連載SF小説 - AD2030 -




- 目次 -
       序 章  銀河系連合

       第2章  人類の歴史

       第3章  魂のルーツ

       第4章  地球人類の誕生

       第5章  金星、火星、そしてマルデック

       第6章  氷河期の到来

       第7章  緊急介入

       第8章  恐竜の絶滅

       SF小説「AD2030」のご感想は、こちらまで。


読者の方より、次のような、ご声援とご感想をいただきました。お礼を述べさせていただきますとともに、今後とも努力して参りますので、当サイトをより一層ご愛顧を賜りますよう、お願い申し上げます。(著者)
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はじめまして!!バシャールに書いてあった、マルデックを調べていたところ偶然このサイトに当たり、読ませていただきました。 非常にわかりやすい内容であり、宇宙の事実がわかりやすく詳細に書かれている感じがしました。
自分の読んできた数々の本の内容にもつながる点が多いので、小説というより、実話的ですね。とても勉強になりますし、何より面白かったです。
今後も続きが出来るのを楽しみにしています。頑張ってください。

序章 - 銀河系連合 -

銀河系のほぼ中央に位置する太陽系の惑星にある、「銀河系連合中央センター」の広場には、銀河系の高度に進化した人びとの代表が集まっていた。
数千あるいは1万人に達するほどの人びとは、みな一様に喜びと歓喜のどよめきを発し、その拍手はいつまでも鳴り止むことはなかった。
集った人々は、それぞれの惑星での進化の過程により、その体格、風貌は実に様々であったが、知性と慈愛に満ちたそのまなざしから、高度に進化したと思わせる雰囲気を漂わせていた。


時は、AB120億5千500万年(地球暦AD2030)の出来事である。
銀河系の比較的端のほうに位置する、標準的な質量と黄色の輝きを発する、ある太陽系の惑星に住む人々が、数奇な運命と困難に満ちた歴史を乗り越え、やっと今、アセンション(意識改革)を果たし、高度に進化した人々に迎え入れられた記念すべき日であった。

思えば、長い道のりであった。

銀河系のほとんどの人びとがはるか昔に進化を果たし、ユートピアともいうべき人類本来の世界を花開いていたときでさえ、この星の住人はいまだに戦争という一過性の体験でさえも乗り越えれずにいた。
それどころか、ほんの少し前には、惑星のリセットプログラムが発動し、その惑星の生命体の全てが一旦原始時代に戻らざる得ないという、ほとんど絶望的な状態に陥り、銀河系連合の人びとも固唾を飲んでこの星の住人の行く末を見守っていたのである。

出来が悪い子ほどかわいいということわざがある。
神は幾度となくこの惑星の住人にマスターを送り、進化を促した。
がしかし、ある程度の成果はあげるものの、そのほとんどを宗教という名の枠組みの中に押し込めてしまい、真の意味は形骸化し、都合の良い解釈を繰り広げる、保身を守るのみの排他的な組織と成り果ててしまった。

この星の人々の魂に深く刻まれた、闘争と自己保身のカルマ(魂の癖)は相当に根深いものがあり、とうとう生命体であるその惑星自体の意思により、進化のプロセスが中止されるという可能性が高くなってきたのである。

神は最後の切り札として、マスターを送るという従来の方法ではなく、神ご自身が直接その住人の言葉として、対話を通して語りかけるという、間違った解釈のしようがないほど明らかな方法で、再度試みられたのである。

それはその惑星の暦で言う、ミレニアムの少し前、惑星のリセットプログラムが開始した、正にそのときであった。

第2章 - 人類の歴史 -

さて、惑星自体の意思によって自浄プログラムが発動され、文明崩壊の絶体絶命の危機に立たされた星とは、「地球」のことである。
それでは私たち地球に住む人類は、どのように誕生し、どのような歴史をたどってきたのであろうか。

どんなに栄えた文明であっても、いったん滅亡してしまえば、人々の記憶から消え去ってしまうものである。
しかし、ほとんど記録に残っていなくても、古い文献、古代から残る伝説などにその片鱗をうかがい知ることはできる。

それよりももっとはっきりと史実を知る方法がある。

人間の魂には、繰り返してきた転生のすべての経験が記録されており、これを紐解くことにより、失われた過去を知ることができる。
また人類の体験は、神ご自身の経験として、宇宙開びゃく以来の全ての出来事が克明に記録されている。
アカシック・レコードと呼ばれる、この記録を読むことで、宇宙始まって以来の人類の全ての歴史があきらかになるのである。

アカシック・レコードには過去の記録だけではなく、未来の記録も存在する。
未来の記録が存在するといえば、奇異に感じられるかもしれないが、決してそうではない。ただし、未来に関しては固定的なものではなく、現在の人類全体の意識状態、何を選択するかによって大きく変動する。

この世を相対の世界(物質の世界あるいは三次元の世界)とすれば、魂、神の世界は絶対の世界である。
絶対の世界には、時間が無く、全てが今である。すなわち、絶対の世界では、過去、現在、未来がすべて同時に存在する。というよりも、本来時間というものは存在せず、私たちの五感による感覚が、そのように錯覚を起こしているだけである。

宇宙の仕組みを簡単に説明すると、人間の意識に反応して、宇宙という巨大コンピュータが即座に全てを用意し、生成する。このため、絶対の世界では思ったことが即座に現れる。
しかし、この相対の世界は重たい物質の世界であるから、結果がゆっくりと現れる。その反応の遅れを、私たちは時間として認識する。

この世界では、波動でもあり、粒子でもある光のスピードが最大のスピードである。私たちは、光以上のスピードは存在しないと教えられている。
しかし、魂の世界、絶対の世界においては、そもそもスピードという概念自体、意味が無い。なぜなら、スピードとは、物体が移動した距離を、要した時間で割った値であり、時間が存在しなければ、この数式は成り立たない。
絶対の世界は、意識の世界であり、全ての出来事が同時に起こり、距離も時間もない。常に変化する、今という永遠が存在する世界である。

