1 インフルエンザ脳炎・脳症の実態調査結果概要

1−7 平成16/17年(2004/2005年)インフルエンザ脳症報告 (平成17年4月22日発行)

・国立感染症研究所ホームページ「感染症発生動向調査(週報)」の「2005年第14週」より抜粋

インフルエンザ脳症は毎年、インフルエンザの流行期に一致して5歳未満の乳幼児を中心に発生がみられている。インフルエンザ発症による発熱から神経症状(痙攣、熱せん妄、意識障害など)の出現までが0〜1日以内と急速であり、予後は致命率30%、後遺症出現率25%と言われている(「インフルエンザ脳症」の手引き:厚生労働省インフルエンザ脳症研究班編集より)。

以前はライ症候群と混同された場合もあったが、異なった病態である(表1)。今シーズンのインフルエンザ脳症の報告一覧を表2に示す。これまではA型インフルエンザ罹患者(特にAH3)に多いとされてきたが、今シーズンはB型の流行を反映してか、第14週現在でB型罹患者からの報告が60%以上を占めている。しかしながら、全報告例は36例にとどまっており、従来1シーズンに100〜300例といわれていた報告数と比べて少なくなっている。また、報告のあった自治体は17都府県であり、30道府県からの報告はなかった。インフルエンザ脳症が急性脳炎のカテゴリーに組み込まれて、全国の医療機関から報告されるようになったのは実質的に今シーズンからであるが、将来に向けてそのサーベイランスの効率性および精度を高めることは、検討すべき課題である。

インフルエンザ脳症はこれまで小児の疾患であるとされてきたが、表2にみるように、最近高年齢者での報告が含まれている。しかし高齢者におけるインフルエンザ脳症が、従来の小児におけるものと同じものかどうかについては、今後の検討が必要と思われる。

(表1、表2 略)

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1−6 平成14/15年(2002/03年)インフルエンザ脳症全国調査について (平成16年11月発行)
(平成15/16年(2003/2004年)シーズンを含む)

・国立感染症研究所ホームページ「IASR」中、16年11月号より抜粋

 

インフルエンザ脳症の疫学などについては、これまでも「インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学および病態に関する研究班(インフルエンザ脳症研究班)」(班長:森島恒雄・名古屋大学医学部教授)の成績についてその概要などを本月報でも紹介してきた。研究班は「インフルエンザ脳症の発症因子の解明と治療及び予防方法の確立に関する研究班」(班長:森島恒雄・岡山大学大学院教授)となったが全国調査が引き続き行われ、今回、平成14/152002/03)年度調査がまとめられた。

調査は各都道府県からの一次調査の報告に基づき二次調査を依頼、また全国の約2,500の小児科入院施設を有する病院に直接二次調査用紙を発送し、一次調査にもれた症例の報告を依頼したものである。

2002/03シーズンはA/H3N22/3、B型1/3の割合の流行であったが、流行規模は最近10年間では中程度であった。調査の結果では、合計160例のインフルエンザ関連脳症の報告が得られた。これは、1998/99の一次調査報告数217例に次ぐ症例数であった。地域別には、九州、中国・四国、関西地方に多く、関東以北の症例は少なかった。患者の年齢では、2歳にピークがあり、4歳および7歳以上の症例が例年に比較して多かった。ウイルス型別では、「A型」57%、「B型」15%、「インフルエンザ抗原陽性(型不明)」19%であった。脳症の予後については、「後遺症なし」35%、「後遺症あり」20%、「経過観察中」23%、「死亡」19%であり、やや致命率が高い傾向にあった。

2003/04シーズンはA/H3N2が大半を占める流行であったが、その規模はやはり中程度で、2002/03シーズンをさらに下回るものであった。インフルエンザ関連脳症の報告数はこれまでのところ103例である。また、死亡率は約10%と低下していた。ただし、2003/04シーズンについては、現在二次調査が行われている段階であり、報告数の増加により今後数値が変わる可能性がある。

脳症患者のワクチン歴の有無(不明を除く)に関しては、「ワクチン接種無し」83%、「2回接種」14%、「1回接種」3%であった。これは2001/02シーズンにおける脳症患者のワクチン接種率7%を上回るものである。また、これもまだ最終結果ではないが、2003/04シーズンの接種率は24%であった。これらの調査結果からは、インフルエンザワクチン接種は必ず脳症の発症を防げるというものではないといえる。今後さらに、予防接種の脳症予防効果あるいは軽症効果について検討を続ける必要がある。

200311月、感染症法改正の際に急性脳炎はこれまでの基幹病院定点報告から、5類全数把握疾患に改められ、すべての臨床医に届出が求められるようになった。さらに2004年3月、この急性脳炎には、インフルエンザ脳症なども含まれることが明確にされた。この改正によって今後本症については、国の発生動向事業によってもその実態が明らかになっていくことが期待される。しかし、治療法・予防法の確立などのためには、さらに詳細な全国調査の継続が必要であり、適切な症例調査方法などについては今後の重要な検討課題となる。

なお本邦におけるインフルエンザ脳症の存在は海外でも認識されるようになり、サーベイランスの強化の結果、米国でも類似症例が存在することが明らかになっている。

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1−5 インフルエンザ脳炎・脳症(平成14年12月発行)

 国立感染症研究所ホームページ「IASR」中、14年12月号より抜粋

 インフルエンザと脳炎・脳症にはそれほど明らかな関係はみられていなかったが、1990年前半頃よりわが国においてインフルエンザ流行中に脳炎・脳症の発生報告がみられるようになった。

 そして1998年、1999年にはインフルエンザの急激な増加と急性脳炎・脳症の増加の一致が感染症サーベイランスの上からも明瞭に見られるようになった。

 そのような背景の中「インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学および病態に関する研究班(インフルエンザ脳症研究班)(班長:森島恒雄名古屋大学医学部教授)が発足し、厚生労働省ではこれについて研究費の助成を行いその実態に関する調査をすすめている。

 これまでは、厚生労働省結核感染症課が各都道府県に依頼を行いアンケートを実施、研究班がこれをまとめる形で、1999年1月1日〜3月31日に217例、 同じく2000109例、200163例を該当例としている。

 2002年はこの調査を結核感染症課から研究班に依頼の形として、118例の報告を受けた。

 さらに研究班では、入院施設を有しかつ小児科を標榜する全国約3,300の医療機関に直接アンケート行い、118例の他に109例の報告を得て合計227例を2002年の調査数としている(200211月集計)

 これまでのところ、欧米などではインフルエンザシーズン中の脳炎・脳症の多発はないとされる。

 日本だけの現象か、そうであるならばその原因は何か、あるいは欧米では何か気づかれていないか別の疾患として取り扱われているのかなどについては、調査中であり、海外との情報の交換を行っている。

 2002/03シーズンにおいては、香港、韓国などとの共同調査を行う予定である。

 これまでのまとめによれば、患者の年齢分布は5歳以下、1〜2歳に集中し、0歳での発症は比較的少ない。

 インフルエンザ発症(発熱)から神経症状発現までの日数は、当日または翌日に集中している。

 2002年調査では患者年齢分布は2歳にピークがあり、1、3歳がその前後に位置するが、0歳は学童と同程度の低さであり、インフルエンザ脳症は幼児に多い疾患であるといえる。

 神経症状として多いものは、痙攣(91)、嘔吐(25)、異常行動(19)、見当識障害(13)などであり、インフルエンザ脳症親の会のアンケートでも幻視・幻覚・異常興奮などの「意味不明の言動」などがしばしば出現することが指摘されている。

 予後は、調査開始当時致死率約30%、重度後遺症9%、軽度後遺症17%、完治43%であったが、2002年の調査では致死率15%、重度後遺症8.5%、軽度後遺症13%、完治50%と改善傾向にある。

