小学校12年生のころ、通っていた山奥の小学校の校庭の、すぐ脇の下の、国道4号線を、アメリカ軍のトラックが列をなして兵員や物資を輸送していました。まだ舗装もされていない国道を延々と、走行するのでした。誰ともなく仲間の同級生が隊列に向かって手を振ると、相手の兵士も手を振り返します。晴れた日には幌がはずしてあり、トラックの中の兵士がよく見えました。ところでアメリカは典型的な「軍事大国」です。

 あれが電脳法師と「アメリカ合州国United States of America」(以下「アメリカ」と略)との最初の出会いでした。もう大分昔のことです・・・

 あれから、このアメリカというものに対しては、さまざまな形で出会ってきました。しかし何か、づっーと腑(ふ)に落ちないものを感じる国なのです。この感覚は何なのだろう・・・。

 そこで、いつもの「電脳法師的視点」で考えてみようと思うのです。

 しかし相手が大きなテーマだけに、このページを先ず第一の橋頭堡(きょうとうほ)として、時間をかけて調査・研究し、そして考えながら書いていき、徐々に相手を明らかにするというやりかたで、非定期的にアプローチしてみようと思います。

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 小学校の高学年のころになって、我家にテレビというものがはじめてきました。それまでは隣の家に出かけて見せてもらっていました。そのころから色んなアメリカのテレビ番組が放送されてきて、どっぷりとアメリカ文化に浸り始めるのでした。

 それ以来テレビ番組としては、ちょっと順不同で思い出すだけでも、「名犬ラッシー」「ララミー牧場」「ライフルマン」「ロ−ハイド」「奥様は魔女」「コンバット」「ボナンザ」「アニーよ銃を取れ」「ローンレンジャー」「ナポレオンソロ」「スパイ大作戦」「ポパイ」「ウッドペッカー」・・・・・・などなど往時の名番組が目白押しです(番組名は少し違うかもしれません)。テレビはアメリカの象徴でしょう。現在は「テレビ伝道師」がキリスト教の説教する時代なのです。全くアメリカは「テレビ大国」であり「エンターテイメント大国」です。

 不思議なことに今でも、どの番組もものすごく鮮明に思い出されます。これを思うと改めて、相当強く刷り込まれ、洗脳されたのだなあ、と思います。子供の目にも、どの番組も主張は明確で、「自由」「平等」「博愛」「公平」「民主主義」「科学」「技術」「正義」「勇気」「挑戦」「リーダーシップ」「勤勉」「努力」「意志」「隣人愛」「議論」「人間の可能性」「敬虔なキリスト教徒」「レディファースト」・・・等が明確に主張されていました。でも何か本当かなあ・・・という感じがあったことも事実です。

 さらにこれらの対立、例えば「善と悪」「平等と不平等」「公平と不公平」「勤勉と怠惰」・・・が存在し、ある出来事を経て大団円あるいは解決を迎えるというかたち・・・のストリーやイメージが強く表現されていたと思います。でも何かうま過ぎだなあ、都合がよ過ぎるなあ、とも思いました。おそらくこのテレビを見た世代の人間は、考え方や倫理観、価値観、行動様式など、そのよしあしは別として、相当影響を受けたと思われます。アメリカは「理念大国」でありまた「記号大国」です。

 そしてこれらのイメージ、理念、記号は、アメリカを解き明かす重要なキーワードとなるはずです

 戦後60年とのことですが、幕末、明治維新や大正、昭和と、そして戦争前から、戦争中も、そして戦後と、われわれはアメリカに対する見方に何か大きなズレがあるような気がします。相手の一貫した戦略の術中に陥っていなければよいが、と思ってしまうのです。電脳法師は、団塊の世代の尻尾の先のほうですが、相当深くアメリカ文明・文化と付き合い、あるいは向き合ってきました。出会ってから長い時間を経て、この「相手」とは過去現在未来に渡り、一体何なのだろうか、と改めて思うようになりました。