バーチャルリアリティ(仮想現実)という技術がある。
映像や音楽などを駆使し、あたかも本物の世界がそこにあるように感じさせる技術である。
実はこの相対の世界は、「絶対の世界の一部に、ある目的をもって創造された、バーチャルリアリティの世界」ということができる。
愛だけが存在する絶対の世界、そのニュートラルな世界に、愛以外の概念、たとえば善と悪、美と醜、といったその世界に本来存在しなかった、対となる両極端の概念を存在させてみる。
そうすることにより、絶対の世界の住人である魂が、仮想の世界で、愛以外の全ての概念を体験することができ、試行錯誤を繰り返し、自分自身で選択しつつ、再び愛にたどり着くことができる。

そのように考えれば、善も悪も、どちらが良い、悪いということではなく、善を知るために、悪という反対の極が必要であり、逆に悪を知るために、善という反対の極が必要になる。両方体験して初めて、わたしたちは、愛の意味をトータルに知ることができる。
そのようにして魂は、概念だけでなく、体験的に全てを知る(思い出す)ことができるようになる。
そのために、神が創造された仮想空間がこの世界である。
この仮想空間は、実にリアルに創られている。あまりにもリアルであるため、私たちはこの世界に足を取られ、肉体が全てと錯覚し、迷ってしまう。
人間の悩みや苦しみは、基本的にこの錯覚に基づいているといえる。

アカシック・レコードを読み取る能力を持つ人々によれば、人類は、ある程度進化しては戦争を引き起こし、自滅しては、最初からまたやり直すという繰り返しを、何度も何度も行ってきた。

通常知られている歴史によれば、現在の文明の発祥は世界4大文明、すなわちメソポタミア文明・エジプト文明・インダス文明・黄河文明といわれている。
しかし実はこれらの文明は、その前の、より大きな文明の生き残り、あるいはその派生的な文明である。
ひとつ前の文明とはムー、アトランランティス文明と呼ばれている。それぞれ現在の太平洋、大西洋にあった大陸で、現在以上に科学が進んでいた文明であった。
しかしながら、その当時の人類の意識レベルはあまり高いとはいえず、現代と同様、争いが絶えることなく、ついに核戦争が勃発して、二つの大陸は海底へと沈んでしまったのである。

またそれ以前にも、レムリアという古代文明があり、この文明も非常に進歩したものの、意識の進化が技術の進歩に伴わず、戦争によって自滅してしまっている。
そのほかにも、日本に古くから伝わる竹内文書によれば、大洪水によって、世界中の大陸が水没したという記録が残っている。
まだ知られていない、消えていった古代文明はあまた存在するであろう。

じつは現在の文明も、核戦争で滅ぶかもしれない一歩手前までいったことがある。
いわゆる、キューバ危機である。対立していた二つの大国の、片方の大統領の英断によって、文明崩壊の危機は辛くも逃れたものの、その後も核兵器は増え続け、一触即発の危機的状況は、常に増大し続けてきた。
そしてまた、この文明は新たなる次の試練に直面していた。


ガイヤ危機とでも呼ぶべき、より本質的な危機の到来である。
自然との調和を考慮しない身勝手な振る舞いによって、化石燃料を大量に消費し、森林を伐採し、汚染物質を垂れ流し、地球環境を非可逆的に破壊したため、ついに地球の許容範囲を超え、地球という生命体自身の意思によって自浄作用を招いたのである。

それによって、異常気象を始めとして地震、大型台風、火山噴火などの自然大災害が続発し、やがては地軸の移動、大陸の沈下などの致命的な大災害へと発展してしまう。
この惑星規模の大災害の前では、人類の英知をどんなに結集しても為す術はなく、このまま進めば人類の生き残りは、ほんの一握り、否、皆無かもしれないのである。

人間は、魂、意識、肉体の三つの異なる要素で成り立っている。
魂は、絶対世界の住人であるが、意識と肉体は地球で生まれ、地球で進化してきた。
生まれたばかりの地球は、燃え盛る火の塊であった。生物が住めるような環境になるまでに、長い年月を要した。
やがて温度が下がり、大量の雨が降り、生命の母である海ができた。原始単細胞生物が発生するまで、さらに長い年月を必要とした。
気が遠くなるような長い長い年月を経て、魚類、爬虫類、両生類、哺乳類と進化の樹をたどって、やがて類人猿が現れ、人間の魂が宿る準備が整い、ようやく今の形の人類に到達した。

もし、ガイヤ危機が訪れて、地球上の生物が絶滅すれば、この長い進化のプロセスは、ここで途絶えてしまう。
今、非常な勢いで進行している絶滅危惧種の増加は、その警告と捉えることもできる。
もしそうなれば、私たちのこの形、哺乳類から進化し、多様性に富んだ地球人という種は、二度とこの世に現れることはないであろう。

実は人類にとって、このような惑星規模の災害を招いたのは、今回が初めてではなかった。

第3章 - 魂のルーツ -

夏の星座である「こと座」は、リラと呼ばれるハープのような楽器をイメージした星座であり、非常に明るく輝く恒星ベガ(0等星)が有名であり、日本では七夕の織り姫星と呼ばれている。
そのベガの近くに、M57と呼ばれる環状星雲が存在する。M57とベガは見かけ上はすぐ近くにあるが、実際はベガに比べ、M57は相当に遠い位置にある。 地球からM57までの距離は2600光年であり、ベガまでの距離は25光年である。