 疾病の存在に関する知識の普及、重症例の治療の進歩、解熱剤使用の制限などがその要因としてあげられるが、明らかな予防法、効果的な治療法については現在検討中である。

 本症はAソ連型(H1N1)、A香港型(H3N2)、B型いずれにも見られるが、割合としてはA/H3N2型によるものが多い。

 しかし、いったん発病すると重症度に差は見られない。

 2002年調査では227例中AH1(11)AH3(32)、亜型不明A型(抗原検出キットで診断された)(127)、B型(20)であった。

 本症の病態についてはいまだ不明であるが、高サイトカイン血症と血管内皮細胞の障害が指摘されている。

 病理学的に脳浮腫は著明であるが炎症細胞の浸潤は目立たず、ウイルス抗原は脳内では検出されないところより、本症はインフルエンザ脳炎というよりも脳症であるとする考え方の方が強い。

 一般的検査では、ASTALTLDHなどの逸脱酵素やCrCKの上昇が特徴的であり、また、予後も悪い。

 血小板の減少も、予後不良の兆候であり、5万/μl以下ではほとんどの例が死亡している。

 本症に対する有効な治療法は、まだ確立されていない。

 いわゆるサイトカインストームに対するステロイドパルス療法、グロブリン大量療法、血漿交換、脳低体温療法、ATIII療法など、多施設共同による検討が始められている。

 これらのプロトコールは、本症研究班のメンバーの一員である横浜市大小児科横田教授らのところで入手が可能である。

 抗インフルエンザ剤の有効性あるいは重症化予防への効果、インフルエンザワクチンの本症発症予防効果などについては、 引き続き調査が行われている。

 本症研究班では、 これまでにジクロフェナクナトリウムおよびメフェナム酸が、本症の予後悪化に関与する可能性を指摘、厚労省および小児科学会において、それぞれ対策がとられた。

 2001(平成13)年5月30日、厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会で15歳未満の小児において、インフルエンザ罹患中におけるメフェナム酸の使用を原則禁忌とし、ジクロフェナクナトリウムのウイルス感染症における投与を原則禁忌とすることが決定された。

 インフルエンザ流行中の解熱剤については、比較的安全といわれているアセトアミノフェンなどを必要最小限の使用にとどめることが良い、といえる。

 基礎疾患のない日常は元気であった幼児に見られることの多い本症は、研究班に報告のあったもので年間約100200例が発症し、無治療では30%が死亡、約25%が何らかの後遺症を残す極めて重篤な疾患である。

 報告のなされていないものを含めれば約500例が発症していると予想される。

 インフルエンザの治療・診断が飛躍的に進んでいる中、本症の解明、有効な予防法・治療法の確立が強く求められている。

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1−4 2001年1〜4月期 (平成14年3月公表)

 国立保健医療科学院ホームページ「厚生科学研究成果データベース」中、「インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学及び病態に関する研究」より抜粋。

 本研究では、2001年1〜4月の間に発症した患者について厚生省保健医療局結核感染症課において実施された一次調査63例について詳細な二次アンケート調査を実施した。

○疫学

 2000/2001年における一次調査の報告数は63例であった。これは同シーズンのインフルエンザの流行が極めて小規模であったことによると思われる。

 2001年における解析の上での問題として、1.ウイルス学的診断が主にウイルス抗原の検出に偏り、ウイルスの分離による診断が減少していた(この年はA型検出キットが市販され普及した)。2.従ってA香港型かAソ連型かの鑑別ができない例が多かったことである。ウイルス分離は、貴重な情報をもたらす診断法であり、引き続き実施されていくことが望ましい。

○臨床像

 63例中、死亡は9例で、致命率は14%であり、それ以前の2年間の30%に比べ、有意に低下していた。

 年齢的には2歳がピークとなり、また5・6歳の比率も高かったのが特徴である。

 最高体温と予後との関連では、39度台が最も多く、ついで38度台、40度台であった。41度台、42度以上は計3例と少なかったが、致死率は67%と高かった。

 抗ウイルス剤の使用と予後については、(中略)アマンタジンを投与した群と投与しなかった群、ノイラミニダーゼ阻害剤を投与した群と投与しなかった群で比較すると、これら抗ウイルス剤を投与した群で予後がよい傾向が認められた。ただし、症例数が少ないため、2002年の症例を含め、最終的な解析を行いたい。

 脳CT所見の異常は62%に認められた。特に脳浮腫を伴うもの、低吸収域を伴うものが多く、結果として脳萎縮を示した症例も8%に認められた。

 解熱剤については今シーズンは使用されなかった症例、あるいはアセトアミノフェンのみ使用した症例が多かった。

○解熱剤のインフルエンザ脳炎・脳症への関与について

 研究班としてはインフルエンザにおいて、解熱剤を使用するのであれば、アセトアミノフェンを重ねて推奨したい。

○本症の病態について

 Reye症候群がアスピリンの禁止で、米国において激減していったことは周知の事実であるが、わが国のインフルエンザ脳症においては、一部のNSAIDsの制限が患児の予後の悪化を防ぐ可能性は高い。しかし、解熱剤未使用例やアセトアミノフェンのみ使用した症例からも本症が多く発症しており、その規制だけではインフルエンザ脳炎・脳症の発症を防ぐことができず、発症の要因は別にあると考えた方がよい。

○発症起序

 現在まで、研究班として考えられている本症の発症起序について、図の21に示した。

 

○治療

 昨年度より、インフルエンザ脳炎・脳症治療研究会が別途組織され、本症の重症例の特殊治療試案が作られ、全国的な治療法の確立のための多施設共同研究が進行している。

 特に2002年1月、(中略)新たにシクロスポリン療法を加えて治療試案を全国3500の病院に配付した。

 今後とも、研究班としてはインフルエンザ脳炎・脳症治療研究会の多施設共同研究を支援しつつ、最終的には本症の治療のガイドライン作りを目指したい。

○日本での多発に関する研究

 本症がなぜわが国で多発するかについては、未だ不明な点が多い。現在、米国、CDC、アジアにおいては韓国、香港などと本症の疫学国際共同研究が進行中であり、その結果が期待される。

○リハビリテーションについて

 本症の後遺症は、約25%の児に認められ、長期にわたる重い障害を残し、家族や社会にとっても大きな負担となる。いかに神経後遺症を軽くしていくかは重要な課題であり、早期の、特に急性期におけるリハビリテーションの開始と、痙攣の予防が大きなカギとなろう。今後さらに検討を続けたい。

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1−3 2000年1〜3月期 (平成13年3月公表)

 国立公衆衛生院ホームページ「厚生科学研究成果データベース」中、「インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学及び病態に関する研究」より抜粋。

 本研究では、2000年1〜3月の間に発症した患者について厚生省保健医療局結核感染症課において実施された一次調査、109例について詳細な二次アンケート調査を行い、本症詳細を明らかにすることを試みた。

 2000年二次調査結果の概要

 200013月のインフルエンザ脳炎・脳症全国二次調査の症例は91(男子46例、女子45)と、前年に比べ発症数は約半数と低下したが、ほぼインフルエンザの流行の規模に一致していた。

 ウイルス株はAH1ソ連型とAH3香港型が主で、B型はほとんど認められなかった。

 AH3香港型の発症頻度がやや高い傾向が認められた。

 患者は1歳をピークに5歳以下が大半であり、また、致命率は約30%であった。

 患児の最高体温の分布は40度台が最も多く、39度台がそれに次いだ。

 痙攣を伴う患児は71.6%と多く、また、嘔吐30.7%、頭痛15.9%、見当識障害11.4%、出血傾向6.8%、幻視・幻覚2.3%などが特徴的であった。

 予後の悪化の指標となる検査については血小板数の低下、AST/ALT/LDH/NH3/Crの上昇が予後悪化の因子であった。また、白血球の上昇、プロトロンビン時間の延長及び高血糖も予後悪化の予測因子となりうる。

