「ねぇ。ところで、さっきケーブル口の中に入れたのはどういうワケ?
機械は水に弱いのよっ あんたのきちゃない唾液で壊れたらどうしてくれんのよっ」
ルルルはきょとんとした顔をした。
「そうなのですか。地球の機械は水に弱いのですね。でも大丈夫ですよ。」
「一体全体、何を根拠に… ぎゃーーーっ」
突然、ルルルがぱかんと口を開けて舌の裏側を見せたので、あたしたのけぞった。
「変なもの見せないでっ、て…ちょっと!あんた!ビョーキか何か!?そこ穴が開いてるわよ!」
「地球上の全てのケーブルタイプに適応できる、有機マルチソケットです。実は勝手ではございますが、先程スミレ様が所有されている“パソコン”と呼ばれる端末から、言語に関する情報をインストールさせて頂きました。」
「ル、ルルル…あんたもしかして…」
唾をゴクリと飲み込む音が、部屋にやけに大きく響いた。
「に、人間じゃないとか?」
ルルルはえっへん、と胸を張って答えた。
「そうです!」
パンパカパーン、と効果音が鳴り出しそうな勢いでルルルは誇らしげに言い放った。
「私はカララニ星から送られた地球探査用ヒューマノイドなのです!!」
「・・・・・・・へー」
あたしは間抜けな相槌を打つと立ち上がった。
ルルルの腕を掴んで、ぐいぐいと玄関へと押し出していく。
「・・・あの〜、スミレ様?」
「何よ。」
「どうして私を外に出そうとなさっているのでしょうか?」
扉を開けて体を半分くらい外に押し出したところでルルルは我に返ったのか、ぐぐっと足を踏ん張って訊いてきた。
「どうしてもこうしても、この地球ではね、変質者や不審者は家の中に入れてはいけないっていうルールがあんの!とっととM78星雲にでもクリプトン星にでも帰ってちょーだいっ」
「いいえ、それが無理なのですスミレ様!」
ルルルは恐るべき馬鹿力であたしを部屋に押し戻し、くるりと振り返ると両手を握って縋るような瞳であたしを見詰めた。
「私が昨日道端で倒れていたのは、私の乗った探査用ベースがここ、日本に不時着したからなのですっ。私は、私は…故郷に帰れないのです!」
「や、あたしには関係ないし。」
スッパリ言い切ってやった。
「スミレ様ぁぁぁ〜」
眉毛をハの字に下げた世にも情けないその顔は、あたしの遠い記憶を呼び起こさせた。湿ったダンボールの中から見上げてくる、小さな仔猫。うるうるした瞳を見ていると、何だかものすごーくあたしが悪人のような気がしてくるんですけれども…
「ところでスミレ様。」
ルルルは真剣な口調で言った。
「M78星雲とかクリプトン星ってどこですか?」