 3-1 太陽の爆発
M57はドーナツ状の美しい姿をしている。しかし、現在の姿からは想像もつかない、大変な出来事が過去にあった。 それは、寿命が尽き爆発した恒星の残骸であるガス状の物質が、近くの星に照らされている姿である。
その恒星がまだ生きていたころ、それを廻る惑星のひとつに、ひときわ美しい惑星が存在していた。
地球に良く似た広大な海と、いくつかの陸地を持つ、青く輝く美しい惑星であった。
そこに、リラ人と呼ばれた進化した人類が住んでいた。
リラ人は、銀河系の多くの人類の中でも、非常に早く進化を遂げた種であり、科学技術が高度に発達していた。

主星である太陽の爆発を察知したリラ人は、住み慣れた故郷を捨て、新しい惑星を求めて宇宙に旅立っていった。

いくつかのグループは、苦難の末、居住に適した惑星を見つけ、そこに永住することに成功した。
また、すでに存在していた他の惑星の人々を侵略し、惑星ごと乗っ取りを計ったグループもあった。
リラ人は高度な技術を持つ一方、好戦的な面もあり、その卓越した科学技術と強力な武器により、スターウオーズというSF映画のような、宇宙規模の戦争という悲劇を引き起こしたこともあった。

銀河系には、リラ人をルーツとする種族が、数多く存在する。
ベガ人、プレアデス人、オリオン人、シリウス人、アルクトゥルス人、ゼータ人と呼ばれる人種が有名である。いずれも元を正せば、リラ人である。


プレアデス人と呼ばれている人々は、プレアデス(プレアデス散会星団)と呼ばれる恒星系の惑星に移住し、そこに新たな文明を築き、科学と意識の両面において偉大な進化を遂げた種である。
プレアデス人は愛と平和の担い手として、宇宙を導いてきた。リラ人という同じ魂のルーツを持つ地球人類に対して、常に深い同情と愛を注ぎ込んでくれており、地球人類の師あるいは友人ともいうべき存在である。
彼らは表立って姿をあらわすことはしないが、その深い愛と導きは、現在も引き続き行われている。
プレアデスは日本名でスバル(昴)と呼ばれ、凍てつくような冬の夜空に、ボーッと青く滲んで見える背景の星雲とともに、小さなひしゃくのように見えるこの星座は、日本でも昔からむつら(六連)星と呼ばれ親しまれている。
 3-2 新天地を求めて
新しい新天地を求めて旅立ったリラ人のグループの中に、巨大な宇宙船を建造したグループがあった。
彼らは何世代にも渡る長期間の宇宙間航行に備え、当時のリラの惑星を回っていた衛星を、宇宙船に改造した。
その衛星の中をくりぬき、内部に居住空間を造り、巨大な宇宙ステーションに造り変えた。
内部には空気があり、中心には人工の太陽が輝いていた。自然な空気の対流(風)や水の循環(降雨)などの気象も全て完璧にコントロールされ、森林や河川や巨大な湖、様々な動植物も住んでいた。
その世界が閉じられた空間であること、重力の方向が外周にあることを除いては、地上とまったく変わらない風景がそこにあった。

宇宙には、たくさんの恒星があり、そのほとんどの恒星には複数の惑星が存在する。
しかし、主星である太陽との距離や、空気や水などの生命に適した条件を持つ惑星を探しだすことは至難の業である。 やっと理想的な惑星を見つけたとしても、すでに進んだ文明を持つ先住者が住んでいれば、厄介な問題が発生する。
そして気が遠くなるような長い時間と、膨大な距離の流浪の果て、リラ人はついに理想の居住地を発見した。

それはかっての自分たちの故郷によく似た惑星を持つ太陽系であり、銀河系の果て、出発してから2600光年のかなたにあった。
しかしそれまでの道のりは、決して平坦ではなかった。

あるときは大量の流星群と遭遇し、からくも脱出したが、宇宙船の表面にはたくさんのクレータができた。
またあるときは、別の高度な技術を持つ惑星の人類から、侵略者とみなされたため、激しい攻撃を受け、すんでのところで宇宙船自体が破壊されそうになったこともあった。
そのとき宇宙船は大破し、一部が剥き出しになったため、非常に硬い特殊な金属によって補強された。そのため、宇宙船の表面にはたくさんのクレータとともに、補修されて黒く見える平坦な部分が存在する。


 3-3 テラ(地球)
その惑星の大気の成分を調査した結果、酸素や窒素の割合、多様な生物の存在、そのどれをとっても自分たちの生命を維持するのに理想的な環境であることがわかった。
その上好都合なことに、この惑星には衛星が存在しなかったのである。
彼らはその希望の惑星にテラ(地球)と命名し、その軌道上の、テラからみて太陽と同じ大きさに見える位置に、はるばる旅をしてきた自分たちの宇宙船を置いた。
その宇宙船の自転と公転を一致させ、テラが宇宙船から常に同じ位置に見え、見守ることができるように配置したのである。
この宇宙船こそ、私たちが月と呼んでいる天体である。

その当時、テラは現在より1億年ほど前の時代であり、中生代の後期、長い恐竜時代も終わりを告げようとしていたころであった。
そのころテラでは、巨大恐竜に追われ、やがて現在の人類の祖先になるであろう類人猿のような生物が細々と暮らしていた。

第4章 - 地球人類の誕生 -

リラ人には、壮大な計画があった。新しい人類の創生である。神の領域ともいうべきこのプロジェクトは、それまでのどんな人類も挑戦したことがない、途方も無い長い時間と、大変な労力を要する、全く未知の領域であった。

高度に進化したリラ人は、非常に進んだ遺伝子操作の技術を持っていた。 しかしその技術は便利な反面、使い方を誤れば、計り知れないほどのダメージをその種に与える危険をもはらんでいた。 遺伝子操作で獲得された形質は、もう元に戻せない、引き返すことができない一方通行の道なのである。
彼らはその技術によって、長い寿命と強靭な肉体を獲得していった。しかしその反面、生殖機能はどんどん弱体化していった。 長い寿命、病気をしない強靭な体、美しい姿態、高度に発達した脳細胞、遺伝子操作の技術を繰り返し、それらを求め続けた結果、行き着いたのは種の滅亡という代償であった。