 脳CT所見については低吸収域を示す症例、また急性期、著明な脳浮腫を示す症例の予後は悪かった。

 病理学的検討本症の病理検討会を2回にわたり実施し、その結果、全例に高度な脳浮腫を認め、一方、脳内に炎症細胞の浸潤は認められなかった。

 また、脳内にウイルス抗原は検出されなかった。

 血管透過性の亢進を示す所見が得られ、一部の症例では血球貪食症候群の病理像が認められた。

 解熱剤の影響について今年度、91症例の検討の中からジクロフェナクナトリウムが明らかに致命率を上昇させる結果を得た。

 一方、アセトアミノフェンについては昨年度同様、致命率を上昇させる傾向は認められなかった。

 病態について

 本症の病態については不明な点が多いが、サイトカインの高値(血中及び髄液中)、血管内皮細胞の傷害などが特徴的であった。

 ウイルス学的には現在までのところ神経毒性の強い変異ウイルスの出現は認められていない。

 また、本症はわが国において多発する傾向があるが、HLAなどの検索では特徴的な結果は得られていない。

 次年度、さらに研究を推進する必要がある。

 治療・予防について

 治療についてはまだ有効な治療法は確立していない。

 しかし、本年度調査では抗ウイルス剤(アマンタジン)の投与が予後の改善に役立つ可能性が示唆された。

 また、重症例の治療法についてはインフルエンザ脳炎・脳症治療研究会において多施設共同研究が進行中である。

 昨年度の調査では、発症例の中でワクチンの接種者は認められなかった。

 しかし、今年度の調査では3例がワクチンを接種しており、うち2名が死亡する結果を得た。

 したがって、ワクチンが本症の予防に効果的であるか否かについては、さらに検討を続ける必要がある。

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1−2 1999年1〜3月期 (平成11年6月25日公表)

 1999年1−3月期について厚生省が初めて全国的なインフルエンザ脳炎・脳症の実態調査を行った。

 厚生省ホームページ[報道発表資料]中、「インフルエンザの臨床経過中に発生した脳炎・脳症について」より抜粋

性・年齢階級別報告数

  0歳 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 7歳 8歳 9歳 10歳 11〜15歳 16〜20歳 21歳〜
21 23 26 10 108
28 14 18 13 109
17 49 37 44 23 217

 

転帰別報告数

  後遺症無し 後遺症有り 死亡 経過観察中
22 50 29 108
34 36 29 10 109
56 86 58 17 217

 

転帰別の脳炎・脳症までの日数

  後遺症無し 後遺症有り 死亡 経過観察中 全体
脳炎・脳症までの日数 1.7 1.4 1.1 1.3 1.4

 

脳炎・脳症に関連した症状

 連絡票中の脳炎・脳症の状況及び経過に関する自由記載欄に記入があった208例についてみると、何らかの意識障害、痙攣が最も多く、次いで麻痺、嘔吐、異常行動、さらに多臓器不全(MOF)が4例、播種性血管内凝固症候群(DIC)が3例に記載されていた(図2)。

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1−1 1997〜1998年冬季 (平成11年3月公表)

 国立公衆衛生院ホームページ「厚生科学研究成果データベース」中、「インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的観点からの緊急研究」より抜粋

1997−98年シーズンにおける小児インフルエンザ脳炎・脳症死亡例のアンケート調査

目的

 1997−98年冬季、全国的に小児を中心にインフルエンザA型(H3N2 Sydney株)の流行が認められた。

 この時期に一致して、急性脳炎・脳症が多発し、多くの死亡例も報告された。

 しかし、従来よりインフルエンザに関連した脳炎・脳症及びその死亡例の報告は限られた地域別であり全国規模での調査報告はないのが現状である。

 今回、北海道、千葉県、神奈川県、愛知県、三重県、大阪府、福岡県、熊本県の8都道府県でのインフルエンザ脳炎・脳症の小児死亡例についてアンケート調査を行いその実態を明らかにした。

結果

 8都道府県から34名の15歳以下の小児死亡例の報告があった。

考察

 今回調査した8都道府県の15歳以下の小児の人口の合計は全国の約31%にあたる(福岡県については福岡市及びその近郊に限った)。

 今回の34名という死亡数から全国的に約100名の小児のインフルエンザ脳炎・脳症の死亡例があったと推定が可能である。

 今回のアンケート調査からもれた症例もかなりあり、さらに実数は多いものと考えられる。

 本調査とは別に行われた愛知県/千葉県の共同研究の中で、確定診断のついたインフルエンザ脳炎・脳症の致死率は約20%であった。

 したがって、死亡数から逆算した小児の急性脳炎・脳症の全体数はかなり多いものと考えられる。

 このように小児におけるインフルエンザ脳炎・脳症は非常に予後が悪くまた症例数も多い。

 本症の病体の解明と治療・予防法の確立が急務であると思われる。 

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 平成11年度 感染症危機管理研修会講演要旨抜粋

 国立感染症研究所ホームページ「感染症情報センター」の「保健所のページ」中、「平成11年度感染症危機管理研修会」より抜粋

平成11年度 感染症危機管理研修会が平成11年6月24,25日各都道府県、政令市の感染症対策に関わる医師を対象に開催されました。

「インフルエンザ脳炎・脳症 」(名古屋大学医学部保健学科 教授 森島恒雄)

 インフルエンザに伴う中枢神経系の障害(急性脳炎・脳症)の報告は近年増加している。特に1997-98年、1998-99年冬季、わが国においてA型インフルエンザ(H3N2, Sydney株)の大きな流行がみられ、社会的な問題となった。成人においては特に老人を中心に主に肺炎による多くの死亡例が報告された。一方、小児においては高熱と痙攣を伴い急速に意識障害が進行するインフルエンザ関連急性脳炎・脳症(以下インフルエンザ脳炎・脳症)の報告が相次いだ。これら小児のインフルエンザに伴う急性脳炎・脳症の全国的な実態調査を行い、それに基づいて現在有用な病態診断法や有効な治療・治療法がない本症において対策を立てていくことが重要である。以下に我々が実施した2つの調査の概要をまとめた。

1. 1997-98年冬季のH3N2A型インフルエンザ流行時期に一致して発症し、インフルエンザとの関連が強く疑われた小児の急性脳炎・脳症の死亡例の調査を行った。対象は8都道府県(北海道、千葉県、神奈川県、愛知県、三重県、大阪府、福岡県、熊本県)を選びアンケートを発送して34名の死亡例の報告があった。上記の8都道府県のカバーする15歳以下の小児人口は約31%である。したがって同年度日本全体では100名以上の小児の死亡があったと推定している。その特徴として年齢は2歳が最も多く1-5歳が多数を占めた。約80%に40℃以上の高熱が認められた。神経症状の発現は発熱と同日か翌日に集中しており、多くは痙攣を伴った。急速に意識障害が悪化し、発病後1-3日で死亡した。AST・ALT・LDHなどの異常高値や出血傾向を認めた症例が多かった。インフルエンザの診断は咽頭からのウイルス分離6例、PCR法3例、血清抗体の上昇8例、臨床症状のみ17例であった。その病態を分類すると、(1)Reye症候群、13%(2)Hemorrhagic shock and Encephalopathy(HSE)、33%(3)広義の急性脳炎・脳症、47%(4)急性壊死性脳症、7%であった。

