Ms. Kamise


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28.gif (298 バイト)上瀬由美子さんの論文

 上瀬由美子さん(現・東京女子大学)の論文です。上瀬さんの論文は松井さんとの連名が多いのですが、この論文も同じく連名になっています。今までの上瀬さん・松井さんの論文はデータが非常に正確だったのですが、この論文に限っては少々疑問があります。
 なお、上瀬さんは血液型と性格の関係に否定的ですので、念のため。 -- H10.6.2

28.gif (298 バイト)英語での要約

Changing processes of stereotype on blood-groups

Yumiko KAMISE (College of Culture and Communication, Tokyo Woman's Christian University)
Yutaka MAT SUI (College of Literature, University of the Sacred Heart)

The purpose of this study was to investigate the course of stereotype changes on cognitive, affective, and behavioral components. The blood-groups stere6type widespread in Japan was used for the study. One hundred and four female undergraduate students (average age 20.1) attended a lecture given by one of the authors concerning the denail of the blood-groups stereotype. For three times the students responded to the questionnaires about blood-groups stereotype: immediately before, immediately after. and three months after the lecture. Statistically significant changes were found in cognitive and affective components of the attitude, but not in the behavioral component. Although in the cognitive component the attitude changed in support of the 'bookkeeping model', in the affective component some of the students changed according to 'conversion model'. The cognitive component did not change when 'subtyping' was formed.

12.gif (321 バイト)論文1

原題: 上瀬由美子・松井豊 1996 血液型ステレオタイプ変容の形 ――ステレオタイプ変容モデルの検証―― 社会心理学研究,11,3,170-179.

最初に「血液型ステレオタイプ」という用語から説明します。「血液型ステレオタイプ」とは否定論者の心理学者によく使われる用語で、血液型によって性格が違うという信念のことです(私は「信念」ではなくて「事実」だと思っていますので念のため)。
では、まず問題・目的のところからの引用です。

本調査の目的は、以下の2点にまとめられる。
1.血液型ステレオタイプを取りあげ、 それを態度の3側面の視点から捉える。
2.態度の3側面からステレオタイプの変容型を検討することを通して、 「bookkeeping model」 「conversion model」「subtyping model」の態度変容モデルのいずれが妥当かを検討する。

3つのモデルについては、このページでは説明しないので触れません。
次に、予備調査からの引用です。

 血液型ステレオタイプの変容を検討する前段階として、認知・感情・行動側面別に、ステレオタイプ形成の強さを測定する項目作成を試みた。 まず詫摩・松井(1985)、上瀬・松井・古沢(1991)を参考にし、血液型ステレオタイプの認知・行動側面に関連すると予測される項目を、14項目作成した。 また感情側面については、各血液型の人々に対する否定的感情に関する項目を、独自に4項目作成した。 回答はいずれも 「そう思う」から 「そう思わない」 までの5段階評定で求めた。
  首都圏の大学生女子318名 (平均年齢20.1歳) を対象として質問紙調査を実施し、回答を因子分析(主成分解・Varimax回転)した結果、固有値1.0以上の因子として「信念強度」「行動調整」「感情」「娯楽」「関係促進」の5因子が抽出された。そこで本調査では、これらの5側面から血液型ステレオタイプの変容を検討することとした。

次に、本調査からの引用です。

方 法

 血液型ステレオタイプを否定する内容の講義を受けた学生を対象として、 講義前と講義後および3カ月後の3時点の質問紙調査を行った。
 被験者
 被験者は都内私立大学女子学生(平均年齢20.2歳)。各調査の被験者は第1時点132名、第2時点132名、第3時点127名であったが、分析は3時点の調査すべてに回答した104名を対象として行った。
 質問紙構成
 1.第1時点(講義前)の質問紙
 予備調査で抽出した5つの側面(信念強度・行動調整・感情・娯楽・関係促進)にそれぞれ負荷量の高かった17項目と、本調査で新たに作成した3項目2)を使用した(項目の内容はTable 1)。回答はいずれも「あてはまる」「ややあてはまる」「どちらともいえない」「ややあてはまらない」「あてはまらない」の5件法で尋ね、「あてはまる」を5点〜「あてはまらない」を1点として得点化を行った。

2) 付加項目は以下の通りである。
 ・血液型性格判断によって、今まで知らなかった自分の姿を知ることができる。
 ・血溌劃性格判断を行うと、自分について新しい発見をすることがある。
 ・血液型性格判断によって自分を客観的に見ることができる。