現在の人類の遺伝子操作技術は、まだ始まったばかりの初期段階である。将来の食糧危機への対応など、遺伝子操作技術に向けられた期待は大きいものがある。
すでにその技術を応用したいくつかの農作物が存在する。
一例をあげれば、植物に微生物の遺伝子を組み込むなどの操作が行われた農作物や、それを利用した食品などがある。 「殺虫性作物」は、微生物の殺虫毒素遺伝子を組み入れた作物で、トウモロコシ、ジャガイモなどがすでに流通しており、「除草剤耐性作物」は、微生物の除草剤に強い遺伝子を組み入れた作物で、菜種、大豆、トウモロコシなどが、これもすでに市場に出回っている。
しかし、現在のそれは、企業(製薬会社)と生産者(農家)に利益が出る、一方的なシステムで行われている。それを食物として摂取する人体への影響は、まだ未知数である。

このまま進み、その技術が人類に向かえば、私たちも取り返しのつかない、一方通行の出口がない迷路へと足を踏み入れてしまうかもしれない。
その当時、地球で生まれ地球で育った人類は、遺伝子操作が一切施されていない無垢の状態であった。
リラ人は、土着の地球人を母体として、リラ人の遺伝子をもつ新しい人類の創生に取り掛かった。
これにより、リラ人の不都合な遺伝子はリセットされ、高度な知能と旺盛な生殖機能を持つ新しい人類を創生しようとしたのである。

地球人類創生プロジェクトは、複数の地域で開始された。そのころ地球には、それぞれの気候などの環境の違いによって、肌の色、髪の色や瞳の色が異なる土着の人種が複数存在しており、これらの全ての人種において、新しい人類創生プロジェクトが開始された。

リラ人は地球の人類創生プロジェクトと平行して、太陽系のほかの惑星でも、同様の新しいプロジェクトを開始した。それは金星と木星の衛星「エウロパ」(Europa)での試みであった。

エウロパは木星の第2衛星で、内側から2番目の衛星である。ガリレオが手製の粗末な望遠鏡で発見し、コペルニクスの自動説の根拠として時のキリスト協会と対立した、あの衛星のひとつである。

第5章 - 金星、火星、そしてマルデック-

地球の衛星「月」となった宇宙船の乗組員であるリラ人は、金星に入植を開始することにした。リラ人の中でも、特に姿かたちが美しく、高い知能を持つ人々が選ばれ、新しい人類の祖となるべく、金星へと送り出された。
 5-1 金星
金星は美の女神「ビーナス」と呼ばれるように、森と泉に囲まれた美しい地形をしていた。そこに住んでいた人々の姿容姿は非常に美しく、音楽や芸術を何よりも愛する優雅な人々であり、次第に人口も増え、科学技術も発達し、平和な世界を築いていた。

しかし時が経ち、近親結婚などを繰り返したため、奇形の人々の増加に伴い、社会不安、差別、分裂、そして種族間抗争が相次ぐようになっていった。
やがて、当時の技術である、空間に無尽蔵に存在するエネルギーを取り出し、集中照射して全てを蒸発させる、一種のレーザー光のような兵器を使った大規模な戦争が勃発した。

この戦争が始まってわずかな間に、緑に囲まれ美しかったこの星は見る影も無く破壊され、大規模な火山活動を誘発し、炭酸ガスを主成分とする大気と、強い酸性の気体でできた厚い雲に覆われ、生物すら住めない星へと変貌してしまった。(右の画像は、探査機「マゼラン」(1990年)の、レーダによる現在の金星。金星は厚い雲に覆われているため、表面の地形はレーダでなければ見ることができない)

惑星自体を破壊するほどの、大きなエネルギーを生み出すことのできるテクノロジーが、少なくとも二つ存在する。

ひとつは、核エネルギーである。
物質の核の分裂あるいは融合の時に発生する莫大なエネルギーを利用する技術であり、非常に制御が難しいという特徴がある。
人類という種は、不幸にして意識の発達が未熟なままに、この技術を手に入れてしまった。そしてこれをまず最初に兵器として開発し、人間の大量殺戮に使用したのである。

原子力発電という平和利用にも使用しているが、そのとき発生する放射性物質の処理や安全管理に関しては未だ未熟なままであり、いつ大規模な放射能漏れ事故を引き起こしても不思議ではない。また、発電した後に残る放射性物質の処理は今のところ地下に埋めるしか方法が無く、未来への負の遺産として、蓄えられつづけている。

最近は持ち運び可能で、放射能がほとんど発生しない、小型水素爆弾の開発が秘密裏に進んでおり、すでに実用段階に達している。もうすでに、戦争やテロに紛れ込ませて、核爆発と知らされないまま使用されているふしがある。地中深く、基地を攻撃するバンカー爆弾、バリ島でテロに使用された殺傷力が強い小型爆弾などである。

もうひとつは、空間自体がもつエネルギーの応用である。これは、巨大な質量をもつ岩石などを幾何学的に組み合わせて、空間からエネルギーを取り出す技術である。ストーンヘンジ、ストーンサークル、ピラミッドなどの古代遺跡は、この目的で建造されたものである。

古代文明は、主としてこのテクノロジーを用いていた。しかし、このテクノロジーも悪用すれば凄まじいほどの強力な兵器となる。
莫大なエネルギーを生み出すテクノロジーは、種の進化にとって常に諸刃の剣であり、それをコントロールする意識(精神)の進化を伴わなければ、種自体の崩壊を招くほどの大惨事を引き起こすことになる。