2.1997-98冬季のH3N2A型インフルエンザに伴う小児の急性脳炎・脳症の中で、インフルエンザ感染がウイルス学的にはっきり証明できた症例について愛知県及び千葉県全域の調査を実施した。この2県の15歳以下の小児人口は全国の約10%にあたる。この時期36例のインフルエンザ感染が証明された小児の脳炎・脳症の報告があった。年齢は2歳が最も多く(10例)次いで1歳、3歳、6歳が各5例で、平均4.4歳であった。診断は咽頭からのウイルス分離9例、PCRによるインフルエンザゲノムの検出は14例、EIAキットによる抗原検出は2例、A型インフルエンザ(H3N2)に対する有意な抗体価の上昇は30例に認められた。全例に39℃以上の高熱と上気道症状を示し、発熱から神経症状(痙攣及び意識障害)発現までの日数は2日以内が全体の約90%を占めた。臨床症状は、発熱に加え嘔吐20%、頭痛20%痙攣75%、などであった。検査結果としては脳波の異常ほぼ100%、頭部CTの異常(主に脳浮腫)が60%、AST/ALT/LDHの上昇は症例の約60%に認められた。髄液所見は、多くの例で細胞の増多や髄液中の蛋白の増加は認められなかった。ウイルス学的に診断がついたこれら36名の内で長期的に予後が追跡できた症例は33例で、後遺症なく治癒したもの17例(52%)神経後遺症を残したもの9例(27%)、死亡例7例(21%)であった。以上の結果から確定診断のついたインフルエンザ脳炎・脳症の予後はきわめて悪く、致命率は約20%と考えられた。これら36例の患者の中でワクチンの接種者は認められなかった。

まとめ
 この2つの調査から、小児のインフルエンザ脳炎・脳症は決して稀な疾患ではなく、インフルエンザ流行年では年間少なくとも数百例の発症があり、その中の約20%(100例以上)が死亡していた。今回の調査からもれたと思われる症例もあり、実数はさらにこれを上回ると推定される。発症は急激であり、高熱、痙攣とともに意識障害が急速に進行し死に至る。インフルエンザ発病後数日で死に至ることが判明した。その病態については不明な点が多いが、従来インフルエンザとの関連が示唆されていたReye症候群(一部の症例はそれに近似する)とは異なる病態(いわゆる急性脳炎・脳症、HSE、急性壊死性脳症など)を示す症例が多くを占めた。これは、従来欧米など諸外国からの報告では認めれなかった点である。また本症に対する治療もまだ有効なものは明らかにされていない。従って本症の病態の解明及び早期診断、早期治療法の確立が急務であり、さらに厚生省研究班を中心に現在、1998-99年冬季における小児のインフルエンザ脳炎・脳症の詳細な調査を実施中である。

これらの調査は以下の先生方との共同研究である。
富樫武弘(札幌市立札幌病院小児科) 黒木春郎(千葉大学小児科) 
横田俊平(横浜市立大学小児科) 藤本伸治(名古屋市立大学小児科) 
庵原俊昭(国立療養所三重病院) 杉田隆博(大阪市立都島保健所) 
奥野良信(大阪府立公衆衛生研究所) 楠原浩一(九州大学小児科) 
布井博幸(熊本大学小児科) 黒崎知道(千葉海浜病院小児科) 

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 医薬品等安全性情報151号

 厚生省ホームページ「報道発表資料」中、「医薬品等安全性情報151号」より抜粋

1 ライ症候群とサリチル酸系製剤の使用について

(1)はじめに

 ライ症候群は,昭和38年にオーストラリアの病理学者Reyeにより最初に報告された症候群であり1),主として小児においてインフルエンザ,水痘等のウイルス性疾患に罹患した後,嘔吐,意識障害,けいれん等の急性脳症の症状を呈し,肝臓ほか諸臓器の脂肪沈着,ミトコンドリア変形を伴い,GOT,GPT,LDH,CPKの急激な上昇,高アンモニア及び低プロトロンビン血症,低血糖症といった症状が1週間程度発現する病態であり,その発生はまれであるが,予後は不良である。

 昭和57年,米国においてサリチル酸系製剤,特にアスピリンの使用とライ症候群の関連性を疑わせる疫学調査結果が報告された2),3)。調査結果を受け,米国では,アスピリンとライ症候群の関連性を明らかにするには,更なる調査が必要であるとし,CDC(Center for Disease Control and Prevention),FDA(Food and Drug Adminis-tration)等による合同研究班において調査が行われた。

 一方,我が国においては,米国での疫学調査結果を受け,安全対策の見地から,インフルエンザや水痘罹患時のサリチル酸系製剤使用とライ症候群との関連について,昭和57年以降,厚生省医薬品情報4)や医薬品副作用情報5)の発行,使用上の注意の改訂及びドクターレターの配布等6)の措置を講じ医療関係者や一般消費者への注意喚起を図ってきた7)。

 また,これと並行して,我が国におけるライ症候群発生とサリチル酸系製剤との関連性を明らかにするため,「Reye症候群に関する調査研究」(昭和57年度〜平成元年度)及び「重篤な後遺症をもたらす原因不明の急性脳症と薬剤との関係に関する調査研究」(平成2年度〜平成8年度)として研究班を組織し,基礎的,臨床的及び疫学的に継続した調査研究を行ってきた。

 このほど,研究班による一連の調査研究が終了したこと,海外でもいくつかの新しい文献,提言があることを踏まえ,中央薬事審議会副作用第二調査会において,ライ症候群とアスピリンを含むサリチル酸系製剤との関係について考察を行った。

(2)アスピリンの使用とライ症候群の発症の関係について

1)米国における疫学調査結果

 昭和55年から昭和57年にかけて米国でライ症候群に関する4つのケース・コントロール・スタディーが行われ,その結果,ライ症候群患者ではライ症候群を発症しなかった患者に比べ,インフルエンザ,水痘などの先行疾患罹患時に,アスピリン等のサリチル酸系製剤が使用されている割合が有意に高いという報告がなされた。

 これらの報告に対し,先行疾患の重症度の点で,ライ症候群の患者と対照群の患者とのマッチングが不適切であるなどの批判があった。このような批判を踏まえ,CDC,FDA等による合同研究班は昭和59年2月から5月の間にパイロットスタディーを実施し,昭和60年に結果を公表した。このパイロットスタディーでは,30例のライ症候群の患者と145例の対照群についてのケース・コントロール・スタディーが行われた。対照群は,ライ症候群患者と同じ病院に入院した者,同じ救急室に収容された者,患者と同じ学校の生徒,電話番号から無作為に抽出した者の4つの母集団から,それぞれライ症候群患者と同じ年齢,人種でマッチした先行疾患を有する者が選ばれた。ライ症候群の患者群と対照群との間で,インフルエンザ等の先行疾患罹患時におけるサリチル酸系の製剤の使用率を比較したところ,いずれの対照群と比較しても,ライ症候群患者の群でサリチル酸系製剤の使用率が90%以上になっており,有意に高いという結果が得られた(表1)8)。

 さらにCDC,FDA等の合同研究班により,昭和60年1月から昭和61年5月にかけて本調査が実施され,昭和62年4月に結果が公表された。この調査では,27例のライ症候群の患者群(男14例,女13例,平均年齢11.0歳)と年齢,人種及びライ症候群発症前の先行疾患の種類,発症時期を一致させた140例の対照群(男72例,女68例,平均年齢10.6歳)が比較され,アスピリンを服用していた者はライ症候群の患者群では93%,対照群で29%であり,アスピリンとライ症候群との間に強い疫学的関連性が見られるとされている。また,ライ症候群患者群の,サリチル酸系製剤総使用量と1日平均投与量は,それぞれ対照群に比して多く,有意の差が見られており(P=0.0052,P=0.0015)(表2),サリチル酸系製剤の1日使用量が20mg/kg/日以上の者がライ症候群患者では67%に対し対照群では22%で,アスピリン使用量がライ症候群患者群では対照群に比べ多いことが認められている9)。

2)日本における疫学調査結果

 米国での調査結果に対し,日本ではアスピリンの投与量が少ないこと,ライ症候群の発症数もかなり少ないこと,ライ症候群の発症年齢分布が大きく異なっていることなど両国間でのアスピリンの使用状況とライ症候群の発生状況が明らかに異なっており,我が国において独自にアスピリンの使用とライ症候群との関連性を明らかにすることが必要とされたため,厚生省では研究班を組織し,日本におけるライ症候群患者の全容を把握すべく,小児診療を行っている全国の小児専門医療機関(約1400施設)を対象として疫学調査を中心に調査研究を行ってきた。

