生き物を拾ってはきてはいけません、とお母さんは言った。
あたしは泣きながら、そのちっちゃくて頼りなくて柔らかなものを、元の薄汚れたダンボールの中に戻しに行った。
あたしが傘を立てかけたら、それは微かに「にゃあ」と鳴いた。
それが最後。
*****
「酔ってませんよぉー」
周りに誰もいないのに、あたしはふらふらと歩きながら大声で叫ぶ。
いい気持ち。足元がふわふわする。今なら何でもできそうな、そんな気もする。
確かさっきまで右手に折り畳み傘を持ってたような気がするんだけど、どこにいったんだろ。
とにかく、歩いて自分ちまで辿り着いたのは奇跡かもしんない。
タクシーなんて無駄金使わなくてホントよかったわ。
えーと、鍵… 鍵っと…
「ぎゃっ」
何ー!?何なのー!足首に何かが、何かがぁっっっ
「やだー!」
大声でわめいて思いっきり蹴り上げたら、「うぐっ」っていった。
暗がりでよく見えなかったけど、この黒いかたまりってよく見ればニンゲン?
「へ…?何、どしたの、立てないの?」
かたまりは全然動かない。もしかしてあたしが蹴ったせいなんだろか。
急所にでも入っちゃった?
おずおずとしゃがんでみれば、小汚いダウンジャケットにジーパン履いた男が俯いて座ってる。顔を伏せてるから、あたしからは頭のてっぺんのつむじしか見えない。
あ、右回りだ。
「ちょっとー、今日は寒いですよー。こんなトコいたら凍死しますよー」
霧のような小雨が降る中、このニンゲンは髪の毛から体から全部ビシャビシャに濡れている。
ゆさゆさゆさ。
とりあえず肩に手を掛けて揺すってみたけど、うんともすんとも言わないし。
「何よぅ、あんた酔っ払いなの?そう言うあたしも酔っ払いなんだけどさー!」
きゃははは、と思わず笑っちゃう。
しかし、今日はホント寒い。早く家の中に入りたい。でも、どうすりゃいいんだこのニンゲン。
「もう!あんた立てないの?」
ゆさゆさゆさ。
もう一度今度は頭ががくがくするくらい揺すってやる。
「………………」
無言かよ!
「しょーがないなー、よしっ、あたしが拾っちゃる!来い!」
あたしはむんずとその男の襟首を掴まえて、引っ張り上げた。おおー、火事場の馬鹿力。男はよろめきながらも立ち上がった。