人類はいつも、この部分でつまづいてしまう。
現在、宇宙に存在する高度に進化した種は、技術と意識を見事に調和させ、すばらしい文明の花を開花させてきた。 いつになったら我々人類は、このハードルを突破し、新しい次の扉を開くことができるのであろうか。

金星をかろうじて脱出した少数の人々は、火星に新天地を求めた。
 5-2 火星
軍神マルスと呼ばれる赤く輝く星「火星」、地球に一番近く、地球よりやや小さい惑星である。

最近、NASAによってマーズパスファインダーという、火星上をリモコン操作でで動き回る無人走行車による、大量の鮮明な写真が送られてきた。その写真によると、赤茶けた不毛の大地と、生々しい大水害の跡が映し出されていた。しかし、全ての写真が公表されているわけではなく、ある重要な写真が隠されている。



もし、全ての写真が公表されるならば、そこには廃墟と化した人工建造物や高速ハイウエイ、朽ち果てた乗り物や大型建設機械が映っているはずである。火星には、太古の昔に、高度な科学力を持った人々が住んでいた痕跡がはっきりと残されている。 また、NASAが公表を躊躇する理由のひとつは、その遺跡の技術水準の高さである。あきらかに現在の地球文明に引けを取らない、いやそれをはるかに超えた、古代の人類の足跡がそこに残されているからである。これが明らかになれば、今までの人類の歴史がひっくり返ってしまう。(右図はマーズパスファインダー撮影によるマスコミに公表されていない、自然な色彩の鮮明な写真。通常は赤く着色されている場合が多い)

さて、人々が金星から到着した当時の火星は、森と肥沃な大地に恵まれた、豊かな惑星であった。希望に燃えた人々は、金星での惨事を二度と繰り返すまいと誓い、自由で平和な世界を築こうと決意した。

そして平和な長いときが流れた。
しかし、徐々にではあったが、世代を重ねていくうちに、人々の心の中にお互いに対する不信感が芽生えていった。そして次第に、偏見、権力闘争、分裂、そして種族間戦争へとエスカレートしていった。やがて彼らの潜在意識は、他の天体からの侵略者を呼び込むことになり、新たな、とてつもなく強力な敵が出現することになった。

その敵とは、かっての遠い昔、新しい新天地を求めて旅立ったリラ人の一派であり、知能と科学力だけを高度に進化させ、無慈悲で冷徹な侵略者と成り果てたリラ人の別の集団であった。そしてある日突然、空を覆い尽くすほどの宇宙船が、彼らの前に出現した。

驚いた火星人は急遽停戦し、新たな敵と戦うために、協力して戦うことにした。当時の火星人も高度な科学力を有しており、徹底して抗戦したものの、侵略者の科学力は彼らのそれをはるかに凌駕しており、激戦の末、人々はおろか、自然環境までもが破壊され、大洪水と核の高熱によってほとんどの水は蒸発し、乾燥した不毛の砂漠だけが残された。
(下図はマーズパスファインダー撮影による白黒画像、洪水の跡と思われる地形が写っている)



人間が住めないほど荒れ果てた砂漠の星へと変貌してしまった火星からは、さすがのリラ人の軍団も引き上げざるを得ず、自分の星へと戻って行った。しかし、火星の少数の人たちは、戦争勃発の直前、隣の惑星「マルデック」へと密かに避難していた。
 5-3 マルデック 火星と木星の間に、小惑星群(アステロイド・ベルト)と呼ばれる大量の岩石の群れが存在する。 現在は様々な形をした岩石であるが、その当時は1個の惑星であった。この惑星の名前は「マルデック」といい、地球よりやや大きく青い海をたたえた美しい惑星であった。

そこには、生命の母である広大な海があり、二つの大きな大陸と、その周りに点在する大小の美しい島々があった。島の周りには、たくさんの魚や、イルカや鯨などの大型生物が棲み、島には多くのフルーツや美しい色とりどりの花が咲き乱れていた。火星から逃れてきた人々は、始めは周辺の島々に住み、人口の拡大につれて内陸部へと移動していった。

二つの大陸のうちの一つはムーと呼ばれ、もうひとつの大陸はアトランティスと呼ばれた。この名前は地球においても再び登場することになるが、同じ地名が異なる惑星に存在することはよくある。これは、同じ魂が何度も生まれ変わる、いわゆる惑星間規模の転生輪廻により起こる現象である。

それぞれの大陸で発生した小集団は、お互いに小競り合いや戦争を起こしつつ、長い年月をかけ、分裂と統合を繰り返しながら、次第に人口も増え、それぞれの民族としてまとまっていった。

アトランティス人は、科学の分野に長けた人が多く、科学文明が栄えた。また父権主義的傾向が強く、教条的な面があり、宗教は唯一絶対神であった。現在のヨーロッパやアメリカ人、ロシア人などの魂へと受け継がれている。

一方、ムー人は、精神世界の分野に長けた人が多く、精神文明が栄えていた。また母権主義的傾向が強く、協調を大事にする傾向があり、宗教は自然崇拝で、多神教的であった。現在の日本人、インド人、アジアの島々に住む人々などの魂へと受け継がれている。

全く対照的なこの二つの民族は、考え方や宗教の違いがもとで、ことごとくぶつかり合い、お互いに対立し、あらゆる面で競い合っていた。ささいな考え方の違いが発端となって、局地的な戦争に発展することもしばしばであった。

二つの大陸の人々は、お互いに対する不信感から来る拭いがたい怖れを感じるようになっていった。核兵器の発明とともに、この怖れはより一層深刻な問題へと発展した。あるときアトランティスの人々が、ムーの都市に照準をあわせ、1発の核弾頭をつんだミサイルを設置した。これによってアトランティスはムーに対し絶対的に有利に立ったと思われた。しかしこれに衝撃を受けたムーの人々は、すかさず対抗して、今度はアトランティスへ向け、複数の核弾頭ミサイルを配備した。それに対して今度はアトランティスの人々が怖れを抱き、より多くのより強力な核弾頭ミサイルを配備し対抗した。このようにして、ミサイルの数は次々と増加し、核弾頭の性能自体もどんどんと強力なものになっていった。

