血液の基礎知識ABO FAN |
厚生省発行『ホップ・ステップ・ジャンプで変わる血液事業』からの抜粋です。
■わが国最初の輸血
わが国で最初に輸血が行われたのは、1919年(大正8年)2月、九州大学においてとされています。しかし、世間に広く輸血の効用が知られるようになったのは、1930年(昭和5年)11月14日、浜口雄幸首相が東京駅でピストルで狙撃された事件以後といっていいでしょう。というのは、このとき重傷を負った浜口首相に、駆けつけた東大の塩田広重教授が急いで血液型を調べ、輸血を行い、一命を救うことができたからです(浜口氏は翌年このときの傷がもとで亡くなる)。
そのころの輸血は、“枕元輸血”といわれ、患者さんの周りに集まった近親者などがその場で供血し、その血液(生血)をそのまま輸血するのが普通でした。しかし、1948年(昭和23年)にたまたま東大分院で生血輸血の結果、患者さんに梅毒を感染させるという事故があってからは、日本赤十字社や民間企業が血液銀行を設立するなど血液事業を始め、生血を用いる輸血から、輸血による梅毒を予防する上で安全な保存血液を用いる輸血へと移ってきました。
■輸血と血液型
輸血に用いる血液は、だれの血液でもよいというわけにはいきません。血液型との関係があり、同型の血液を輸血します。判定する血液型(赤血球の型)はABO式とRh式血液型の二つが基本です。必要に応じて、ほかの赤血球の血液型、白血球の血液型、血小板の血液型と広がることもあります。
例えば、患者さんがAB型でRh陰性だとすると、ABO式もRh式もやはり同じ型の血液を輸血します。この場合、AB型の日本人は10人に1人で、Rh陰性は200人に1人ですから、同じ血液型の人は2000人に1人という割合になります。
このようなときに、手術をしたいが輸血用の血液がなくて困っているということが報道されると、視聴者や読者の中から血液の提供を申し出る人がいたりして、無事手術が行われたことが以前はよくありました。現在、このような場合に備えるために、献血に協力していただける方の登録制があり、必要時に献血していただく体制をとっています。
■血液型と遺伝
ABO式血液型はメンデルの遺伝の法則に従って遺伝します。
A、B、O、AB型の4つの血液型を遺伝子型からみると、A型にはAAとAOがあり、B型にはBBとBOとがありますが、O型はOO、AB型はABです。
両親の一方がAB型であれば、例外はありますが、他方が何型であっても原則としてはO型の子どもは生まれません。なぜならその子どもはAB型の親からAかBのいずれかの遺伝子を受けていますから、OOの遺伝子型にはなり得ないからです。
A型同士の両親からでも、遺伝子型がAAとAAなら、子どもはA型しか生まれませんが、遺伝子型がAOとAOなら、子どもはA型かO型の子どもが生まれます。AAとAOの両親からは、遺伝子型AAかAOのA型の子供が生まれることになります。これはB型の場合もまったく同じことがいえます。
O型とAB型の両親からは、AOかBOの子ども、つまりA型かB型しか生まれません。O型同士の両親の場合は、OOのO型の子が、AB型同士の両親からはAAのA型とBBのB型およびABのAB型の子どもが生まれます。
-- H10.3.16
母親\父親 | A型 | B型 | AB型 | O型 |
A型 | AまたはO型 | すべて | O型以外 | AまたはO型 |
B型 | すべて | BまたはO型 | O型以外 | BまたはO型 |
AB型 | O型以外 | O型以外 | O型以外 | AまたはB型 |
O型 | AまたはO型 | BまたはO型 | AまたはB型 | O型のみ |
なお、例外はこのページの最後へ!
血液は、赤血球、白血球、血小板、血漿からできています。それぞれに異なる働きがあります。
【酸素を運ぶ赤血球】
赤血球は酸素の運搬をします。赤血球の形は平たく中心のへこんだドーナツ形をして柔軟性に富み、
細い毛細血管(髪の毛の10分の1)の中でも形を変えて通れるようになっています。赤血球の主な成分はへモグロピンという鉄をもった物質で、これが酸素を体中に運ぶ主役です。
赤血球は肺の中で酸素を受け取り、へモグロピンと結合させます。動脈を通って全身の毛細血管へ行き着くと、酸素はへモグロピンから離れて、細胞の中に入っていきます。細胞が酸素を使ってエネルギーを得ると、二酸化炭素を生じます。この二酸化炭素は血漿中に溶け込み、肺まで運ばれます。
そして、静脈を通って心臓に入り、再び肺へ戻って二酸化炭素と酸素の交換(ガス交換)をします。
【病原体と闘う白血球】
白血球は病原体と闘い、体を防御する細胞です。大きさは赤血球の二倍くらいです。白血球の一種である好中球はウイルスや細菌などの病原体が体に侵入すると、すばやく侵入地点に向かいます。同時に、新しい同種の白血球がどんどんつくりだされ、闘いに参加します。このような好中球は食細胞といわれ、病原体をつかまえるとそれを食べてしまい、体を感染から守ります。
【免疫反応】
ウイルスや細菌などの病原体は、呼吸器官や皮膚、粘膜の傷などから体内に侵入してきます。この侵入した異物(抗原)に対して、免疫反応という特別の防御システムが働いて、病気の予防をします。その主役は白血球の一種であるりンパ球で、特にB細胞と呼ばれるものです。
