く認知する傾向が見られたのでした。

 ここまでは私も納得します。確かに、他のデータを見てもこういう傾向は認められなくはないですから…。

 ところが、本では、この後に(ホームページにはなかった)次の記述が追加されました(同166ページ)。

 つまり、血液型は「自分自身の思いこみのせい」であるということが検証されたのでした。

 この記述は妥当とは言えません。なぜなら、「自分自身の思いこみのせい」であるのは、血液型が違っても性格は同じと仮定した場合に限られるからです(しかし、この仮定をすると循環論法に陥ります)。では、元々の性格が違っていたらどうなるのか? この実験だけでは何も言えません! 従って、参考・引用文献がこれだけだとすると、「自分自身の思いこみのせい」という記述は正しくありません!

#この点は以前に著者の方にメールで指摘したのですが、たぶん忘れてしまったのでしょう。残念です。

 さらに続けて、次の記述も追加されました。結構な分量です(同166ページ)。

 心理学の世界では、実は血液型性格判断に対する見解は、一般に冷ややかなものです。心理学でよく言われる言葉に「人は遺伝か環境か」というものがあります。人の性格は、遺伝子によって決定されるのか、それとも生まれ育つ環境によって決定されるのかという議論です。以前は遺伝子を重視する傾向がありましたが、近年では、環境によって人の性格は大きく変わると考えられるため、環境をより重視する傾向にあります。

 これを読んで、なんかヘンだと感じました。この本の著者は、ホームページで頻繁に遺伝を取り上げていたような記憶はありません。そこで、念のために著者のホームページ全体を「遺伝」というキーワードで検索してみました。見つかったのは次の1つだけです(第22回「恋人の心はどこまでわかるのか」)。

 性格が、遺伝子の影響を強く受けるのか、はたまた人生経験のほうが影響力は強いのかは知りませんが

 つまり、この作者は、遺伝についてはよく知らないと推定できます。ところで、この本のサブタイトルは「ホームページからの厳選コラム」です。著者が初めて出版する本で、自分のよく知らない部分をわざわざ「厳選コラム」にすることなんかするでしょうか? 普通の人で、最初に出版する大事な本なら、誰か知らない人から文句を付けられても(私じゃありませんよ…笑)反論しにくい自分の専門外のことなんか書こうとはしないでしょう。実に不思議というしかありません。(@_@)

 さらにおかしなことに気が付きました。実は、この記述はこの本の70ページにも登場するのです。

 つまり、同一の著者が同時期に書いた本に、全く逆の意味の記述が存在するのです!

 となると、この部分は著者以外の人間が、血液型を否定する意図を持って追加したとしか考えようがありません(本当かな?)。

 さて、ホームページは、第13回(H11.1)と第70回(H13.3)の2つのバージョンがあるのですが、ここでは本の記述とほぼ同じ第70回を取り上げます(太字は本と違う部分)。

 血液型性格判断は、果たして、真か偽か? 今回の実験からすると、

 「信じている人には、やっぱり真実」

 という結論になります。なんだそれ、と突っ込まれそうですが、血液型と性格の関係を信じているかたにとっては、まったくの真実なわけです。まあ、“血液”と性格との関係の真偽は、結局のところ不明ですが、血液型性格診断を信じているかたにとっては、人を理解するうえで、非常に頼りになる方法(目安)だといえるわけです。

 「血液型と性格の関係を信じているかたにとっては、まったくの真実」なのは当然ですし、「“血液[注:「型」が抜けている?]”と性格との関係の真偽は、結局のところ不明」というのも、血液型人間学に詳しくない心理学者としては、非常にまじめな態度といえます。私は、このホームページの記述に非常に感心したのを記憶しています。

 なお、第13回も「本当に血液型性格判断が正しいかどうかは今後の研究の結果といえるでしょう。」と書いてありますから、第70回とほぼ同じ内容と考えていいでしょう。

 ところが、です。本ではこの部分が(なぜか?)全く否定的な記述になってしまいました!(同167ページ 太字はホームページからの変更部分)

 血液型性格判断は、果たして、真か偽か? 今回の実験からすると、

 「信じている人には、やっぱり真実」

 という結論になります。なんだそれ、と突っ込まれそうですが、血液型と性格の関係を信じているにとっては、A型の人はまじめな性格だと感じるし、B型の人は浮気性だと感じるのです。つまり信じている人には真実となるのです。
 心理学的には「血液型よりも環境要因の方が性格に与える影響は大きい」ということであり、また、血液型性格判断を信じているにとっては、「理由は上手く説明できないが、人を理解するうえで、とても頼りになる方法(目安)だとえるわけです。

 これの2つの文章が同じ意味だと聞いて納得する人はいないでしょう!

 それに、「血液型よりも環境要因の方が性格に与える影響は大きい」と考えている人が、70ページのように「性格が、遺伝子の影響を強く受けるのか、はたまた人生経験のほうが影響力は強いのかは知りません」なんて書くはずがありません!

 念のため、70ページからの「恋人の心はどこまでわかるか」とホームページの第22回「恋人の心はどこまでわかるか」を比較してみましたが、遺伝のところは特に目立った変更や追加はないようです。遺伝と環境についての記述を大幅に追加したのは、やはり血液型が遺伝だからでしょうか?
 もう1つ、血液型のところは、この本の一番最後である第5章(社会がワカル)に入っていて、しかもその最後である8番目になっています。が、常識的には、第3章(自分がワカル)にした方が収まりがよさそうです。ひょっとして、編集の最終段階になってから血液型を追加したのでしょうか? いや、考え過ぎか…。

 さて、この本の出版社は、有名な参考書(私も随分お世話になりました)を出版しているのですが、社の方針として血液型に反対とか、たまたまこの本の編集者が血液型に反対、ということはちょっと考えにくいです(本当はどうなのかは知りません)。となると、この著者の恩師が有名な血液型否定論者なので、あえてこんな文章を追加したと考えるのが一番可能性が高いと言えそうです。

 いずれにせよ、同一著者(のはず)である本に、全く正反対の意味の記述があるのはおかしいと思います。これがファンとしての素直な感想です。

#誰ですか、このページこそ「小さな親切、大きなお世話」だなんて言ってるのは。(^^;;

 とは言っても、この本は血液型のところを除くといい本ですから、皆さんもなるべく買ってあげましょう!


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最終更新日:平成15年8月19日