その後も、この「核の均衡による平和」と呼ばれた軍拡競争はとどまるところを知らず、次第にエスカレートしていった。ついには、マルデックの全ての人類を何べんも消し去ることができるほどの大量の核ミサイルがお互いに照準を合わせることになり、一触即発の緊張状態が出現した。そのころ人類の滅亡という悪夢が、人々の間でささやかれるようになり、当時のメディアでも盛んに取り上げられるようになっていた。

やがて悪夢は現実のものとなった。いや悪夢どころではない。それより何倍も恐ろしい現実が、ある日突然襲いかかったのである。

ミサイル制御システムの誤作動が原因で、1発のミサイルが相手国に向け発射された。それに反応し、次々と数万発にも及ぶ双方の核ミサイル全てが発射された。大量の核爆発の結果は想像を絶するものだった。両方の大陸に住む人々はもとより、全ての生物は一瞬にして蒸発した。やがて核爆発は惑星自体の地殻変動を誘発し、大規模の地震や火山噴火が連鎖的に発生した。そしてついに、あろうことか惑星自体が大爆発を起こし、すべてが木っ端微塵に吹き飛んでしまったのである。

美しかったマルデックの姿はどこにもなく、虚しく宇宙を公転する大量の岩の群れとなってしまったのである。(左写真はガリレオ探査機(1993年8月28日)で撮影された小惑星「アイダ」。右側の小さい点はその衛星「ダクティル」)

人の未来は、その人の意識によって決まる。全ては、その人の意識のあり方、思考、行動(選択)によって、決定される。宇宙は忠実に、その人の意思を実現させようとフル稼働する巨大コンピュータであると言えよう。 そのように、人間の意思、思考は強い力を持っている。それは、神と同じ種類の力である。個別化した神が人間であるなら、当然といえば当然なのではあるが。

同じようにその星の未来は、その住人の集合的な意識によって決まる。滅亡まで追い込まれるのも、そこに住む人びとの意識であるなら、もっと別のすばらしい未来を選択する力も、当然持っている。
マルデックの崩壊も、その住人の集合的な意識によって自ら招いた結果であった。

悲劇の原因は怖れである。恐れは自分と他が別であると考えることから発生する。マルデックの崩壊も結局は、「分離」という人類の持つ根深い錯覚が招いた悲劇と言えよう。「全てが一体である」という認識に人類が達するまで、あとどれほどの悲劇を繰り返すのであろうか。

そしてまた、マルデックの崩壊は、近隣の惑星はおろか太陽系全体にも大きな影響をもたらした。宇宙に存在する全ては、単独に存在しているものは何も無く、全ては密接に影響しあい、依存しあっているものなのである。


第6章 - 氷河期の到来-


マルデックの崩壊によって、最も大きな影響を受けたのは、そのすぐ外側の軌道を回っていた木星であった。この太陽系最大の惑星は、恒星になりそこなった惑星ともいわれ、ガス状の惑星であり、直径は地球の約11倍もある。


マルデックの爆発によって飛び散った大量の破片は、木星の強力な引力に捉えられ、そのかなりの部分は木星のガスの海に吸い込まれてしまった。木星の中心部には、固い中心核があり、そこにぶつかって大爆発を起こし、その爆発の名残が、今でも大赤斑と呼ばれる巨大な渦状の雲の斑点として残っている。(右写真は木星。中央やや右下に、「大赤斑」が写っている。この「大赤班」は地球2〜3個分の大きさに相当する。)

この衝撃によって、木星の核は異常な高温になり、すんでのところで核融合反応が発生し、太陽のような恒星になってしまうところであった。幸いなことに、恒星に成長するには木星の全体の質量がやや小さすぎた。もしかすると、太陽系は、二つの太陽を持つ、2連星となる可能性もあった。宇宙には連星と呼ばれるものは珍しくなく、太陽系のすぐ近くにあるケンタウルス座α星の3連星が有名である。

火星と木星の間にある小惑星群は、以前はひとつの惑星であったのではないかという仮説が唱えられたことがあったが、全ての小惑星の質量を集めても1個の惑星分の質量には、はるかに満たないという理由で、この仮説は日の目を見ることはなかった。実際は、ほとんどの質量は木星に捉えられてしまっていたのである。ただし、木星の引力に捉えられることなく、小惑星となった破片も、木星と同じ軌道上に大量に存在している。

また、太陽系の外にまで弾き飛ばされ、小惑星となった破片もある。またある小惑星の軌道は、土星と天王星の間にあり、またある小惑星の軌道は火星の近くから天王星まで延びているものもある。驚くなかれ、その中には、はるばる地球のすぐ近くまでやってくるものもある。地球近傍小惑星群(Near-Earth Asteroids; NEA)と呼ばれ、ごく小さなものから、直径64km以上の巨大なものまで、さまざまである。

そのように惑星の軌道を横切るような軌道を持つ小惑星は、彗星と呼ばれるものも含めて、太陽系にとって非常に厄介な存在である。惑星の摂動を受け、そのうちに軌道が変わってしまうことがあり、地球も含め惑星との衝突という大惨事の可能性をいまでも秘めている。

実際、最近アメリカとフランス合同研究チームの研究により、軌道が判明した900個にも及ぶ小惑星は、それぞれが直径1km以上の大きさのもので、毎年そのうちのいくつかが地球と月の間の2、3倍程度という至近距離まで地球に接近するといわれている。このため、将来それらのうちの1つが、地球に衝突する可能性が真剣に懸念されている。直径1km以上の小惑星が地球に衝突した場合は、地球規模の災害になるといわれている。