 昭和59年度から開始された「Reye症候群に関する調査研究」の結果,日本におけるケース・コントロール・スタディーでは,各群間に有意差は認められず,ライ症候群とサリチル酸系製剤との疫学的関連性は見られなかった(表3)。なお,対照群患者は,ライ症候群患者の性,年齢,先行疾患の症状をマッチさせて選ぶようライ症候群の報告のあったそれぞれの施設に依頼した。

 その後,調査研究が平成元年度まで続けられたが,ライ症候群の発生メカニズムについて,ライ症候群とインフルエンザ等の感染症との関連性の検討が不十分であること,小児におけるライ症候群と先天性代謝異常症との鑑別診断の不確実性が存在していることなどいくつかの問題点が指摘され,因果関係を明らかにするためには,更に調査研究を継続する必要があるとされた。これを受けて,平成2年度から平成8年度まで「重篤な後遺症をもたらす原因不明の急性脳症と薬剤との関係に関する調査研究」が実施されたが,昭和60年に使用上の注意の改訂やドクターレターの配布等の安全対策が講じられた結果,アスピリンの幼小児への使用が激減し,ライ症候群患者でアスピリンを使用した例がほとんど見られなくなったこともあり,疫学的な手法を用いて,ライ症候群の発症とアスピリン使用との関連性を明らかにすることはできなかった。

 なお,我が国において,昭和59年度から昭和63年度までに研究班に報告のあったライ症候群の患者と急性脳症の患者との発症前の医薬品の使用状況を比較すると,ライ症候群においてアスピリンの使用が多い(確定ライ症候群33.3%(7/21),臨床的ライ症候群20%(13/65),急性脳症0%(0/32))という結果が出ている12)が,当調査会においてこの結果について改めて検討した結果,疫学調査に必要な情報が必ずしも十分得られなかったことから各患者の先行疾患時の状態が十分把握されておらず,ライ症候群の患者と急性脳症の患者の先行疾患の重症度等の点でマッチングが不十分であったり,また,先行疾患に対する治療方法等にバイアスが生じている可能性もあり,この結果からライ症候群とアスピリンとの関連性を明らかに結論付けるには無理があると考えられる。

(3)アスピリン使用の減少とライ症候群発症の関係について

1)米国の状況

 米国では,アスピリンとライ症候群の発症に関する疫学調査結果が報告された後,小児のインフルエンザ等へのアスピリンの使用を控えるキャンペーンが行われ,また,昭和61年及び昭和63年に添付文書の改訂の措置などが行われたことに伴い,ライ症候群の発症は減少した。CDCが行ったライ症候群サーベイランスによると米国でのライ症候群の報告数は,昭和56年には年221例13)であったのに対し,昭和61年には101例14),平成元年には25例15)であった。

 最近(平成6年)になって,米国の小児病院ではアスピリンによると疑われるライ症候群が再び増加してきており,再度注意喚起が必要であるとする報告がある16)。

2)日本の状況

 日本におけるライ症候群発症の状況は,「Reye症候群に関する調査研究」「重篤な後遺症をもたらす原因不明の急性脳症と薬剤との関係に関する調査研究」により明らかにされている。これらの調査では,全国の大学附属病院,国公私立病院,その他の小児専門医療機関約1400施設を対象に,ライ症候群を含む原因不明の急性脳症患者の来院経験の有無に関する一次調査(アンケート調査)が行われ,その結果,「経験有り」と回答した医師に対してその患者の症状,検査所見等の詳細を求める二次調査を行い,詳細報告を研究班で評価した後,各症例を米国CDCと同様の診断基準に基づいて,急性脳症,ライ症候群(臨床的ライ症候群及び確定ライ症候群)及びその他に分類し集計解析が実施された。昭和57年のライ症候群とサリチル酸系製剤に関する米国の疫学調査結果についての医薬品副作用情報等の発行や,昭和60年の使用上の注意の改訂・ドクターレターの配布を行った後のライ症候群発生報告数の経年変化については,研究班においては,調査票の回収率をもとにライ症候群の発症数を推定し,その結果,平成元年度以後になって明らかに減少したとしており,その減少にはサリチル酸系製剤の使用頻度の減少が何らかの役割を果たしたように考えられるとしているが17),回収率が昭和58年,59年度では11.0%で,その他の年度においては30〜50%と大きな差があること,また,昭和58年,59年度とそれ以後では調査方法に相違があること,一方で報告された患者数においての比較(表4)においても明確な減少傾向は認められていないことから全体として減少傾向がうかがえるが,年によって増減があることから明確に減少してきているとは言い難いと考えられる。

 また,アスピリンが小児に対してほとんど使用されなくなった後でも,ライ症候群の報告が依然として見られること,他方において,インフルエンザ様疾患の流行とライ症候群の患者報告数を平成4年〜5年及び平成6年〜7年において月別に比較したところ,いずれにおいてもインフルエンザ様疾患は2月をピークとして発生しており,これと同時期にライ症候群の患者報告数が増加する傾向が認められること(図)から,ライ症候群はアスピリンの使用とは無関係にインフルエンザ感染それ自体か,あるいはそれに不明の因子が加わることによって発症する可能性があるように考えられる。

(4)最近の動向

 ライ症候群とアスピリンの関連性については,各国における報告に相違が見られる18),19),20)ことから,長期間にわたり各国で専門家による検討が続けられている。また,国際的に,ライ症候群の臨床的病態21)や発症メカニズムの研究22)が進むにつれて,昭和55年に設定されたCDC診断基準のみでは,先天性の代謝異常症等が除外しきれないことが指摘されており,その確定診断の困難さについて論争が続けられている。

 他方,米国小児科学会は,米国におけるこれまでの調査について総合的なレビューをした結果,「米国においては,アスピリンの使用とライ症候群発症の危険性との間にほぼ間違いなく因果関係がある」という論文を本年7月に掲載しており23),米国内における調査研究の一応の総括が行われている。

(5)まとめ

 米国では,ライ症候群とサリチル酸系製剤の使用の間に疫学的な関連性が示されたが,我が国の調査ではライ症候群発症とサリチル酸系製剤の使用との間に疫学的な関連性は明らかにされなかった。この原因としては,米国の疫学調査結果ではアスピリンの使用量の増加とともに危険性が増すとされているが24),我が国の小児でのアスピリンの使用量は通常10〜20mg/kg/日,最大でも20〜30mg/kg/日程度であり,米国でのライ症候群患者のアスピリン使用量26.4mg/kg/日(中央値)(表2)に比べて低いこと,また,日本と米国ではアスピリンの1人当たりの消費量に十倍以上の差があったこと,さらには,米国に比べて日本でのライ症候群の発生数が非常に低かったことなどにより,疫学的な関連性が明らかとならなかった可能性が考えられる。

 また,米国では,小児へのアスピリンの使用が減少することに伴いライ症候群が著しく減少したが,我が国では米国で見られたような明確な減少は見られなかった。なお,米国ではライ症候群の好発年齢層が10代であったのが,ライ症候群の減少後は好発年齢層が低下し,日本のライ症候群の発症状況に近づいている。

 このように,日米の疫学調査結果が異なったものになったのは,日米のアスピリンの使用状況の差が結果に反映されたものと考えられる。

 以上考察したとおり,我が国においてライ症候群発症とサリチル酸系製剤の使用との間に疫学的な関連性は明らかにされていないが,我が国とサリチル酸系製剤の使用実態が異なるものの,米国小児科学会における総合的なレビューも踏まえ,我が国においてもサリチル酸系製剤の小児への使用のあり方について今後も注意を払っていく必要がある。

(6)今後の安全対策について

 ライ症候群の発症とその使用における関連性については,アスピリン以外のサリチル酸系製剤では必ずしも明らかではないが,他のサリチル酸系製剤がアスピリンと類似の構造を有していることなどから,これらアスピリン以外のサリチル酸系製剤についても念のためにサリチル酸系製剤とライ症候群との関連性について,使用上の注意の改訂等により改めて一層の注意喚起を行い,所要の措置を講じることが適当と考えられる。