リンパ球(B細胞)は病原体に直接接触するか、あるいは病原体を貪食したマクロファージ(血液中の単球と呼ばれているものの血管外での呼称。好中球の親類)に接触して、病原体の情報を得ると、たくさんの細胞に分裂し、抗体というたんぱく質を大量につくり出し、血築中に放出します。この抗体は
病原体(抗原)に結びつき、無害なものに変えてしまい、マクロファージが食べやすくします。このように体は自分の力で病気を防ぎ、ふつうのかぜなら一週間くらいで治ってしまいます。さらに、生涯二度とかからないとされている麻疹(はしか)や水痘は再び感染することがあっても、病気が発症することにならないのは、この免疫があることによります。
【出血を止める血小板】
血液は血管の外に出ると固まる性質がありますが、これは血小板などの働きによるものです。けがをして出血をした場合に、血管の破れ目に集積して応急処置的に止血し、多量に出血するのを防いでくれます。血小板は骨髄内の大きな細胞(巨核球と呼ばれている)の一部がはがれてできた小さなかけらです。 -- H10.3.16
■血液の型
輸血に同じ型の血液を使うのも、この免疫を考慮するからです。A型赤血球(A抗原)をO型の人(血漿中に抗A抗体をもつ)に輸血しますと、凝集し溶血してしまいます。
白血球には、HLA抗原という型があります。組織適合抗原ともいい、現在7つのシステム(遺伝子座)に分けられています。それぞれのシステムには多数の型があることから、1人1人のHLA抗原の型は複雑な組み合わせとなり、数千種類以上にもなります。白血球など血液細胞をつくり出す幹細胞の移植である骨髄移植の提供者探しが大変な理由の1つです。
血小板輸血のうちでHLA適合のものが、日本赤十字社から供給され始めましたが、これはその中に含まれる血小板のHLAについて患者と型が合っているものです。
-- H10.3.16
■血液型はどうやって発見されたか? 輸血の歴史は古く、すでに17世紀に実際に行われた記録があります。しかし、当時は血液型のあることは知られていませんし、動物の皿を人間に輸血したともいいます。人間同士の輸血に成功したのは1818年のことだそうです。 1900年、オーストリアの病理学者ランドシュタイナーは、ある人の血清にほかの人の赤血球を混ぜると、凝集する場合としない場合があることに気づき、これを分類して、1901年に血液型があることを発表しました。これが現在のABO式血液型です。 また、1940年には、ウィーナー(アメリカの血清学者)とともに、Rh式の血液型も発見しました。ランドシュタイナーがノーベル生理・医学賞を受賞したのも当然なことですね。 ■血液型のA型やB型はどこが違うのか? よく知られているA型、B型、AB型、O型に分けられているABO式の血液型は、血液中に含まれる赤血球の型の違いによって決められています。その型が違うといっても、赤血球を覆う膜の上にある短い突起(抗原)の先端にある糖鎖の一個だけ違うという微妙なもの。制服に例えるなら、人により飾りやボタンがちょっと違うようなものです。赤血球の働きは血液型が違ってもまったく同じです。 -- H10.3.16 |
■AA型とBB型
A型の人はその人がAO型なのなかAA型なのか、B型の人はその人がBO型なのなかBB型なのか、普通の血液検査では知ることができません。どうしても知りたい人はDNA鑑定をすればわかるそうですが、結構な料金がかかるようです。
では、日本人全体のAA型とBB型の割合は知ることができないのでしょうか?
実は、遺伝学にはハーディ・ワインベルグの法則やWienerの公式という便利なものがあって、AA型とBB型の割合を計算することができます。ここは「基礎知識」のページですので、計算方法は専門書に譲り、結果だけ書いておくことにします。
日本人では、O遺伝子の割合は約55%、A遺伝子の割合は約28%、B遺伝子の割合は約17%です。遺伝子型がホモであるOO、AA、BB
の割合は、それぞれを2乗した値となるので、O型が約30%、AA型が約7.8%、BB型が約2.9%となります。こうやってみると、AA型やBB型はAB型より少数派なんですね。ビックリです。
-- H15.8.16
■cis−AB型
割とよく来る質問で、本当の親子なのにO型(AB型)の親からAB型(O型)の子供が生れる場合があるのか?というのがあります。確率としてはかなり低いのですが、まれに起こる場合があります。それは…
原因の1つは検査ミスです。人によっては抗原抗体反応が弱い場合があり、本当はA型やB型なのに誤ってO型と判定される場合があります。
もう1つの原因は、親がcis−AB型である場合です。普通の人は血液型の遺伝子は2つしか持てません。だから、普通はA型とB型とO型の全ての遺伝子(抗原)を持つことはありません。しかし、cis−AB型の人の場合は、A型とB型とO型とすべての遺伝子を持っています。このcis−AB型の人は抗原抗体反応が弱く、普通の血液型検査では、誤ってO型と判定される場合があるそうです。
#cis−AB型の人って、どんな性格なんでしょうね。興味津々です。(^^)
また、非常にまれですが突然変異による場合もあるそうです(別に異常ではなく、確率的に起こるそうです)。
なお、ここは「基礎知識」のページですので、cis−AB型の詳しい説明は省略します。知りたい方は専門書に当たって調べてみてくださいね。 -- H15.8.16