一方火星も、マルデック崩壊の影響を免れなかった。飛び散ったマルデックの大量の破片は、すぐ内側の軌道の火星にも容赦なく降り注いだ。多くの破片は、火星の大気との摩擦で燃え尽きたものの、大きな破片は燃え尽きることなく地表に落下した。その結果、火星表面にはたくさんのクレータが形成された。もし、火星上に人類が生息しておれば、大変な災害が発生したであろう。ただ、火星は過去の宇宙規模の戦争によって、幸か不幸か、とうの昔に人類が生存できない不毛の世界に変わっていたのである。


さて地球であるが、マルデック崩壊のころ、たくさんの生物が繁栄していた。中世代後期、白亜紀と呼ばれるこの時代は、地球全体が温暖な気候であり、南極大陸にまで植物が繁り、草食恐竜が台頭していた。またこれらの草食恐竜を捕食するティラノサウルスなどの大型肉食恐竜も栄えていた。海には、アンモナイトと呼ばれるイカやタコの仲間(軟体動物頭足類)が生息していた。

リラ人の人類創生プロジェクトによって創生された新しい人類も、あるときは恐竜から逃げまどいながら、あるときは恐竜と戦いながら、順調に個体数を増やしていた。
(右写真は、1982年テキサスで、白亜紀の地層から、恐竜の足跡と共に人間の足跡が発見された。今までに300の恐竜の足跡と共に、80の人間の足跡が発見されている。しかし現在の歴史では、人類の誕生は恐竜の絶滅後といわれている。)


ところが、マルデックの崩壊によって、地球の様相は一変することになる。

マルデックの爆発によって飛び散った大小さまざまな破片は、ある日何の前触れもなく地球に降り注いだ。昼となく夜となく、空を覆い尽くすほどの大量の流星と火球の群れであった。多くの破片は、大気との摩擦で燃え尽きはしたが、いくつかの大きな破片は燃え尽きることなく、隕石として地上に落下した。最も巨大な隕石は、直径が数kmにも及び、これらはすさまじい破壊力を持っていたのである。


第7章 - 緊急介入 -

その数時間ほど前、月に居住しているリラ人の間に、マルデックの爆発によって、大変な緊張感が走っていた。

「リック」というニックネームで呼ばれている惑星軌道監視の任にあたっている若き技術員は、食い入るように立体スクリーンを眺めていた。そこには、マルデックの爆発によって、大量の破片が飛び散っている様子が映し出されていた。

その当時、月に居住するリラ人の人口は、約3万人程であった。彼らの平均寿命は500歳以上であり、リックはやっと100歳に達したばかりの青年であった。リックの風貌は、黄色人種そっくりであり、身長は160センチ程で、中肉中背のがっしりした体格であった。黄色人種というより、先住日本人そのものの姿であり、アイヌ民族あるいは沖縄先住民の特徴を強く持っていた。これには理由があり、先住日本人は、日本列島にもともと住んでいた先住民と、月に住むリラ人との間で誕生した種であった。日本には「竹取物語」という、昔から伝わる童話の形で、月とのかかわりが今でも残されている。

この「竹取物語」は、我が国最古の小説と言われており、山に竹を取りに行ったおじいさんが、竹の中から小さな子供を見つけ育てた。「かぐや姫」は美しい娘に成長し、ある日、「私は月の人間です。もうすぐ月から迎えがきます。」と言い、やがて8月15日の満月の夜、空が真昼のように明るくなり、天人たちが「飛車」に乗って現れ、かぐや姫は月へ帰っていったという物語である。「飛車」というのは、今で言うUFOの描写であろう。

現在の日本人は、弥生時代に中国大陸から大量に移動してきた人々との混血が進んではいるが、今でもアイヌや沖縄には、先住日本人に近いDNAを保持している人びとがいる。男性のY染色体にYAPという部分がある。この遺伝子は、東南アジアでは日本人とチベットの一部の人にのみ見られる、非常に珍しい遺伝子である。本州に住む日本人の約25%が持っており、アイヌ民族にいたっては88%がこの遺伝子をもっていることが知られている。YAP因子を持つ日本人男性が縄文系であり、これを持たない日本人男性が弥生系と言われている。日本列島の、周辺に行くほど、辺地へ行くほど、このYAP因子を持つ人びとの割合が多い。縄文系の先住民族が、大陸から進出して来た人びとに、次第に辺地へ追いやられていった様子がうかがえる。DNAには、人種のルーツや変遷の過程が記録されている。

1947年の7月2日、アメリカのロズウエルの北にある牧場に、墜落し大破したUFOがあった。有名なロズウエル事件である。その墜落したUFOから発見された3体の乗組員の遺体は、日本人そっくりであったという。その当時アメリカは、戦争で日本を破ったばかりの時期であり、日本人が再び攻めてきたという風評が立ったほどであった。実際は日本人ではなく、月に居住するリラ人の宇宙船が、突発的なアクシデントにより墜落したのであった。そのあと、乗組員のDNA鑑定をしたところ、YAPという遺伝子が発見されたという。

リックは爆発して飛び散ったすべての破片に対して、その進路をチェックしていた。果たせるかな、スーパーコンピュータの解析によれば、大気との摩擦で燃え尽きてしまう程度の小さな破片を除けば、4個の大きな破片がテラに向かって突き進んでいることが判明した。そのうちの最大の破片は、直径が35キロにも及び、これがまともに衝突すれば、テラの生命体は壊滅的な惨事をこうむるのはあきらかであった。コンピュータの計算によれば、テラへの衝突までのタイムリミットは、あと3時間足らずである。もちろん、月に向かってくる破片もあるが、もともと頑丈な宇宙船として改造されていた月にとって、また、内部に居住するリラ人にとっては、なんの問題もなかった。