 日本ではもちろん、アメリカは現在でも最も注目すべき国であり、例えば今回の選挙(2005年9月の”郵政民営化”選挙)ひとつとってもアメリカの直接、間接の影響、関与というものを考えざるを得ません。特に経済的、軍事的、国際的な役割の面に関しては、日本は急所を握られているようなものでしょう。日本には何百兆円という借金があるそうですが、この大部分はアメリカと関係しているのでしょう。

 国内のあらゆる分野の動向を予測するにもアメリカの動向抜きには考えられません。世界動向についても、アメリカがその中心の一つであり、いやアメリカの一極集中状態ですが、正確にとらえないとそれらの予測が全く意味をなしません。現在最も深く理解が必要な国でありながら理解するのが難しい国であると思われます。

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 カリフォルニアの大気浄化のために制定された「マスキー法」の影響により、当時日本国内でも排ガス浄化の動きがあり、会社に入社と同時に、この対策のためのガソリンエンジンの電子制御システムの開発に携わったことから、電脳法師の「技術屋人生」の歴史が始まりました。使用する部品や技術的方法論のアイデアや発想は基本的にはほとんど「アメリカ原産」でした。そう、アメリカはいうまでもなく「技術大国」です。

 第2次世界大戦終盤直後に、コンピュータの原理はアメリカの数学者フォン・ノイマンの考え方から作られました。もともと電気式の計算機は大砲の弾道計算用として開発されました。これを使いやすくしたのがノイマン型コンピュータです。同じくトランジスタもアメリカの発明です。これらの進化した結果として、典型的なアメリカ文明の産物である「マイクロコンピュータ」が生まれました。これは画期的な発明でしょう。いまや第3次産業革命の時代といわれています。この革命の基盤を支えるものの一つがマイクロコンピュータです。半導体は「産業の米」とかいわれたことがありますが、それ以上の役割でしょう。またアメリカは「コンピュータ大国」です。

 マイクロコンピュータで自動車も制御しますが、個人用にパーソナルコンピュータ、つまりパソコン普及がこのアメリカ的文明を一気に拡大したと思われます。MS-DOS, WINDOWS, MacOSX, UNIXなどオペレーティングシステム(OS、コンピュータに仕事をさせるための手配師的・管理人的ソフトウエア;新しい版つまりバージョンが出ると話題になる)はアメリカ産です。アメリカはこのOSの重要性については、早い時期から認識していたと思われます。いくら優れたマイクロコンピュータができても、使い易いOSがなければ、ただの電子部品です。一般的には普及しません。アメリカは他の国で独自なOSの開発を事実上許しませんでした。OSはアメリカの国家レベルの戦略品なのです。ビジネス的に儲けるだけではありません。電脳法師には、何か昔の、キリスト教の布教活動に見えて仕方ないのです。つまりアメリカは「OS大国」です。

 またインターネットは、冷戦の「産物」でしょう。インターネットの基本構想は、アメリカがソ連などから攻撃を受けた際、通信網がズタズタになっても何とかまだ活きている線を確保して通信機能を維持する方式(TCP/IPという通信プロトコル(手順))です。このようにインターネットは当初軍事目的で構築されましたが、いまは世界的標準の一つです。もはや企業でも、インターネットなしでは企業活動が成立しないところまでになっています。アメリカは「インターネット大国」なのです。

 技術分野でのアメリカの突出は、いかにも先ほどの、テレビで知った子供の頃のアメリカのイメージに良く合う感じを持ちます。いっぽう街に出れば、ハンバーガーやフライドチキン、コンビニエントストア、アメリカ映画などなど、もうアメリカだらけです。

 電脳法師は、アメリカを特徴付けるいい方で「○○大国」といっています。これらのうちいくつかの表現では、この「大国」とは「○○の分野で、アメリカがリーダーシップをとる、より正確には世界の覇権を握る」という意味を含めていっています。これはアメリカの存立にかかわる基本的なことです。われわれの感覚では、ゆっくりと世界中と仲良くやればよさそうなものをと思いますが、彼の国は全く日本とは原理原則が違います。また”団塊の世代”風のいい方では「大国」とは”帝国主義”ともいえるでしょう。よく「米帝(=アメリカ帝国主義)」という言い方がありました。いまではあのローマ帝国との比較で語られることもしばしばです。そうです、アメリカとは「”覇権”大国」なのです。なんであれ覇権を握ることが目標です。