1)アスピリン等のサリチル酸系薬剤を含有する医療用医薬品について

1.アスピリン,アスピリン・アスコルビン酸,アスピリンダイアルミネート,サリチル酸ナトリウム,サザピリンのいずれかを含有する医薬品について

 使用上の注意の「重要な基本的注意」に記載されているライ症候群に関する記述内容について以下のとおり改訂する。

(現行)
 サリチル酸系製剤とライ症候群との因果関係は明らかではないが,関連性を疑わせる疫学調査報告がある。15歳未満の水痘・インフルエンザの患者にやむを得ず投与する場合には,慎重に投与し,投与後の患者の状態を十分に観察する。 [ライ症候群:小児において極めてまれに水痘,インフルエンザ等のウイルス性疾患の先行後,激しい嘔吐,意識障害,けいれん(急性脳浮腫)と肝ほか諸臓器の脂肪沈着,ミトコンドリア変形,GOT,GPT,LDH,CPKの急激上昇,高アンモニア血症,低プロトロンビン血症,低血糖症等の症状が短期間に発現する高死亡率の病態である]

(改訂案)
 サリチル酸系製剤の使用実態は我が国と異なるものの,米国においてサリチル酸系製剤とライ症候群との関連性を示す疫学調査報告があるので,本剤を15歳未満の水痘,インフルエンザの患者にやむを得ず投与する場合には,慎重に投与し,投与後の患者の状態を十分に観察する。
 [ライ症候群:以下現行と同じ]

2.サリチルアミド又はエテンザミドを含有する医薬品について

 サリチルアミド,エテンザミドについては,他のサリチル酸系薬剤と異なり代謝によりサリチル酸を生じないが,一層の安全対策の観点からこれらの成分についても1の改訂案と同様の記載を行う。

2)アスピリン等のサリチル酸系薬剤を含有する一般用医薬品について

 サリチルアミド及びエテンザミドを含有するかぜ薬,解熱鎮痛剤の使用上の注意に,現行のアスピリンを含有する一般用医薬品と同様の使用上の注意を記載する。

 なお,アスピリン等のサリチル酸系薬剤を含有するかぜ薬,解熱鎮痛剤の承認基準については,今後,改定を検討する。

〈参考文献〉
1)Reye RDK., et al.:Encephalopathy and fatty degeneration of the viscera:a disease entity in childhood. Lancet, 2:749−752(1963)
2)CDC:Follow-up on Reye Syndrome−United States. MMWR, 29:321−322(1980)
3)CDC:Reye Syndrome−Ohio, Michigan. MMWR, 29:532, 537−539(1980)
4)厚生省医薬品情報No.9(1982)
5)医薬品副作用情報No.53(1982),同No.72(1985)
6)厚生省医薬品情報No.10(1985)
7)医薬品副作用情報No.81(1986),同No.86(1987)
8)Hurwitz ES., et al.:Public Health Service Study on Reye’s Syndrome and Medications, Report of the Pilot Phase, The New Engl. J. Med., 313(14):849−857(1985)
9)Hurwitz ES., et al.:Public Health Service Study of Reye’s Syndrome and Medications, Report of the Main Study, JAMA, 257(14):1905−1911(1987)
10)Reye症候群に関する調査研究 昭和59年度研究事業報告書
11)Reye症候群に関する調査研究 昭和60年度研究事業報告書
12)Reye症候群に関する調査研究 平成元年度研究事業報告書
13)CDC:National Surveillance for Reye Syndrome−1981:Update, Reye Syndrome and Salicylate Usage. MMWR, 31(5):53−56, 61(1982)
14)CDC:Reye Syndrome Surveillance−United States, 1986. MMWR, 36(41):689−691(1987)
15)CDC:Reye Syndrome Surveillance−United States, 1989. MMWR, 40(5):88−90(1991)
16)Poss WB., et al.:A Reemergence of Reye’s Syndrome, Arch Pediatradolesc Med, 148:879−882(1994)
17)重篤な後遺症をもたらす原因不明の急性脳症と薬剤との関係に関する調査研究 平成8年度研究事業報告書
18)Hall SM., et al.:Preadmission antipyretics in Reye’s syndrome. Archives of Disease in Childhood, 63:857−866(1988)
19)Orlowski JP., et al.:Reye’s syndrome:a case control study of medication use and associated viruses in Australia. Cleveland Clinic Journal of Medicine,57(4):323−329(1990)
20)Gladtke E., et al.:Monatsschr Kinderheilkd, 135(10):699−704(1987)
21)Hardie RM., et al.:The changing clinical pattern of Reye’s syndrome 1982−1990. Archives of Disease in Childhood. 74:400−405(1996)
22)吉田一郎:Reye症候群におけるミトコンドリア異常. 小児内科,30(9):1190−1993(1998)
23)Ralph E., Kauffman MD.:Reye’s Syndrome and salicylate Use. American Academy of Pediatrics(1998)
24)Pinsky MPH., et al.:Reye’s Syndrome and Aspirin. JAMA, 260(5):657−661(1988)

表1 米国パイロットスタディーの結果

調査期間      サリチル酸系製剤の使用率(使用者数/患者数)
        ライ症候群 対照群 入  院 救急室 学  校 電  話
1984/2      患者群 小  計 対照群 対照群 対照群 対照群
〜1984/5     93%   46%  23%   28%   59%  51%
          (28/30)(66/145) (5/22) (7/25) (24/41)(30/57)

表2 ライ症候群とサリチル酸系製剤の使用量(米国の本調査結果より)

       サリチル酸系製剤総使用量      サリチル酸系製剤
            (mg/kg)         1日平均使用量(mg/kg/日)
           最少値 最大値           最少値 最大値
ライ症候群     4.1 〜 534.1            4.1 〜 89.0
            中央値 74.3            中央値 26.4
対 照 群     2.4 〜 357.1            2.5 〜 51.0
            中央値 24.5            中央値 11.1

表3 日本における調査結果

           昭和56年10月〜昭和57年3月       昭和58年4月〜昭和60年3月
        サリチル酸系製剤及び合剤の使用率10) サリチル酸系製剤及び合剤の使用率11)
              (使用者数/患者数)            (使用者数/患者数)
確定ライ症候群*1        25.0%                     33.3%
                   (1/4)                     (3/9)
臨床的ライ症候群*2       34.6%                    25.0%
                   (9/26)                    (3/12)
対照群                53.8%                    16.2%
                   (7/13)                    (6/37)
*1:肝生検で組織の脂肪沈着を確認したライ症候群
*2:組織の脂肪沈着を確認するための肝生検をしていないライ症候群

表4 ライ症候群患者の年度別発生報告数 (年度)

            昭和58 59 60 61 62 63 平成元 2 3 4 5 6 7
臨床的ライ症候群     9 16 21 17 16  9    11 9 12 7 5 16 10
確定ライ症候群      4  2 7  6 9  2    7 1  2 2 0 1  1
ライ症候群合計     13 18 28 23 25 11   18 10 14 9 5 17 11
(注)表中の数値は2次調査結果による

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 感染症の話(急性脳炎)

 国立感染症研究所ホームページ「感染症発生動向調査(週報)」の「2003年第13週」より抜粋

 急性脳炎は種々の病原体による脳組織の炎症に起因する疾患群の総称である。したがって、確定診断は本来脳組織の病理学的検索で行われるべきものであり、病原体診断も脳組織における病原体の検出でなされるべきものである。しかしながら臨床的には、通常神経学的所見に基づいて診断され、病原体診断も髄液、あるいはその他の部位からの病原体の分離や、血清学的検査などから行わざるを得ないことも多い。また、脳炎の臨床症状があるにもかかわらず、脳組織での病原体も炎症も確認できないことがあり、この場合には脳症という診断名が用いられる。これは代謝性の原因その他を含み、感染症とは異なる病態を意味する。