リックは、宇宙の中枢制御コンピュータにアクセスし、4時間後のテラの様子を映し出した。そこには驚くべき光景が映し出された。連鎖的な火山活動がいたるところで発生し、大気は炎とガスで包まれ、すべての生物は死滅し、テラはさながら、生命発生以前の原始惑星の様相を呈していた。

通常このような、小惑星の衝突という事態の場合、その惑星に居住する知性体が、自らの意思によって回避する場合を除き、外部からの介入は特別な場合以外は、銀河系連合の条約により厳しく禁止されていた。

しかし、テラに関しては、今ようやく知性体の活動が始まったばかりであり、当然、そこに住む生命体自身による防御は望むべくもなかった。月に住むリラ人の最大の使命は、新たな人類の創生と、その成長を見守ることである。金星、火星、マルデックと失敗を重ねてきたリラ人にとって、テラは最後に残された一縷の望みであった。
リックはすぐさまテラの生命体を救うべく、銀河系連合に対し、小惑星とテラの衝突回避のための緊急介入の許可を要請した。

ほどなくして、銀河系連合からの連絡が入った。テラに居住する生命体の、現在の進化状況に対する問い合わせであった。すぐさま、テラの生命体に関する詳細な情報が、銀河系連合へと送信された。

銀河系連合の緊急会議は、賛否両論に分かれ、なかなか決着がつかないまま、時間だけが過ぎていった。その間も、衝突までの時間は刻一刻と迫っていたのである。 ようやく衝突30分前になって、衝突回避の許可が下された。ただし、最大の破片にのみ、最小限の介入に限って認められたのであった。しかしこれで、とにもかくにも、テラの人類の全滅という最悪のケースは回避することができるのである。

この条件で取りうる衝突回避の方法は、破片の軌道修正であった。リックの要請により、複数の宇宙船が月の裏側の基地から発進していった。3台の宇宙船から照射され、破片の近くにフォーカスされた仮想質量の引力によって、この巨大な破片は徐々に軌道を変え始めた。


第8章 - 恐竜の絶滅 -

やがてこの巨大な破片は、テラの引力圏を僅かにかすめ、小惑星となって、宇宙のかなたへと飛び去っていった。

リックは安堵するもつかの間、この小惑星の軌道について調べ始めた。スーパーコンピュータの解析の結果、この小惑星は太陽の引力により、太陽系の外周部にも達する広大な放物線を描き、再びテラへ戻ってくることが判明した。次の最接近は、解析の結果、リラ暦2,050,243,256(地球暦AD2036年)であることがわかった。しかしそのときは、衝突する可能性が高く、月にすむリラ人を始め、宇宙の高度に進化した知性体は、もはや手出しすることが許されないのである。(現時点でも、この小惑星は地球へ向かって一直線に突き進んでいる。発見され、公式に発表される日は近い)

「これは、テラに残されたタイムリミットだ。テラの人類が順調に進化し、自分自身で運命を切り拓くことを祈ろう」
リックは、こうつぶやきながら、立体スクリーンに映し出された、テラの青く輝く美しい姿を眺めていた。


やがてテラには、大量の隕石が降り注ぎ始めた。大小さまざまな流星、火球が全天を覆い、空は夜でも昼のように明るくなった。そしてついに、ひときわ大きな隕石を含む大型の隕石集団が落下してきた。それらは、主に太平洋のアジアの地域に集中した。

海に落下した隕石は、海水の蒸発と、巨大な津波を発生させ、地上に落ちた隕石は、巨大なクレータを形成するとともに、火山噴火を誘発した。

その時の衝撃によってできたクレータの外縁の盛り上がりは、外輪山と呼ばれている。またその衝撃によって地中のマグマが噴出し、中心付近に噴火孔ができ、その場所に水がたまってやがて湖になった。それはカルデラ湖と呼ばれ、いまも残っている。

世界最大のカルデラ湖と呼ばれるトバ湖はインドネシアのスマトラ島北部にある湖である。長さ100km、幅は約30kmに及ぶ。もうひとつは、日本列島の西端(ただしこの時点では、日本列島は島ではなく、ユーラシア大陸の一部であった)、熊本県にある阿蘇山のカルデラ湖。この湖を取り囲む外輪山は、世界最大級と呼ばれ、東西約18キロメートル、南北約25キロメートルにも及ぶ。そしてもうひとつは、フィリピンのルソン島、タガイタイにあるカルデラ湖。これはタール湖と呼ばれ、外輪山の周囲は40kmもある。これらの場所は、今でも火山活動や火山性地震が発生しやすい場所である。そのほかにも、このときにできた大小さまざまな、クレータの痕跡が世界各地に現存している。


トバ湖(インドネシア)

阿蘇カルデラ湖(日本)

タール湖(写真は内輪火山の湖、フィリピン)

地球規模の火山噴火によって発生した大量の溶岩や土石流は、瞬く間にテラの全土を襲い、噴煙は何年もの間テラを覆い、やがてテラは急激に寒冷化していった。さしもの隆盛を極めた恐竜たちも、なすすべも無く、次々と死滅していった。恐竜やアンモナイトなどの大量の死骸は、このときの溶岩や土石流に、腐るひまも無く埋まり、長い年月を経て石化し、現在のエネルギー源である石油となっていった。また同時期に繁栄していたシダ類や裸子植物の大量の植物も同様に石化し、長い年月を経て石炭となっていった。こうして、我が物顔でテラに君臨してきた恐竜たちの時代は、ついに終焉を迎えることになったのである。

しかし、恐竜に比べはるかに小柄な哺乳動物や爬虫類、昆虫類、そして海中の動植物は、細々ではあったが、氷河期の間も絶滅することなく生きのびた。そしてまた、かろうじて生き残った少数の人類も、洞穴や氷で住居を作り、協力して狩をし、焚き火を囲んで暖を取りながら、なんとか絶滅を免れ、氷河期を生き延びたのである。

- 続く -