 最近はやりの「グローバリゼーション(地球規模化)」「グローバルス・タンダード(地球規模での標準化)」も非常に”アメリカ的”(=アメリカの戦略的)です。われわれを含む個別の文化へのアプローチは「ローカリゼーション(固有のものへの認識)」です。「グローバリゼーション」に対比されるものは「ローカリゼーション」です。この「グローバリゼーション」の時代にこそ「ローカリゼーション」がさらに必須となるのです。

 実は「ローカリゼーション」がなければ「グローバリゼーション」は存在しません。「ローカリゼーション」あっての「グローバリゼーション」です。このことに気がついていない場合が多く、一方的な「グローバルス・タンダード」「グローバリゼーション」を鵜呑みにしてそれに単純に同調することは、非常に危険です。われわれの「アイデンティティ」「個性」「基準点」が失われます。

 このようなアメリカ文化文明一色の現状の中で、われわれの「アイデンティティ」「個性」「基準点」のようなものを再認識しなければならないと思います。われわれは日本というものをもっとよく知る努力をしなければなりません。いまのあらゆる混乱は実はこの「アメリカ」そのものと大いに関係してくるのです。日本は「太平の眠りを覚ます上喜撰(=蒸気船)たった四杯で夜も眠れず」の黒船来襲以来150年以上もアメリカの「トラウマ」に悩まされつづけているのです。

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 最近アメリカに関する本が多く出ており大変参考になります。それらをざっと読んでみても、決してアメリカという国は一筋縄ではいかない国なのです。この場合の、分かりづらさの要因は二つあると思います。

 一つは、われわれが深く理解しようとしていないこと、理解する必要が無いくらい分かりきっていることだと思い込んでいることで、もう一つは、相手が普通より分かりずらい構造をしていること、通常の理解の仕方では理解しづらいことです。

 電脳法師は、アメリカに関しては不幸なことに、この両方が当てはまる、と思います。自分で振り返ってみても、分かっているつもりでいたものが、実はなかなか核心に触れていなかったり、相手に取り組んだはいいけれど、なかなか相手の構造、機能、特性が見えません。アメリカは実は”複雑大国”なのです。

 専門家の最近の研究成果を参考にして、少しづつアメリカを読み解いてみましょう。

 基本的に、アメリカには、大きな4つの考え方の流れがあるといいます(中西、村田ほか)。歴史・時代や地域、宗教・イデオロギーなどで、4つの、それぞれ異なる影響力がある流れとなった考え方です。これらの考え方は、決して交じり合って変容するということがなく、アメリカを取り巻く外部環境の状況によって、どれかの特性が強く現出するといわれます。

 この代表的な4つの歴史的思想的流派の流れをまとめてみました。

・・・そうだ、このアメリカのように・・・


source: http://www.usflag.org/history/the13starflag.html

Delaware, Pennsylvania, New Jersey,
Georgia, Connecticut, Massachusetts,
Maryland, South Carolina, New Hampshire,
Virginia, New York, North Carolina,
Rhode Island

(デラウエア、ペンシルベニア、ニュージャージー、
ジョージア、コネティカット、マサチューセッツ、
メリーランド、サウスカロライナ、ニューハンプシャー、
バージニア、ニューヨーク、ノースカロライナ、
ロードアイランド)

