
Amber Box
sample
The Daffodils
まずは、堆肥を施用する。今回は水はけをよくすることが目的だからバーク堆肥を用意した。花壇に満遍なく巻いてからホー(日本では鍬)を使って混ぜ込むように耕す。残りのバーク堆肥はバーミキュライトと混和して、植木鉢用に準備する。バーク堆肥とバーミキュライトを使うのは軽くすることが目的だ。 植えるのは、Daffodil、スイセン。球根は三種類用意した。中心部が濃いオレンジで大きなラッパになるもの、全体が同じ鮮やかな黄色のもの、少し早く咲く白色。 スイセンは秋に植えると早春から歌うように咲き始める。ここイギリスでは、春を告げる花だから、安価なことも相まって鉢植えも切り花も大変人気がある。先日、仕入れで赴いた花市場の一角で球根を見かけたとき「育てやすい」と受けた助言を真に受けて、ホームユースの商品用に自分たちでも育ることにしたのだった。 確かに日本ではどこそこで勝手に咲いていたような気がする。なぁ、とケンがアヤに同意を求めると、誰かが植えて育てていたんだろうと、首を振られた。それはきっとそうだろう。当たり前のことを言われたのに不服そうに少量の土をケンがアヤの足元にかけると、相手も不服そうにその土を踏みつけた。 今、ニ人で協力して、球根の定植というミッションに当たっている。土の準備ができたら、棒を立て、糸を張り、糸に付けられた赤い色を目印にして等間隔にアヤがスコップで小さな穴を掘る。次にケンが丸々とした球根を置いていき、埋めていく。 「俺ら、やっぱいいコンビネーションだな。仕事が早い」 さっきの土をかけた悪態はどこへやらで、コロンコロンと球根を花壇に調子良くおさめるとケンは、また、なぁ、とアヤに同意を求めた。植木鉢に土をよそっていたアヤは、また同意しかねると首を振る。 「仕事は早いのも大事だが、丁寧なのも大事にしてくれ」 「オレ、丁寧だろ」 「土がかかってない」 確かに、何箇所か球根の茶色い肌がのぞいている。数歩後退して、指先で土をすくって球根にそっとかけるとケンは、あーあと天を仰いだ。お互いにお互いのことをよく知っているはずである。よく知っているからこそ、こういうキャッチボールの投げ合いに相手がちょっと苛立つような棘を混ぜることがある。日常の僅かな憤りや不満をどうもお互いの前で隠せない。怒っているわけでも憎いわけでもない。そういう風向きの時がある。 「アヤセンセイ、これでよろしいでしょうか」 仰々しく『先生』と呼びかけるとアヤもわざとらしく、いいんじゃないかと大きく首を縦に振る。それから、アヤは口元を緩めて、一秒だけ笑みを浮かべた。ふざけたケンの言い回しへのリアクションだろう。そんな顔されたら、とケンは息を飲んだ。そして、息を吐いてから、アヤに近づくと、 「オレは、おまえと仕事をするにはいいコンビだって思ってるんだからな」 と言い放った。それから、植木鉢を持つと、土を六分目まで入れ、球根を埋めるようアヤに手渡した。アヤが球根を置くと、またそれをケンに返す。そして、残りの土を足して、完成する。息のあった流れ作業でどんどんと植木鉢が量産されていく。何も言い返さないのかと、ケンが思っていると、ふっとアヤと目が合った。 「言うほどではないが、俺もそう思ってる」 「は?」 「そこそこいいコンビネーションだろう」 ほら、最後の一つと手渡された鉢にケンは球根がきれいに隠れるように丁寧に土をよそった。あとはたっぷり水を与えるだけ。 「アヤ」 「なんだ」 「オレら、すげぇいいコンビだろ」 「言い過ぎだ」 そして、さっきよりは長く、口を開けてアヤは笑った。お互いのことをよく知っているから、よく計測された距離感の中で、会話をしている。淡々と過ぎる日常は、非日常に比べて、どこかよそよそしくもあるけれど、お互いに気にかけるほど、良くないことはきっとどこにもないのだ。 今日、植えたスイセンはやがて芽吹き、春には高らかに歌い出す。そこそこのコンビである二人は、手際良く仕事したことをお互いに褒めあって、ミッションを終了とした。