 2.第2時点(講義後)の質問紙
 第2調査の目的は、講義直後の態度を測定しステレオタイプの変容の型を検討することである。この目的に沿い、第2時点の質問紙では、血液型ステレオタイプに対する講義後の態度について尋ねる20項目(Table 3参照)を新たに作成し使用した。回答形式はいずれも第1時点と同様の5件法である。
 また、ステレオタイプ変容型を測定するために、第1時点で使用した項目の中から「信念強度」「感情」の尺度のみを再度使用した。この2尺度以外を質問紙項目に加えなかったのは、これらの項目内容が日常的な行動傾向を尋ねるものであり、講義をはさんだ前後では変化を測定できないものと予想されたためである。
 3.第3時点(3カ月後)の質問紙
  第1時点調査で使用した血液型ステレオタイプに対する態度の5尺度と、第2時点調査で使用した講義後の態度に関する20項目について、5件法で回答を求めた。また講義者に対する信頼を「講師は信用できない」など6項目で尋ね、「そう思う」「そう思わない」の2件法で回答を求めた。その他、第1時点・第2時点調査への参加有無について尋ねた。
  実施方法
  大学の講義室において、集合調査形式で実施した。回答者は講義前に第1時点調査に回答した後、血液型ステレオタイプに関する講義を受けた3)講義後、回答者は第2時点調査に回答した。さらに3カ月後の講義開始直後に、第3時点調査への回答が求められた。
 講義は調査者(第2著者)自身が行ったが、回答者には講義者と調査主体は別であるとの説明を行った。

3)講義の内容は以下のものとなっている。 この講義では、Weber&Crocker(1983)のように、ステレオタイプ化された集団に所属する個々の成員の情報を与えるのではなく、当該ステレオタイプ全般の歴史的な経緯や、非科学性、ステレオタイプの社会的意義などについて、概括的な説明を行っている。
 1.血液型研究の歴史:古川学説(古川,1927)/能見正比古・鈴木芳正らによる古川学説の復活と問題点
 2.詫摩・松井(1985)の研究紹介:研究結果の紹介/ステレオタイプの中身の暖昧性/血液型ステレオタイプを持つ人の性格特徴
 3.サンプリング調査によるステレオタイプの否定(松井,1991)
 4.大村(1984)の研究紹介:フリーサイズ効果/ラベリング効果
 5.血液型ステレオタイプの問題:差別的な現状/ナチスドイツにおけるユダヤ人迫害との類似点

 結果として、

Table 1 血液型ステレオタイプに対する態度の因子分析(Varimax回転後) →因子分析のデータは省略 →太字は50%以上

変数名

肯定率(%)

血液型によって性格は異なる

*

血液型性格判断は信用できる

37.5

血液型性格判断は当たっている

53.8

血液型性格判断は楽しい

83.6

血液型性格判断が好き

61.5

コミュニケーションに役立つ

40.4

初対面時に役立つ

26.0
血液型を考えてから対人行動 5.8

血液型によって行動を変える

4.9

他者行動の理解に役立つ

14.4

血液型でまず相性を考える

26.7

血液型に関する記事をよく読む

57.7
自分を知るのに役立つ 26.0

知らない自分がわかる

12.5

自己について新しい発見をする

16.4

自分を客観的に見られる

26.0
A型の人はきらい 5.8
B型の人はきらい 10.6
O型の人はきらい 1.0
AB型の人はきらい 10.6

* 本回答のみ、回答は以下の5件法で求めている。
「血液型によって性格は非常に異なる」(0%)、「かなり異なる」(10.5%)、「やや異なる」(61.1%)、「あまり異ならない」(16.8%)、「全く関係ない」(11.6%)

Table 3 血液型ステレオタイプに対する、講義後態度構造(Varimax回転後) →因子分析のデータは省略 →太字は50%以上

変数名

肯定率(%)

血液型性格判断は非科学的なものと分かった

85.4

血液型性格判断は無意味なものとわかった

75.0

血液型性格判断は面白ければそれでよい

63.5

血液型と性格が関連ないと頭では分かっていても、なんとなく関連ありそうな気がする

55.8

今後は血液型性格判断を占いとして考える

56.7

血液型性格判断は役立つ面もある

53.4

血液型性格判断は遊びなのだから、心理学者がとやかく言うことではない

43.7
血液型性格判断は有害なものとわかった 41.3
血液型性格判断は科学では割り切れないものだ 34.6

血液型性格判断を信じていたことがばからしく感じた

29.4

一般の人には血液型性格判断はあてはまらないかもしれないが自分の周りではあてはまる

25.9

血液型と性格の関連については、もう少し自分で考えてから納得したい

21.1

講義で否定されていたのは、血液型性格判断の一部である

17.3
自分が血液型性格判断について信じていたのは、講義で否定された部分とは違う 16.3

これだけ血液型性格判断が普及しているのだからどこかに真実がある

16.3

一般の人には血液型性格判断はあてはまらないかもしれないが、 自分にはあてはまる

14.4

血液型性格判断は科学で証明できない部分に真実がある

12.5
血液型性格判断は心理学の測定と違いもっと複雑だ 11.6
血液型性格判断は今のところは否定されているが、いずれは科学的に証明される 2.9
血液型性格判断と性格の関連がみられないのは心理学による性格の測定が間違っているからだ 0.0