思想的流れ、代表的人物 原則姿勢 実践・行動 代表的地域
【出身地方】
宗教・教義
「ウィルソン」派
【理想主義的】
第28代大統領 理想主義的
開明・啓蒙的
民主主義の敷衍
理性への信仰
勤勉・教育
敬虔な信仰
マサチューセッツ、
ニューイングランド
【イーストアングリア】
(東イングランド)
《ピューリタン》
古いイングランド
との決別
勤勉・理性
「ジェファーソン」派
【理想主義的】
第3代大統領、ハミルトンの政敵、フランス指向 欧・英国的自由
体制的
孤立主義
大陸国家思想
植民地経営
国内安定・発展
陸軍指向
バージニア、
【オールド
イングランド】
(ロンドン、
西南イングランド)
《英国教会》
ジェントルマン
(→民主党)
「ハミルトン」派
【現実主義的】
ワシントン大統領時の財務長官、イギリス指向、B.フラクリン、W.ペン 協調主義
平和主義
海洋国家思想
寛容・共感・開放
(日本人に合致)
世界での役割
連邦・企業協調
金儲け、
交渉、外交
海軍指向
ニューヨーク、
ペンシルベニア、
【各国からの
難民、各国の
亡命者】
《クエーカー教徒》
コスモポリタン
グローバリゼション
博愛・国際
(→共和党)
「ジャクソン」派
【現実主義的】
第7代大統領 単独主義
軍事力行使
大衆化民主主義
反知性主義
物質的繁栄
国権の発揚
先制攻撃的
ジョージア、
サウスカロライナ、
アラバマ、
【アイリッシュ】
【スコットランド】
ラジカル、
深南部的、
反体制的、
テキサス魂、
南北戦争怨念

 電脳法師にとっては、アメリカを深く理解するには、なかなかよい一里塚のような気がします。時間的側面、地域的側面、精神的・宗教的側面などがよく表されています。

 これらのルーツは、実は、ヨーロッパ大陸にあり、彼の地における様々な特性、特殊性、葛藤・矛盾、対立が海を越えることによって、特性が変質し、より極端になり、そして煮詰まったようにも見えます。つまりはアメリカはヨーロッパの本質が変化し、際立って表れたということです。また旧大陸と新大陸との確執という新たな側面も踏まえることも必要です。

 ちなみに日本人は、このうちの「ハミルトン派」によく感情、心情的に最もよく合うようです。基本的考え方やその行動様式も確かに合いそうな気がします。歴史的に見ても、このタイプの人物や事物に触れて、明治期の日本人が海を越えました。新渡戸稲造、津田梅子、内村鑑三など日本のプロテスタントの人々には、クエーカーの影響が強いそうです。電脳法師が見た昔のテレビドラマも、このタイプのアメリカ人が多く出ていて、アメリカとはこんな国かと思い込んでいたのでした。

 しかし実際局面では、最近の「9.11」「イラク問題」等を見るまでもなく、アメリカの色々な「人格」が現れ、まるで「多重人格者」のようにわれわれを惑わし続けています。たとえば卑近な例では、あの大型ハリケーン「カトリーナ」は、地球物理学的には大きな大気現象ですが、それがアメリカに上陸すると、「アメリカ」にさまざまな影響を及ぼします。

 これは、工学部の「学生実験」のようです。工学的には、何かある「システム」にある「基準信号」を入力し、その「応答出力」を見れば、出力と入力との比で、そのシステムの構造や機能・特性が表されるという手法(「同定」)があります。

 まさにこの学生実験のようにアメリカにある信号(=ハリケーン)を入力すると、ある応答出力(=さまざまな社会現象)が現れ、その内部構造や特性、正体が分かるのです。今回は、詳細は述べませんが、先の4つの流れのどれか、あるいは複合的流れが出てきていることが分かります。なにせ舞台は、あの”ディープサウス(深南部)”です。大統領や周りのスタッフの出身地や経歴、当該州の首長の姿勢(思想的流派)、そして被害者住民がどのような立場の人々かにより、色々な現象、事態が生じたのでした。

(いつか分かりませんがこれからも続きます)

参考図書・文献
図書名 著者 出版社 出版年
「アメリカ外交の魂」 中西輝政 集英社 2005
「アメリカ外交 苦悩と希望」 村田晃嗣 講談社 2005
「アメリカの行動原理」 橋爪大三郎 PHP研究所 2005

2005.9.30 電脳法師  

・・・そして、このアメリカのように・・・