疫 学
 前述の如く、急性脳炎は種々の病原体による疾患群の総称であるので、全体としては単一の疫学パターンをとらないことが多い。しかし、特定の原因が関係したアウトブレイクも時にみられる。エンテロウイルス71による手足口病流行に伴う脳炎の発生が1997年マレーシア、1998年台湾において問題となった。1997年には我が国でも大阪で、本症に関連すると考えられる急死例3例が確認されたため、サーベイランスが強化されたが、幸い大きな流行とはならなかった。その後、2000年夏季に兵庫で、エンテロウイルス71型による手足口病の流行時に脳炎死亡例がみられた。また、近年冬のインフルエンザシーズンに一致して脳症が増加する傾向が認められており、インフルエンザ脳炎/脳症研究班(班長:名古屋大学森島恒雄教授)によれば、1998/99シーズンに217例、1999/2000に109例、2000/01に63例、2001/02に227例が集計されている。

病原体
 本疾患の原因としては多種多様なものが含まれ、ウイルスとしては単純ヘルペスウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、ヒトヘルペスウイルス6などが含まれる。マイコプラズマ、スピロヘータ、レプトスピラ、リケッチア、真菌、寄生虫(トリパノソーマ、旋毛虫など)も脳炎を合併することがある。世界的にみると、黄熱ウイルスなどのアルボウイルス、狂犬病ウイルスなどによる脳炎も重要であるが、両者ともに発生動向調査ではそれぞれの疾患に分類される。1998年にはマレーシアにてウイルス性急性脳炎の流行発生があり、患者およびブタより新種のウイルスが分離され、ニパウイルス(Nipah virus)と命名された。1998年9月〜1999年3月の間に急性脳炎として登録された患者は265名で、うち死亡は105名であり、それぞれの半数以上がニパウイルス単独によるものであり、他はニパウイルスと日本脳炎ウイルスの混合感染によるもの、日本脳炎ウイルス単独によるもの、などであることがマレーシア政府により発表された。1930年代からアフリカ、西アジア、中東などでの発生が知られていたウエストナイルウイルス脳炎が、1999年にアメリカ大陸として初めてニューヨークにて発生した。1999〜2000年の症例数は83例、死亡9例と報告されている。2001年末までに、北米では149例のウエストナイル脳炎患者が発症し、死亡者は18人認められている。しかし2002年には爆発的な増加を来し、症例数4,161例、死亡277 例(2003年3月12日時点の集計)の発生がみられた。ウイルスの分布は、ヒトあるいは動物での感染でみると米国の46州にまで拡大している。この原因ウイルスはフラビウイルス属に属し、日本脳炎ウイルスと近縁である。

臨床症状
 病原体が多様であるので、症状も様々である。一般的には、最初は発熱、頭痛などの非特異的症状で始まることが多い。小児では不機嫌、腹部膨満、悪心、嘔吐などの症状も見られる。その後、神経障害に起因する症状が急激に、あるいは緩徐に出現する。種々の程度の意識障害、奇異行動、痙攣、脳神経症状、麻痺、あるいはその他の巣症状など多彩な症状がありうる。代謝性疾患、中毒、あるいは脳出血、脳血栓、脱髄性疾患などの器質的疾患、てんかん痙攣重積、急性小脳失調などの鑑別が問題になることもある。CT、MRIなどの画像診断では顕著な異常を見いだせないことが多いが、種々の程度の脳浮腫が見られる場合もあり、また、ヘルペス脳炎の際に特徴的な側頭葉の病変が発見されることがある。突発性発疹に伴う脳炎では、single photon emission CT(SPECT)で脳血流の低下、回復期のCTで軽度の脳萎縮なども報告されている。

病原診断
 多種多様な病原体が考えられるが、単純ヘルペスウイルスおよび水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、あるいは、マイコプラズマ、寄生虫などの特異的治療薬がある病原体を鑑別することが重要である。それには疫学状況、随伴症状、臨床所見、病歴聴取、検査所見、画像診断、あるいは家族歴などが参考になることもある。診断はウイルス分離や、中和抗体の上昇で行う。ウイルス分離のための検体は、随伴症状により、咽頭拭い液、血液、便、尿、髄液などから採取されることが多いが、脳炎の原因とするためには、髄液から分離することが望まれる。しかし、髄液検査(腰椎穿刺)はそれにより脳ヘルニアを誘発して危険になる場合がある。したがって、脳圧亢進の有無をみるために眼底検査を行い、乳頭浮腫がある場合には腰椎穿刺を行うべきでない。また、エンテロウイルスの場合は、便からのウイルス分離を試みる価値がある。また、PCR法などによる髄液からの病原体DNA検出は、高感度の迅速診断として評価されるが、病原体が急性脳炎の直接的原因とするには慎重でなければならない。しかし、ヘルペス脳炎の場合には、髄液からのウイルス分離が困難であり、病初期の髄液を用いたPCR法が勧められる。

治療・予防
 単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルスではアシクロビル、サイトメガロウイルスではガンシクロビル、マイコプラズマ、寄生虫などでは適切な抗菌薬、抗寄生虫薬などによる治療を行う。痙攣の抑制、脳圧亢進・脳浮腫対策、呼吸管理、体液管理などの支持療法も重要である。予防については、ワクチンがない疾患に対しては個々の病原体伝播経路に応じた対策が必要となる。

感染症法における取り扱い
 急性脳炎は4類感染症定点把握疾患であり、全国約500カ所の基幹定点医療機関から毎週報告がなされている。報告の基準は以下の通りである。

○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3つの基準を全て満たすもの
・発熱
・突然の意識障害
・以下の疾患の鑑別診断
熱性けいれんや代謝性疾患、脳血管性疾患、脳腫瘍、外傷など(炎症所見が明らかではないが同様の症状を呈する脳症も含まれる)
 また、原因となった病原体の検索が望ましく、判明した場合にはその名称についても併せて報告すること。

○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの

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 感染症の話(インフルエンザ)

 国立感染症研究所ホームページ「感染症発生動向調査(週報)」の「2005年第8週」より抜粋

 インフルエンザ(influenza)は、インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症であるが、「一般のかぜ症候群」とは分けて考えるべき「重くなりやすい疾患」である。流行が周期的に現われてくるところから、16世紀のイタリアの占星家たちはこれを星や寒気の影響(influence)によるものと考え、これがインフルエンザの語源であると言われている。インフルエンザは、いまだ人類に残されている最大級の疫病である。

疫 学

 毎年世界各地で大なり小なりインフルエンザの流行がみられる。温帯地域より緯度の高い国々での流行は冬季にみられ、北半球では1 〜2 月頃、南半球では7 〜8 月頃が流行のピークとなる。熱帯・亜熱帯地域では、雨季を中心としてインフルエンザが発生する。

 わが国のインフルエンザの発生は、毎年11 月下旬から12 月上旬頃に始まり、翌年の1 〜3 月頃に患者数が増加し、4 〜5 月にかけて減少していくというパターンを示すが、夏季に患者が発生し、インフルエンザウイルスが分離されることもある。流行の程度とピークの時期はその年によって異なる。

 インフルエンザ流行の大きい年には、インフルエンザ死亡者数および肺炎死亡者数が顕著に増加し、さらには循環器疾患を始めとする各種の慢性基礎疾患を死因とする死亡者数も増加し、結果的に全体の死亡者数が増加することが明らかになっている(超過死亡)。ことに高齢者がこの影響を受けやすい。

 わが国の感染症発生動向調査における1999/2000〜2003/04の過去5シーズン(前年第36週〜翌年第35週)でのインフルエンザ届け出状況をみると、多い方から順に2002/03、1999/2000、2003/04、2001/02、2000/01シーズンであった。