(肯定層は、「そう思う」「ややそう思う」と回答したものの割合)

 まず、Table 1のデータを見て気が付くのは、ほぼ他のデータと同じ傾向であることです。講義前は80%以上が楽しいと答えていますが、その実態はというと(残念なことに)内容を理解しているというよりは「コミュニケーションとして役立つ」というウェイトが高いことがわかります。というのは、相手の血液型によって行動を変えているのは10%以下だからです。「自分を知るのに役立つ」のも全体の4分の1と低調です。つまり、血液型による性格の差というのはそれほど正確には知られていないのです。上瀬さんの別なデータでは、「同じ血液型でも性格が違う」との質問での肯定率はなんと90%以上で(これは当然!)、非常に感覚的な捉え方になっているのがよく分かります。また、「血液型によって性格は異なる」割合も他のデータとほぼ一致していますから、このデータはかなり妥当なものと考えていいでしょう。

 次に、Table 3のデータを見ると、講義後には学習の「成果」が上がっていることが分かります。データを見るとわかるように、「非科学的」「無意味」という回答が圧倒的多数を占めています。では、ほとんどが否定的な見方に変わったかというと、「面白い」「占い」「なんとなく関連がありそうな気がする」という半信半疑の回答も半分以上を占めています。つまり、「科学的」に否定されてもまだまだ「信じている」という状態ですね。実は、同じような結果はどっかの心理学の教科書で読んだことがあるような気がしたのですが、出所はどこか忘れてしまいました。(^^;;

 なお、詳しくは因子分析の結果・考察があるのですが、ここでは省略します。実は、因子分析はしばらく前に勉強したのですが、かなり忘れてしまったので…。(^^;; 多変量解析が好きな人は原典に当たってくださいね。

12.gif (321 バイト)でも…

 でも、Table 3を見ると、疑問が沸いてくる人もいると思います。この結果は本当なのだろうかと…。

 この講義では、講師はこんな話をしています。

 1.血液型研究の歴史:古川学説(古川,1927)/能見正比古・鈴木芳正らによる古川学説の復活と問題点
 2.詫摩・松井(1985)の研究紹介:研究結果の紹介/ステレオタイプの中身の暖昧性/血液型ステレオタイプを持つ人の性格特徴
 3.サンプリング調査によるステレオタイプの否定(松井,1991)
 4.大村(1984)の研究紹介:フリーサイズ効果/ラベリング効果
 5.血液型ステレオタイプの問題:差別的な現状/ナチスドイツにおけるユダヤ人迫害との類似点

 1〜4はともかく、5(太字)は非常に理解に苦しみます。どこが「差別的」でいったいどこが「ナチスドイツにおけるユダヤ人迫害」との類似点なのでしょうか? 詳しい内容は残念ながら書いていないのでなんともいえませんが…。

 本題ではないので詳しくは触れませんが、ナチスドイツにおけるユダヤ人というのは他に例がないので、「ホロコースト」という新しい単語が作られました。つまり、いままでの何にも似ていないユニークなものだそうです。その本質は民族浄化(エスニック・クレンジング)でしょう(これは本の受け売りですが…)。これのどこが具体的に「血液型ステレオタイプ」と関係あるのか私にはわかりません。でも、上瀬さんはそう言っているのですから、誰か詳しい専門家に聞いたのでしょうね…。私も興味津々なので、ぜひ知りたいところです。

 参考までに、『血液型エッセンス』(192〜196ページ)に書いてある血液型十戒を書いておきましょう。これは、能見さんの意見です。

  1. 血液型で、人の性格を、決め付けてはいけない。
  2. 血液型が、性格のすべてであると思ってはいけない。
  3. 血液型で善悪を分けたり、人を非難してはならない。
  4. 血液型で頭の良し悪しをいってはいけない。
  5. 血液型で、性格は、もう変わらないと早合点してはいけない。
  6. 血液型は適性適職に対して重要だが、それですべてを決めてはならない。
  7. 成功や業績は人間の努力の結果、それを血液型で割り引いてはならない。
  8. 血液型と性格の関係分野を、医者の領分とカン違いしてはいけない。
  9. 血液型を、占いの一種と思ってはいけない。
  10. 血液型による違いより、人間どうし共通性がはるかに大きいと思うべきである。

