「ちょ、ちょっとちょっとちょっと何すんのよーッ!」
ベッドから飛び出して、「吐き出せバカッ」と叫びながら男の口からケーブルをぐいぐい引っ張ると、ものすごく迷惑そうな顔をされた。
な、なんであんたが迷惑そうな顔するのよっ
しばらくすると、男はケーブルをペッと吐き出した。
「あ、あ、あんた…」
怒りのあまり真っ赤になって震えているあたしに向かって、男はぺこりと頭を下げた。
「大変申し訳ございませんでした。まず意思の疎通を図ることが先決だと考えたものですから」
「意思の疎通がしたいなら、まずあたしを怒らせるようなことをしないでよっ」
プンプンしながら言ったけど。
…あれ?
この人ガイジンさんじゃなかったっけ???
さっきまで日本語が通じなかったような気がするんだけど。
「初めまして。あなた様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
やけに丁寧な日本語で尋ねられて、あたしは条件反射のように胸を張って答えた。
「人に名前を訊く時は、自分から名乗るのが礼儀なのよ」
男はへえーっとやけに感心したような態度であたしの顔を見直した。
「そうなのですか。それは失礼致しました。私の名前はルルルと申します」
「ル…」
ルルル?
何だ、その口に出した途端、頭の中に花畑が浮かぶようなのんきな名前は。
「何?それは名字なの?名前なの?ニックネーム?いやまさかとは思うけどジョークとか?」
男はムッとしたように答えた。
「ルルルとは“優しい広い心”という意味の言葉です。私はこの名前を誇りに思っています」
きっぱり言い切られて、あたしは反省した。
そうだよ、コイツは突然パソコンケーブルを口の中に突っ込むくらいだし、あたしの常識の範囲外のニンゲンなんだから。
あたしの中のものさしで色々判断しちゃいけなかったんだわ。
「悪かったわ。ルルルね。あたしの名前はスミレよ。伊勢崎スミレ」
ルルルはぱあっと明るい笑顔になって言った。
「スミレ様ですか!素敵なお名前ですね!スミレ、それはスミレ科スミレ属の多年草ですね。とても愛らしい花が咲く、地球の植物です。あなた様にぴったりのお名前です!!」
「・・・・・・・・・・はあ、それはどうも」
どうリアクションを返せばいいのか分からないんですが。
やっぱり名前の通り、コイツの頭の中はお花畑にちょうちょがヒラヒラ飛んでいるに違いない。