病原体

 インフルエンザウイルスにはA ,B ,C の3 型があり、流行的な広がりを見せるのはA 型とB 型である。A 型とB 型ウイルス粒子表面には赤血球凝集素(HA )とノイラミニダーゼ(NA )という糖蛋白があり、これらが感染防御免疫の標的抗原となっている。とくにA 型では、HA には15種類、NA には9種類の抗原性の異なる亜型が存在し、これらの様々な組み合わせを持つウイルスが、ヒト以外にもブタやトリなどその他の宿主に広く分布している。

 A 型インフルエンザでは、数年から数十年ごとに世界的な大流行が見られるが、これは突然別の亜型のウイルスが出現して、従来の亜型ウイルスにとって代わることによって起こる。これを不連続抗原変異(antigenic shift)という。1918 年にスペインかぜ(H1N1)が出現し、その後39年間続いた。1957年にはアジアかぜ(H2N2)が発生し、11 年間続いた。1968 年には香港型(H3N2)が現われ、ついで1977年にソ連型(H1N1)が加わり、現在はA型であるH3N2とH1N1、およびB型の3種のインフルエンザウイルスが世界中で流行している。

 わが国では、1999/2000〜2003/04の過去5シーズンにおける分離インフルエンザウイルスを亜型でみると、AH1型は1999/2000、2000/01、2001/02の3シーズン連続してある程度分離されたが、2002/03、2003/04の2シーズン連続してほとんど分離されなかった。AH3型は過去5シーズン連続して分離されたが、2000/01シーズンには少なかった。B型は、1999/2000シーズンにはほとんど分離されず、2000/01、2001/02、2002/03の3シーズン連続してある程度分離され、2003/04シーズンには少なかった。

 一方、同一の亜型内でも、ウイルス遺伝子に起こる突然変異の蓄積によって、HA とNA の抗原性は少しずつ変化する。これを連続抗原変異(antigenic drift )という。インフルエンザウイルスでは連続抗原変異が頻繁に起こるので、毎年のように流行を繰り返す。

臨床症状

 A型またはB型インフルエンザウイルスの感染を受けてから1〜3日間ほどの潜伏期間の後に、発熱(通常38 度以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが突然現われ、咳、鼻汁などの上気道炎症状がこれに続き、約1週間の経過で軽快するのが典型的なインフルエンザで、いわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強い。とくに、高齢者や、年齢を問わず呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患を持つ患者、糖尿病などの代謝疾患、免疫機能が低下している患者では、原疾患の増悪とともに、呼吸器に二次的な細菌感染症を起こしやすくなることが知られており、入院や死亡の危険が増加する。小児では中耳炎の合併、熱性痙攣や気管支喘息を誘発することもある。

 近年、幼児を中心とした小児において、急激に悪化する急性脳症が増加することが明らかとなっている。厚生労働省「インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班」(班長:岡山大学医学部森島恒雄教授)で行った調査によると、毎年50〜200人のインフルエンザ脳症患者が報告されており、その約10 〜30%が死亡している。臨床経過や病理所見からは、ライ症候群とは区別される疾患と考えられるが、原因は不明である。現在も詳細な調査が続けられている。

病原診断

 急性期の患者の咽頭ぬぐい液やうがい液などを検体とし、発育鶏卵羊膜腔や培養細胞(MDCK細胞など)に接種してウイルス分離を行う。

 血清診断には、従来から補体結合法(CF)、赤血球凝集阻止反応(HI)などがあるが、いずれも急性期と回復期の抗体価の4 倍以上の上昇で診断するので、確定診断には2〜3週間を要する。CF抗体はウイルスの内部抗原を認識する抗体で、インフルエンザA,B,Cの型別は出来るが、A型ウイルスの亜型の判別は不可能である。この抗体は感染後比較的速やかに消失することが多いので比較的最近の感染の推定に利用することができる。HI抗体は感染後も長期にわたって検出され、また型別、亜型別の判定や抗原変異の程度を比較的簡単に測定することが可能であり、血清疫学調査やワクチンの効果を調べるのに有用である。遺伝子診断法(RT−PCR)が利用されるが、実験室内の交叉汚染や特異性の問題もあり、結果の判定・評価には慎重さが求められる。

 最近は外来、あるいはベッドサイドなどで20〜30分以内に迅速簡便に病原診断が可能なインフルエンザ抗原検出キットが、ことにわが国において広く利用されるようになり、臨床現場におけるインフルエンザの検査診断が容易になった。一方、その限界、抗ウイルス薬使用との関係など、新たな問題も一部生じている。

治療・予防

 従来、対症療法が中心であったが、1998年にわが国でも抗A型インフルエンザ薬としてアマンタジンを使用することが認可された。アマンタジンはB型ウイルスには無効である。神経系の副作用を生じやすく、また、患者に使用すると比較的早期に薬剤耐性ウイルスが出現するため、注意して使用する必要がある。ノイラミニダーゼ阻害薬(ザナミビル、オセルタミビル)は、わが国では2001年に医療保険に収載された。ノイラミニダーゼ阻害薬はA型にもB型にも有効で、耐性も比較的できにくく、副作用も少ないとされており、発病後2日以内に服用すれば症状を軽くし、罹病期間の短縮も期待できる。

 対症療法としての解熱剤、ことにアスピリンは、ライ症侯群との関係が推測されており、小児への使用は原則禁忌である。また、インフルエンザ脳症の悪化因子として、非ステロイド系解熱剤のうちジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸は同じく小児には基本的に使用しないように、とされている。解熱剤が必要な場合は、なるべくアセトアミノフェンを使用する。肺炎や気管支炎を併発して重症化が予想される患者に対しては、これらの合併症を予防するために、抗菌薬の投与が行われることがある。インフルエンザ脳症の治療に関しては確立されたものはなく、臨床症状と重症度に応じた専門医療機関での集中治療が必要である。

 予防としては基本的事項として、流行期に人込みを避けること、それが避けられない場合などにはマスクを着用すること、外出後のうがいや手洗いを励行することなどが挙げられる。

 現在わが国で用いられているインフルエンザワクチンは、ウイルス粒子をエーテルで処理して発熱物質などとなる脂質成分を除き、免疫に必要な粒子表面の赤血球凝集素(HA)を含む画分を密度勾配遠沈法により回収して主成分とした、不活化HAワクチンである。感染や発症そのものを完全には防御できないが、重症化や合併症の発生を予防する効果は証明されており、高齢者に対してワクチンを接種すると、接種しなかった場合に比べて、死亡の危険を1/5に、入院の危険を約1/3〜1/2にまで減少させることが期待できる。現行ワクチンの安全性はきわめて高いと評価されている。

わが国においては、インフルエンザワクチンは定期予防接種二類として、1)65歳以上の高齢者、2)60歳以上65歳未満であって、心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能に、またはヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に一定の障害を有する者に対しては、本人の希望により予防接種が行われ(一部実費徴収)、また万一副反応が生じた際には、予防接種法に基づいて救済が行われる。その他の年齢では任意接種となる。

また2004年7月からは、原則として発症者の同居家族や共同生活者で、しかも特殊条件の者を対象にリン酸オセルタミビルの予防投与が承認されたが、接触後2日以内の投与開始を条件としている。

感染症法の中でのインフルエンザの取扱い

 インフルエンザ(高病原性鳥インフルエンザを除く)は五類感染症定点把握疾患に定められており、全国約5,000カ所のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000、内科約2,000)より毎週報告がなされている。報告のための基準は以下の通りである。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の4 つの基準を全て満たすもの
1. 突然の発症
2. 38 ℃を超える発熱
3. 上気道炎症状
4. 全身倦怠感等の全身症状
なお、非流行期での臨床診断は、他疾患とのより慎重な鑑別が必要である。
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの

学校保健法の中でのインフルエンザの取扱い

 インフルエンザは学校において予防すべき伝染病第2種に定められており、通常は解熱後2日を経過するまで出席停止となる。しかし病状により伝染のおそれがないと認められたときはこの限りではない。

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