 また、上瀬さん・松井さんの学生はそんなことはないのでしょうが、私だったら「単位が取れる」と思うなら、「講義は調査者(第2著者)自身が行ったが、回答者には講義者と調査主体は別であるとの説明を行った」にしても「血液型ステレオタイプの問題:差別的な現状/ナチスドイツにおけるユダヤ人迫害との類似点」という講義があれば「血液型性格判断は非科学的なものと分かった」「無意味なものとわかった」という回答にマルを付けます。もちろん、自分が「血液型性格関連説」を正しいと思っていても、です。しかし、そんな学生は少ないのか、これに関しての説明はありませんでした。

 皆さんはどう思いますか?

 私だったら、グループを2つに分けて、能見さんの講義と上瀬さんの両方の講義を聴かせたいです。2つのグループを入れ違いにして行って、結果を比較すると面白いのではないかと思うのですが…。

28.gif (298 バイト)論文2

 原題: 松井豊・上瀬由美子 1994 血液型ステレオタイプの構造と機能 聖心女子大学論叢,82,90-111.

 基本的には論文1と同じですが、紹介されているデータはこちらの方が多いようです。そこで、面白いデータをピックアップしておきます。

Table 4 血液型ステレオタイプを肯定・否定する理由の因子分析(バリマックス回転後の負荷量)
 →因子分析のデータは省略 →太字は50%以上

変数名

肯定率(%)*1

1. 血液型性格判断は科学的だと思う

11.6

2. 血液中の成分が異なれば性格にも影響を与えるはずだ

26.4

3. 血液型性格判断は雑誌によく載っているので本当だと思う

15.3

4. 自分の周りの人は血液型性格判断の結果がよくあてはまる

54.4

5. 他人の血液型がなんとなくわかる

55.3

6. 自分と同じ血液型の人は、自分と性格が似ている

45.9

7. 性格は血液型よりも環境によって作られると思う

93.1
8. 人の性格は血液型による4タイプには分けられないと思う 93.1

9. 人の性格は血液型で判断できるほど単純ではない

92.5

10. 同じ血液型でも違う性格の人がいる

98.1

11. 自分の身の回りには血液型性格判断のあてはまらない人がいる

78.3

12. 血液型性格判断の内容は自分には当てはまらない

21.3

注: *1 肯定率は、その項目に「そう思う」「ややそう思う」と回答した者の割合。

 このデータは、そのほとんが納得できる結果といっていいでしょう。血液型が性格に与える影響というのは、それほど大きいものではありませんから、これは当然の結果ですね。ちなみに、肯定率が90%以上の項目は、

 ということですが、それでも70%以上の人が血液型と性格は関係あると考えているのです。その内訳を下に示します。

「血液型によって性格は非常に異なる」(0%)、「かなり異なる」(10.5%)、「やや異なる」(61.1%)、「あまり異ならない」(16.8%)、「全く関係ない」(11.6%)

 「自分の身の回りには血液型性格判断のあてはまらない人がいる」の肯定率も78.3%と割合に高いのですが、このデータはちょっと問題があります。というのは、血液型による性格の違いを正確に知っている人というのは割と少ないからです(せいぜい40%程度)。だから、「あてはまらない」のではなくて、「正確には知らない」のかもれません。

#残念なのは、「血液型性格判断は科学的だと思う」の肯定率が非常に低いことです。う〜ん。

 以上のことから、「血液型によって性格は異なる」ことと「性格は血液型よりも環境によって作られると思う」「人の性格は血液型による4タイプには分けられないと思う」「人の性格は血液型で判断できるほど単純ではない」「同じ血液型でも違う性格の人がいる」というのは矛盾しないことがわかると思います。   -- H10.9.19

28.gif (298 バイト)英語での要約

Functions and Structure of Blood-group Stereotype

Yutaka MAT SUI (College of Literature, University of the Sacred Heart)
Yumiko KAMISE (College of Culture and Communication, Tokyo Woman's Christian University)

The purpose of this study are to investigate the usage and the function of blood-group stereotype widespread in Japan, to clarify the contents of the stereotype and the negative feeling for each group member, and to assort the affirmative or negative reasons for the stereotype.
One hundred and four female undergraduate students (average age 20.1) respondet to the questionnaire about the blood-group stereotype. The maing results showed the following findings.  Blood-group stereotype stereotype is used for for amusements, to facilitate relations with others as guidance of one's behavior.  Contents of the stereotype differ among blood-types, and some of the students have negative feelings for members of the AB blood-group.  In each case, the basis of either their affirmation or denial of the stereotype, the basis comes from  their individual experiences or logical inference.


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最終更新日:平成10年9月19日